根室本線一部廃止
JR北海道の根室本線は滝川~根室間443.8kmを結ぶ路線です。
帯広・釧路といった道東の主要都市を通ることから北海道の中でも重要な幹線に位置づけられています。
しかしながらそんな根室本線、全線に渡って需要が高いかというとそうではなく、起点に近い滝川~富良野~新得と末端の釧路~根室間は定期特急列車の運行がなく、輸送密度が2000人を下回っている状態です。
そして、その中でも特に輸送密度が小さいのが富良野~新得間(81.7km)。
ここは輸送密度が200人を下回っており、JR北海道によって通称「赤線区」に指定されています。
赤線区に指定された路線は他にもありますが、そのいずれもが既に廃止、または廃止が決定しています。
根室本線富良野~新得間も例外ではなく、2024年3月31日をもって廃止されることが決定されてしまいました。
石勝線に役目を奪われ…
根室「本線」の一部なのに特急が走らず、利用が極端に少ないため廃止されてしまう富良野~新得間。
なぜこんなに利用が少ないのでしょうか?
それは、新たに開業した短絡線が影響しています。
その名前は石勝線。1981年、南千歳~新得間が全通しました。
この路線は日高山脈を貫く高規格な路線。
これまで根室本線滝川~新得間を通っていた特急列車が石勝線経由となると40分も所要時間が短縮。札幌~道東間の高速化に貢献しました。
その一方、使われなくなった根室本線滝川~新得間はローカル線に転落。
富良野需要がある滝川~富良野間はまだ利用が見込めるものの、山間部の人口希薄地帯を通る富良野~新得間は鉄道利用が極端に少なくなってしまいました。
災害復旧…できず
さらにこの区間の受難は続きます。
2016年8月31日、台風10号の影響により複数箇所で斜面崩壊と土砂流入が発生。
富良野~東鹿越間は10月17日に復旧したものの、東鹿越~新得間の運休は長期にわたり継続しました。
地元は復旧を求めたものの、年間9億8000万円の赤字額の負担を求められたこと、国からの「赤線区」への支援が行われない見通しとなったことから復旧を断念、2024年4月1日での廃止に合意しました。
これにより東鹿越~新得間は復旧されることのないまま廃止することが決定となってしまいました…
ということで、前置きが長くなってしまいましたが、廃止が決定している根室本線富良野~新得間を代行バス区間を含めて乗車してきたのでその様子をご紹介していきます。
山に向かって
2023年7月24日。
(臨)ラベンダー畑から富良野・美瑛ノロッコ3号で富良野にやってきました。
乗車する東鹿越行きは隣のホームに停まっています。
ということでさっそく跨線橋を渡ってお隣へ。
階段を降りていくと、「新得 帯広方面」と書かれた看板が。
すでに帯広はおろか新得にも(鉄道だけでは)行けなくなった今でも表記はそのまま残されています。
こちらが乗車するキハ40-1755。JR北海道色の車両です。
国鉄一般色や首都圏色車両の登板を期待しましたが…まあ、これはこれで。
災害がなければ見られることはなかった「東鹿越行き」の発車標と一緒に。
富良野駅の駅名標。両側に路線が伸びているこの表記が見られるのもあと少しです。
車内に入ると、1両編成の気動車は鉄道ファンで多く占められていましたが、立ち席はなく、1ボックスを使うことができました。
廃止までまだ半年以上あるので廃止前の混雑はこれからといったところでしょうか。
キハ40は窓を開けることができますが、発車前に運転士から「沿線でスズメバチが発生しているので窓は開けないように」という放送がありました。
山間部を通る列車ならでは…なのかな?
