短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★8
「お店の余りものだけど、お二人でどうぞ。しばらく会ってないけど、麗子さんは元気?」
元気だよ、と私はうなずいた。
麗子さんのことは、私と父だけでひっそりと見送ったので、山田さんを含め、誰も知らない。「お葬式なんて湿っぽいことはいや。人知れず静かにいかせて」と麗子さんが日ごろから言っていたからだ。
隠す必要はないのだが、「麗子さんが死んだ」と口にすることが、どうしてもできない。
「さっそくいただきます。今度よかったら山田さんも一緒に」
優真は言って、山田さんの手をふわりと握ってすぐ離した。また今度、私も言って手を振った。