side柳生


何故、こんなことになってしまったのでしょう。
幸村くんに「柳生にしかできないことなんだ」など言われれば、断ることは出来ません。
しかし、これは断るべきでした。嘆いても後の祭りですが…。
こんな服装で、2時間も逃亡する自信がありません。
ですが、捕まれば大変な目に遭いますし。

「…どうしましょう」

座って丸めていた体をもっと縮める。そうすると、嫌でも自分の心臓の音が聞こえる。
無事逃げ切れるか、それとも見つかるか。希望と不安が入り混じって、体の底からキュンとします。
もう、何分経ったのでしょうか。チック、タックと時計の秒針が音を刻む。

「!!」

秒針の音とは別に新たな音が聞こえます。カツ、カツと人が歩いている音が。
今日は幸村くんに呼ばれたレギュラーしか居ないはず。
もう誰か来たんでしょうか。丸井くんやジャッカルくん、切原くんなら安心です。
しかし、このまま通り過ぎて下さることが一番です。ですが、そうはいかないかもしれません。
ここは調理室です。特別教室は隠れ易い。そんなところを見落とすとは考え難い。
そんなことを考えていると、足音はちょうどこの教室のドアの前で止まった。

私は口に手を当てて息を殺します。そして、ドアが開くのを待ちます。
神経をドアの方に集中させていると、ガラッと開く音が聞こえる。

私は早く立ち去ることを祈るばかりでした-


sideブン太

柳の一言により、幸村くんはルールを少し変更したみたい。再度ルールを伝えられた。
・柳生のキスを得て勝利。・制限時間は2時間。・学校内ならどこに逃げてもOK。

「じゃぁ、柳生が逃げてから20分後に開始!」

幸村くんは比呂士を縛ってる縄を解く。そして、比呂士の肩を叩く。
比呂士は幸村くんを見て一度頷く。そして、部室から出ていく。
比呂士からは一度も非難の声が出なかった。どうやって、説得したんだろう…。
さて、比呂士を野獣から守るため作戦会議をしねぇとな。
ジャッカルと赤也を呼んで部屋の隅に行く。

「比呂士を野獣から守ろうぜ」

「そうッスね」

「…キスか、頬でもいいんじゃねぇか」

チラッと幸村くんの方を盗み見る。幸村くんから抗議がないから、良いみたいだな。
コッソリ話してるけど、幸村くんには意味がない。

「俺、屋上に行きます!」

「じゃぁ、俺は2階に行くぜ」

「待て!俺は1階や外か!」

「頑張れよ!ジャッカル!」

肩を落としたジャッカルを叩いてやる。 得意だろう、ジャッカル。

「さて、そろそろ開始の時間だ」

幸村くんは部室に掛けてある時計を見て、みんなに開始を知らせる。
俺たちは、部室から出て各々の考えてるところへ向かう。






☆予告

次回からは柳生視点になるよ!
ようやく争奪戦が始まる!まだ一言もしゃべってない人もいるけど、そんなこと構わずに始まる☆
柳生は無事逃げ切れるのか!



sideブン太


部室のドアを開けると、中に2人の姿を捉えることが出来た。
1人はニコニコと微笑みながら、俺たちを出迎えていた。
もう1人は椅子に縛られ、身動きを封じられている。
前者は言わずもがな、我らが部長幸村くん。
後者は、いつもと違う比呂士。

「みんな、よく来てくれたね」

「幸村…これは、どういうことだ?」

幸村くんは相変わらず微笑んでいるが、俺たちは目の前の現状に驚きを隠せない。
比呂士が椅子に縛られていることもそうだが、着ている服が原因だ。
純白のウエディングドレスを着て、薄いピンクの口紅をつけた姿。
鎖骨や肩は見えていて、何とも言えない色香が漂っている。
比呂士は抵抗することを諦めてるのか、大人しくしている。

「さて、みんなを呼んだ理由は他でもない」

幸村くんの言葉に、皆緊張の糸を張る。

「そろそろ、柳生は誰のものか認識して貰おうと思ってね」

まるで自分のものだと言わんばかりなセリフだ。きっと、そうなんだろうけど。

「特に、蓮二や仁王エフンエフン…細目や銀髪にさ」

幸村くん…隠す気なかったんだ。名前普通に言ってるし、その特徴で確定するし。

「というわけで、紳士争奪戦を開始する!ルールは簡単、逃げる柳生からキスを奪えば勝利!柳生が貰える」

「…精市、制限時間はどれくらいだ?」

「俺が勝つまで」

幸村くんは柳の質問に、即答だった。ってか、幸村くんの勝利が前提。

「しかし、制限時間を気にしながら追われる比呂士も、なかなか興奮するものがあると思うが」

柳-!!お前何言ってんの!?幸村くんもそこで考えない!
ああ…そうだった。ここには、比呂士を狙う野獣が4人も居たんだ。幸村くん、柳、仁王、真田。
どうやって、こいつらから比呂士を守ろう。