女子大生のユミは、
彼氏が飼っている蛇を半年ほど預かることになった。
商社勤務の彼氏いわく、
できれば出張先にも連れて行き、
自分で世話をしたいのだけど、
今回は海外なのでそういうわけにもいかないらしい。
彼氏は無類の蛇好きで、
細長いフォルムや冷たい肌触りがたまらないという。
ユミもまた、蛇にどこか似ている。
身長は160センチ以上あるのに体重は40キロ前後、
ひどい冷え性で平熱も34℃台だ。
しかし、蛇にかなわないのは食欲の違い。
蛇という生き物は拒食状態がデフォといわれるほどで、
数日、数ヶ月単位で食べなくなるようだ。
それを彼氏がしばしば心配していることが、
ユミには妬ましくもあった。
その感情は、彼氏のマンションに移り住み、
蛇の世話をするようになってさらに高まった。
(蛇ってホントに食べない。
私も食は細いほうだけど、レベルが段違いだわ。
ちょっと真似してみようかな)
それからユミは、食事をちょくちょく抜くようになった。
もともと一日2食だったのが一日1食になり、
二日に1食になり……
それでも蛇のほうが食べないので、
三日に1食というところまで挑戦してみた。
が、さすがにそのあたりが限界で、食欲に負けてしまう。
蛇はそんなユミをあざ笑うように、細い目を光らせながら、
拒食を続けた。
逆に、ユミが何も食べなかった日に、
蛇が食べていると、ちょっとだけ勝った気分になる。
当然、体重は減り、1ヶ月後には36キロ、
2ヶ月後には32キロ、3ヶ月後には20キロ台に突入した。
大学で会う友人たちからは心配されたが、
それがちょっと嬉しくもある。
病院に行くことを勧められても、
蛇のようにクールに受け流し、
元気なフリをしてごまかした。
やがて、その必要もなくなることに。
大学に行かず、マンションにこもるようになったからだ。
痩せて体力が落ちたというのもあるが、
動けばお腹が空くので、
なるべくじっとしていようという選択でもあった。
そう、蛇のように。
マンションにこもりながら、どっちが先に食欲に負けるか、
ユミは蛇と対決し続けた。
体重を計るのもだんだん億劫になってきたが、
4ヶ月後には20キロ台半ばとなった。
(私、15キロも痩せたんだ。蛇に比べたら細長くもなく、
冷たくもないことがまだ不満だけど。
でも、彼氏は驚いて心配するだろうし、
もしかしたら褒めてくれるかもしれないわ)
だが、ユミはその反応を確かめることができなかった。
5ヶ月後、連絡がとれないことを案じて
彼氏が一時帰国したとき、
彼女はマンションのなかで息絶えていた。
蛇のように痩せ細り、冷たくなった体で。
一方、蛇は元気に生きていた。
彼氏が無駄とわかりつつ、救急車を呼びながら、
餌を与えると、喜び勇んで食べ始めるのだった。