短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★50
「大変、110番」山田さんが言った。
「電話、しないで」
柔らかいよく響く声が、切れ切れに叫んだ。血の雫を落としながら自分の腕をつかんで立ち上がったのは、優真ではなく律だった。
「僕の傷は大丈夫だから」
「律、てっきり、優真かと」ミカが言って、涙をぼろぼろ流し、どうしよう!と叫んで座り込んだ。
音を立てて落ちた小さな包丁を、律が手を伸ばして拾った。
私は律に駆け寄り、タオルで腕を縛り部屋に引き入れた。
再びおもてを見ると、山田さんがミカの両腕を抱いて立ち上がらせたところだった。
「あんたみたいな可愛い子が、あんな男のために、こんなことしちゃだめよ。タクシー呼んであげるから帰りな、迎えが来るまでうちにおいで。少し落ち着かないと」