特急「伊那路」の概要

特急「伊那路」は豊橋から飯田を結ぶ列車で、全区間飯田線を走行します。

飯田線では1983年に急行「伊那」が廃止されて以降、優等列車は運行されていませんでしたが、1992年に臨時急行「伊那路」が運行されました。その後、急行に使用されていた165系の置き換えと特急格上げのため373系が導入され、特急「伊那路」として定期列車化されました。

飯田線はほぼ全区間に渡って線形が悪く、日本一遅い特急列車とも言われています。表定速度は約50km/hほどです。

「伊那路」の由来は伊那谷を通る伊那街道の事を指しますが、「伊那路」は伊那谷と呼べる箇所をほとんど走っていません。

 

 

特急「伊那路」の停車駅

※2024年3月現在

特急「伊那路」は現在1日2往復運行されており、停車駅は全列車統一されています。

ローカル特急らしく無人駅にも停車し、短距離移動の需要も拾っています。

特急「伊那路」では割安な自由席特急料金が設定されており、30km以内なら330円、50km以内なら660円です。

 

 

特急「伊那路」の使用車両

特急「伊那路」には373系が使用されています。

3両編成で運行されており、グリーン車は連結されていません。

1号車とセミコンパートメント席は指定席、2,3号車は自由席です。

 

 

乗車レポート(2023/11/24)

この日は豊橋発飯田行きの「伊那路1号」に全区間乗車しました。

今回は3号車の自由席に座りました。モーター音を聞きたいのでね。

この日は休日ということもあってか、思ったよりも多くの人で賑わっていました。

・豊橋~本長篠

豊橋を出発した列車はしばらく名鉄と線路を供用する区間を走ります。全国的にも珍しい区間で飯田線の名物となっています。

豊川放水路、豊川といった大きな川を渡り、平井信号所で名鉄と別れます。

豊川までは複線区間ですが、そこから先は単線区間となります。

飯田線のすれ違い可能な駅では分岐器を渡ることになりますが、この分岐器の制限速度はおおよそ30km/くらいなので、駅を通過するときは停まりそうな速度で通過していきます。

 

新城辺りまでは平坦な道のりでしたが、三河東郷を過ぎると長篠城にかけて巨大なS字カーブを描きます。

なぜこんなカーブをしているのかはよくわかりませんが、地形的にそうするしかなかったのでしょうか?

飯田線は全区間がお金のない民間私鉄によって建設されたため、地形に逆らわない形で線路が敷かれています。

長篠城近くでは有名な長篠の戦の戦場跡を通ります。

▲豊川を渡るときの車窓。右側の岸に長篠城がありました。

 

・本長篠~中部天竜

本長篠からは天竜峡までずっと山の中を走り続けます。

本長篠からは宇連川に沿って走りますが、特に景色がいいのが湯谷温泉発車後です。

進行方向右側には「鳳来峡」と呼ばれる渓谷が続いており、川底が板を敷いたように平面なため「板敷川」とも呼ばれています。水の透明度が非常に高く、川底がしっかりと見えます。

 

しばらく宇連川沿い走りますが、三河川合を過ぎたあたりで宇連川は分かれます。

この三河川合から先は三信鉄道が開業させた区間で、飯田線で最も過酷な工事が行われた区間です。

東栄を通過すると列車は静岡県に入ります。

静岡県に入ってからは相川、大千瀬川に沿って走り主要駅の中部天竜に到着します。

 

・中部天竜~天竜峡

中部天竜から先は飯田線の深淵ともいえる区間です。

中部天竜辺りからは天竜川に沿って走りますが、すぐ天竜川とは別れ峯トンネルという約3kmの長大トンネルをくぐります。

昔は天竜川沿いに走っていましたが、佐久間ダムの建設にあたり山の向こうに線路が移設された経緯があります。

峯トンネルをくぐった後は水窪川に沿って走りますが、途中に飯田線名物の渡らずの鉄橋があります。

城西から向市場の間にある第六水窪川橋梁は対岸に渡ると見せかけて、途中でカーブし川を渡らずに進んでいきます。

トンネルが建設途中に崩壊し、崖を迂回するためにこの橋が架けられたと言われています。

▲飯田線の名物として知られる渡らずの橋。

 

