短編小説 真夏のトライアングル
作:NaNa
★2
ベッドから降り、ふすまの取っ手に指をかけて少し開け、立ちすくんだ。目の前に、波打つ銀色の髪から水を滴らせて、美しい顔をうつむかせた麗子さんが立っていた。
私は口を開け、喉に力を込めた。全身を駆け巡る恐怖を叫びにして吐き出そうとするが、声が出ない。息を吸おうとしても、何も入ってこない。やっとの思いで、ガラスをひっかいたような高い呻き声を絞り出し、私は夢から覚醒した。冷たい汗が背中を濡らしていた。
雨の勢いはほどなくして弱まったが、体の芯はいつまでもぴんと張りつめていた。結局、カーテンの隙間からかすかな光が滲みはじめても、もう一度寝付くことはできなかった。
ベッドから降り、ふすまをそっと開く。麗子さんの部屋は、あの日のままだ。ベッドサイドのたばこの吸い殻、ハンガーにかかった大胆な柄のロングスカート。全て薄闇色のゼリーに閉じ込められたように、何もかもが冷えて、じっと動かず、しんとしている。