14:14、東鹿越行きは定刻通り富良野駅を発車しました。
しばらくは駅周辺の住宅地の中を走行しますが、すぐに途切れ、
畑と山に囲まれた風景へと変わりました。
列車は最初の停車駅、布部に停車。
ここは有名なドラマ「北の国から」の第1話で登場した聖地だそうです。
観光客も多く立ち寄る場所ではあるようですが、駅の利用者は2022年時点で1日2.2人(乗車人員)とほとんど利用されていません。
ドラマに登場した駅舎が廃止後どうなるかはまだわからないそうです…
布部を発車した列車は次に山部に停車。
かつては急行も停車する駅だったそうです。
山部を発車すると車窓の山がだんだん近寄ってきて…
一級河川の空知川も線路に寄り添ってきました。
列車は南富良野町に入り、下金山に停車。
東京大学の演習林があり、以前は木材運搬の森林鉄道がここ下金山(および布部)に接続していました。
続いて停車したのは金山。
JR東海・名鉄・名古屋市営地下鉄の金山駅、そして我らが福岡市地下鉄七隈線の金山駅と同名ですが、北海道の金山駅はずいぶんとこじんまりしています。
名古屋のほうの金山駅の乗車人員が1日7万人超え、福岡の金山駅が1日2000人超えしているのに対し、こちらは1日1.6人(2022年)だそうです。
区別のため、きっぷ上では名古屋のほうの金山駅を(中)金山、北海道のほうを(根)金山と表記することになっていますが、当駅廃止後はどうなるでしょうか?
金山を出ると、次は終点の東鹿越。
金山~東鹿越間は金山ダム建設に伴い、1966年に線路が移設されています。
この区間には「鹿部駅」という駅がありましたがこのとき廃止されているそうです。
ダム完成に伴い「かなやま湖」という大きな湖ができましたが根室本線からその姿をはっきり見ることができるのはほんの1瞬しかありません。
その区間に備えてカメラを構えておくと…
トンネルを抜けた直後、鉄橋でかなやま湖を渡りました…!
かなやま湖は北海道有数の湛水面積を誇り、周辺にはレジャー施設が点在しています。
そのひとつ、かなやま湖ラベンダー園越しに根室本線を眺めることができる場所は撮影スポットとして人気なのだとか。
鉄橋を渡ったあとも列車はかなやま湖の近くを走り…
14:59、終点の東鹿越に到着しました。
廃駅予定が一転?
富良野からここまで40.2km。新得までは残り41.5kmありますが列車で行けるのはここまでです。
東鹿越のホームに立って新得方向を眺めると、信号機は赤を示しているものの、線路はところどころ草に覆われ、使われていないことがわかります。
この信号機が青に変わることがないまま廃止の日を迎えると思うと寂しいですね…
ここから先、新得方面へ向かうには代行バスに乗ることになります。
その前に東鹿越駅の様子を見ていきましょう!
ホームの端に「石灰石」と書かれた石が置いてありました。
実は駅の近くに日鉄鉱業東鹿越鉱業所があり、以前そこから伸びる専用線を通して石灰石の輸送が行われていました。
1997年に貨物列車での輸送は終了しているものの、現在もJR貨物の駅としての登録が行われており、そのまま廃止を迎えるようです。
駅舎の中に入ってみます。
無人駅ということもあって最低限の設備。
とはいえ、待合スペースの椅子には座布団が置かれてあったり、
本や駅ノートらしきものがあったりと地元の人によって整えられているのがわかります。
あまり時間がないので外へ。
この東鹿越駅、もともとは1日の乗車人員が1人程度で、2017年3月のダイヤ改正で廃止される予定でした。
しかしながら2016年8月に台風災害が発生し、代行バスとの乗り換え駅となったことから廃止が取りやめとなり現在まで生き延びています。
そんな数奇な運命をたどった東鹿越駅もあと少し。
駅前で待っていると観光バスタイプのバスがやってきました。
代行バスの旅
これが鉄道が不通の区間を結ぶ根室本線代行バス新得行きです。
「列車代行」の文字が掲げられています。
代行バスとキハ40の出会い。
ここから列車を引き継ぎ新得までの約40kmを担います。
一足先に富良野へと戻るキハ40を見送って、こちらも発車しました。
バスはかなやま湖の湖畔に沿って走ります。
それにしても、観光バスタイプの車両なのでとっても快適ですね~
まるで普通に北海道を観光バスで旅しているみたい。
右側には根室本線の線路を見ながら走ります。
しばらくすると小さな町に入り…
脇道へと進むと見えてきたのは赤い車両?