この橋を通ってしばらくすると水窪に到着します。

水窪はこの辺りでは一番の大きな街で、川の対岸に広がる街並みを見ると大都会に思えます。

水窪を過ぎると飯田線最長のトンネルである「大原トンネル」をくぐります。

大原トンネルは約5kmの長さがある長大なトンネルで、「伊那路」は猛スピードでこのトンネルを通過します。

 

大原トンネルを潜り抜け、大嵐を過ぎると進行方向左に天竜川が見えます。

飯田線はここから終点辰野までずっと天竜川に沿って進むことになります。

もうこの辺りになると家はおろか道路さえも見えない超山奥を突き進むことになります。

特急列車でこんな景色を楽しめるのは「伊那路」くらいではないでしょうか。

一方で飯田線の大嵐から天竜峡まではおびただしい量のトンネルが掘られています。

現在の技術であれば長大トンネルで一気にショートカットするところですが、当時の三信鉄道にそんなお金も技術もないので最低限のトンネルを掘りまくって線路を建設しました。

それくらい厳しい地形であると感じさせると同時に、よくこんな所に鉄道を敷いたなとつくづく実感します。

▲人が近づいてはいけないような超山奥を走る特急「伊那路」。

 

小和田、中井侍など特急通過駅は日本有数の秘境駅ばかりですが、特急停車駅である平岡や温田の周辺には大きな街が形成されています。

はたから見れば田舎ですが、散々人気のない場所を走ってきて急に街が見えてくると、大都会に見えてきます。

▲温田駅周辺。泰阜村の駅ですが、対岸に阿南町の街が広がっており、実質阿南町の駅となっています。

 

温田から先もひたすら天竜川に沿って走り続けます。

この辺りになると天竜川のすぐ近くを走るようになり、コバルトブルーの水面が美しく輝いています。

天竜峡の手前では天竜川を渡り少し長いトンネルをくぐります。

そうするとさっきまでの秘境区間が嘘のような開けた土地に出て天竜峡に到着します。

 

・天竜峡~飯田

この日は殆どの人が天竜峡で降りていきました。

天竜峡からも天竜川に沿って走りますが、さっきまでの秘境区間のような雰囲気は全くなく、普通の街中を走ります。

この辺りは伊那谷(伊那平)と呼ばれるエリアで中央アルプスと南アルプスに挟まれたエリアとなっています。

そのため、天気が良ければ左手に中央アルプス、右手に南アルプスを見ることが出来ます。

切石を通過すると川を渡り、超急カーブを曲がりながら急こう配を登り終点飯田に到着します。

豊橋から飯田までの所要時間は約2時間30分です。

▲飯田駅到着手前。約10万人の人口を有する飯田市の市街地はさすがに大きいです。

 

 

総評

乗車時間: ★★★

スピード感:★★★

車窓:   ★★★★

 

日本一遅いと言われる特急「伊那路」ですが、飯田線を走る分にはそこまで気になりませんでした。

普通列車で乗り通すよりははるかに快適です。

一方、車窓の方はかなり素晴らしいです。

特に大嵐から天竜峡の人も寄せ付けない超秘境区間は他の路線で見られるような光景ではありません。

このような景色をゆっくり見られるのも「伊那路」の魅力で、遅いことは悪くないことだと思います。

景色がいいので遅くてもあっという間に終点に着いた印象でした。

1日2往復しか運行されていない特急「伊那路」ですが、こんな超ローカル線に特急列車が走っていること自体凄いことです。

飯田線は飯田から先も路線が続いていますが、優等列車は一切運行されていません。

飯田から名古屋や東京、長野県内の主要都市に移動する場合は、高速バスの方が遥かに便利なためです。