※仏典童話
「心のはかり」
昔、インドのある国で若い戦上手の王様が座につきました。
なんとその王様は、老人が大嫌いでした。
なので、座についたとき、とんでもないおフレを出しました。

「70を過ぎた者は、向こうの山の奥に捨てよ!」

すると、大臣達が言いました。
「王様、老人たちはいままでこの国を支えてきた宝でございます。
この国は、昔から老人たちを大切に扱ってきました。

そうして、繁栄してきました。
急にそんな法律を作っては、民の心は離れていきます。」

しかし、王様は聞く耳をもちませんでした。

しばらくして、別の国との戦がはじまりました。
とても手ごわい相手でした。
一進一退が続き、王様は作戦を練るためしばらく休戦を申し出ました。

実のところ、相手が悪い戦いでした。
しかも、休戦の途中で、お妃が囚われて人質になってしまったのでした。

王様が悔しい思いをしていると、向こうから使者がやって来ました。


「我が王は、そちらの妃をたいそう気に入って、正式に向かい入れたいと言っております。
武力での勝負は、すでについています。
潔く、負けを認てもらうために、最後は知力の勝負といきましょう。」


王様は、その勝負を飲むしかありませんでした。
そして、向こうから第一の使者が来ました。
「うり二つの蛇のオスとメスの見分け方を答えよ」
という勝負でした。

王様は、知っているものを国中探しました。
しかし、長年の蛇使いも年老いて、向こうの山に捨てられてしまいました。

困り果てた王様に、大臣が言いました。
「やらわかい敷物の上に、二匹の蛇を置いて、
激しく身をくねらせる方がオス、ジッと動かない方がメスです。」
と答えました。

答えを使者に送ると、たしかにあっていました。

二人目の使者がきました。
「四角い大きな木材のどちらが根元か見分け方を答えよ。」
という勝負でした。

物知りの老人は、すでに捨てられていたので、
王様は、またその大臣を頼りました。
大臣は、一度部屋に戻り、しばらくして答えました。
「水にうかべて、下になった方が根元です。」
と答えました。

実際、やってみるとたしかにそうでした。
そして、三人目の使者が来ました。

「ひと口の水は大海のすべての水より偉大である。
これを説明せよ。」
と言いました。

王様は、また大臣を頼りました。
大臣は、部屋に戻り、その日は帰ってきませんでした。
次の日、大臣は出てきて王様に言いました。

「砂漠を旅する人、熱にあえぐ人、
息を引きとろうとしている人にとって、ひと口の水に勝るものはありません。
とりわけ、清らかな心でお釈迦様に捧げられたひとくすいの水の尊さは、大海の水の量に少しも劣りません。」

王様は、それを聞いて、
「おぉ、なるほど・・」
と思いましたが、たしかめるすべはありませんでした。
答えを使者に伝え、不安のまま待っていると、
まもなく使者がお妃を連れてやってきました。

使者は、王の言葉を伝えました。
「あなたの国の者は、心のはかりを持っているのですね。
すばらしいことです。
そのようなものに戦いを挑むなんて、はずかしい。

お妃は、お返します。

これからも末永く交流して、さまざまなことを学ばせてほしい。」
と言ったのです。

三つの難題を解いた大臣は、最高の勲章を頂くことになりました。

しかし、受け取りに現れた大臣のそばには、二人の老人がおりました。
大臣は、言いました。
「王様、申し訳ありません。
私は、両親を捨てきれず、部屋の奥にかくまっておりました。
問題を解けたのも、両親の知恵によるものです。
黙って勲章を受けるわけにはいかず、告白させてもらいます。
いかようにも、お裁きを・・」

それを聞いて、王様はすぐさま国中におフレを出しました。
「向こうの山へ捨てた老人達をすべて連れ戻すように・・」

おしまい。