短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★35
リツのその横顔に目をやると、歌声が耳元によみがえり、視界が滲んだ。
「歌、胸の奥にまで、響いてきた」涙が零れ落ちないよう、私は切れ切れにそっと言った。
「ありがとう。あんまり歌を、ほめられたことなくて」リツは静かにゆっくりと話した。
「可愛いーって声は、いっぱい聞こえたね」
「僕は、歌を聞いて欲しい。僕も優真も、一生懸命作ってるから」
「大丈夫だよ。ちゃんと届いてるよ」
こらえていたけれど、瞳に浮かんだ涙はいっぱいになってこぼれ、こめかみに向かって筋を作った。
リツは何か言いたげに私を見ている。薄闇の中でその眼だけが光を揺らし、色々なことを語りかけてくる。
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