バスがくるっと回り、駅の前で止まりました。
看板には「幌舞駅」と書かれています。
ここは幌舞駅、ではなく幾寅駅。
1999年に公開された映画「鉄道員(ぽっぽや)」に登場する架空路線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」としてさロケが行われたため現在も映画で使われた看板が残されています。
このロケではJR北海道全面協力のもと、駅前にセットを作ったり、キハ40の前面形状を変更して古い時代の気動車に見えるようにするなどかなり大掛かりに行われたようです。
その改造された車両が駅前に保存されていたキハ40 764(作中ではキハ12 23)で、撮影終了後は快速「ぽっぽや号」などで使用されましたが2005年に廃車、車両前半部のみがここ幾寅で保存されています。
映画では幌舞駅は路線ごと廃止になった設定でしたが、それから25年経ち、列車が来ることのないまま廃止となってしまうという映画よりも過酷な最後を迎えることになってしまったのは残念なことです。
観光地ということもあって若干の乗り降りがあった後、バスは出発。
続いてやってきたのは落合駅です。
この駅の駅構内はかなり広いのですが、列車が来なくなったからというもの草木が生い茂るままに任されており、さながらジャングルと化しています。
駅名標も草むらの中に…
これで現役の駅ということが信じられません。
廃止を迎える前に自然に還りつつある落合駅を後にし、バスは終点の新得へと向かいました。
日本三大車窓を見ながら
落合と新得の間には「狩勝峠」という峠が横たわっており、バスはここから峠道を進んでいくことになります。
鉄道もこの峠を越えるのには難儀していたようで、以前は25パーミルの連続勾配が待ち構える難所だったようです。
1966年により勾配の小さい新線に切り替えられ、現在へと至っています。
勾配を軽減した新ルートでしたが、それにより失ったものもあります。
それが日本三大車窓。狩勝峠越えの当区間が肥薩線矢岳~真幸間、篠ノ井線姨捨駅と並んで三大車窓のひとつとされてきましたが、新線切り替えにより見られなくなりました。
ところが、この区間が代行バスとなり、バスが走る国道38号線が旧線に近いルートを描くことから、皮肉にも三大車窓と謳われた景色がまた見られるようになったのです。
バスはぐいぐい峠道を登っていき…
やがてパッと視界が広がりました!
ここが石狩と十勝の境、狩勝峠から見る十勝平野の眺めです!
ずっと遠くまで見渡すことができ、十勝平野の大きさを実感できます。
あっという間の通過ではありましたが、日本三大車窓に選ばれる所以を感じることができました。
峠を下っていくバスはここで一旦寄り道。
やってきたのは「十勝サホロリゾート」です。
スキー場を持つ大きな施設で、スキー人口が多かった時代には横浜から臨時寝台特急「北斗星トマム・サホロ号」が新得まで運行されるなど昔から人気の高い場所です。
せっかく峠を越えていく代行バスが目の前を通るならということで新得・落合↔サホロリゾート間の送迎バスを兼ねた運行が行われており、送迎バス区間のみの乗車は無料となっています。
乗客の少ない代行バスを有効活用する試みは素晴らしいですが、スキーシーズンでないためか、乗降はありませんでした。
サホロリゾートを出たバスは峠道を下っていきます。
車窓にはそばの花が一面に咲いた姿を見ることができました。
新得町はそばの名産地。
あと少しで収穫の時期を迎えます。
峠を下ったバスは新得の市街地を走り、新得駅前に到着しました。
ということで、代行バス区間を含む、富良野~新得間に乗車しました!
川に寄り添いながら走る区間、広大なかなやま湖を眺める区間、そして映画のロケ地、日本三大車窓…
多彩な風景が旅を彩ってくれました。
山間部を通るということで利用が少なく廃止となってしまうのは残念ではありますが、代替交通機関が運行されるようなので、富良野から十勝方面に抜ける際は利用してみたいですね。
それでは。
★乗車データ
2477D 普通 東鹿越行き 富良野(14:14)→東鹿越(14:59) キハ40-1755
根室本線代行バス 新得駅前行き 東鹿越駅前(15:13)→新得駅前(16:21)
※2023年7月24日乗車
※この記事は暫定版です