短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★5
数日後、その人と初めてベランダ以外の場所で対面した。彼の名前は、瀬戸優真(ゆうま)といった。
その日、大学の講義が終わってアパートに戻ると、猫がするりと私を追い越して階段を上っていった。猫が駆けていくその先に、黒いギターケースを背負った青年が立っていた。それが優真だった。
目が合った瞬間、私の視界は優真の顔にフォーカスされ、周りの風景が消えた。明け方に見せる寂し気な翳りは少しもない、明るくて無邪気なまなざしだった。
夜明け前のベランダ以外で見る彼は、くっきりとした輪郭を帯び、生き生きとしたものが全身からにじみ出ている。
猫がその膝に耳を摺り寄せると、優真はかがんで猫の体の曲線を、やわらかな動きで撫でた。私がその仕草に見とれていると、
「かわいいね」彼が顔を上げ、私に向かってほほ笑んだので、心臓が血液を押し上げた。