短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★6
「どこの飼い猫かな」
「一番奥の、山田さんのうちの子よ」
熱くなった頬を悟られないように、私は奥の扉に顔を向けて答えた。
「そっか。じゃあ家まで送ってあげよう。俺山田さんと会ったことないから一緒に来てよ」
優真はふわりと猫を抱き上げて立ち上がり、慣れ親しんだ友人に気安く頼みごとをする口調で言った。いいよ、私は答えた。
隣どうしのベランダで、気配だけを感じあいながら重ねた時間は、確実に私たちの距離を親密なものにしていた。
「あら、花音ちゃん久しぶり」
ドアを叩くと、まつげを強調したメイクの山田さんが顔を出し、私を見て目じりのしわを一層深くして微笑んだ。自身の経営する店に出勤する準備を終えたところのようだった。