短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★54
「花音、僕は死なない。優真も死なない」
律は私を抱きしめる腕に力を込めた。
「あたしね、言えなかったことがあるの」
律は何も言わず、私を片腕で抱きよせたまま前を見つめている。私は喉の奥につかえた大きな堅いものを吐き出すように息んだ。
「麗子さんね、もう死んじゃってるの」
「分かってたよ」
律は私の背中を撫でた。
胸を押しつぶす嗚咽とともに、さらさらととめどなく涙が流れ始めた。律の腕は暖かく、優しかった。まるで私の帰る場所みたいに、私をすっぽりと包み込んでいる。
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