※仏典童話「一輪の華」
あるところに、王様に花を収めている「花屋」がいました。

ある朝のこと、花屋はいつものように、市場で王様に相応しい花を念入りに選んでいました。
すると、花屋は手をとめました。

「なんとも、これはみごとな花だ。
この商売を長いことやっているがこんなに美しく、香りの素敵な花はみたことがない。
王様には申し訳ないが、この花はわたしのために買わせてもらうとしよう。」

その華は、一輪だけでしたが、大輪で、持っていたカゴがいっぱいになるほどの大きさでした。

花屋は、おもわずその花を買いました。

その華は、花びらの美しさと、香りのふくよかさに、ゆきかう人も足をとめ、
花屋の跡をゾロゾロとついていってしまうほどでした。

すると、三人、手をあげて「その華をゆずってほしい」という者がおりました。

一人は、かっぷくのいい体格をした男で、頭に腕に、足に宝石を身に付けていました。

もう一人は、若い女性で、長い髪と長い足。
美しい目と口は、自信に満ち溢れていました。

三人目は、若い男で、身なりはそれなりに整っていましたが、ところどころに布は破れていました。
けれども、荘厳な顔だちと、はっきりとした力強い声を持っていました。

花屋は言いました。
「はいはい、どちらさまでも、高い値段をつけたお方にお譲りしますよ。」

まず、はじめに、若い男が値段を言いました。
すると、すぐさま、若い女性がその上の値段を言いました。
そして、さらに上の値段をかっぷくの男が言いました。

三人は、つぎつぎに値段をあげて競り合っていました。

花屋は、その姿をみてフト思いました。
「たった一輪の華に、こんなとほうもないお金を払おうとは、いったいどういう考えなのだろう。」

「みなさん、この花をそんなに高く買っていったいどうるするおつもりなのですか?」

若い女性が言いました。
「私のように美しい女には、その美しい華がよく似合うでしょう。それに、私のそばにいてこそこの華も喜んでより一層咲きほこるにちがいないわ。」

かっぷくの男が言いました。
「わしは、商売をしておる。だから商売の神様にこの華をお供えして、もっと儲けさせてもらおうと思っている。」

若い男が言いました。
「わたしは、その華をお釈迦様にさしあげたいと思っています。」

花屋は、若い男に言いました。
「お釈迦様、って誰ですか?
商売の神様よりも、もっと儲けさせてくれるのですか?」

若い男は言いました。
「いえ、お金儲けより、もっと大きな心の幸せをくれるお方です。そして、その幸せは消えていってしまったりしないのですよ。」

すると、花屋は言いました。
「皆さん、すいません。この花を売るのは止めました。」
と言うとみんなビックリして。
大きな声を上げたり、舌打ちをしたりしました。

そして、花屋は若い男に、
「わたしを、そのお釈迦様のところへ連れていってくれませんか?」

と、いうと若い男は満面の笑みで、
「いいですとも、みんなで行きましょう」
と言いました。

若い男は、かっぷくの男に、言いました。
「商売の神も、他のすべての神々もお釈迦様の教えに付き従っている者たちなのですよ。
お釈迦様の説く法理、法則に出会って、神々も神々としての力を発揮しているのですから。

そこにいけば、それらに供物をささげることよりもはるかに大きな功徳が手に入るのですよ」
と言い、

若い女性には、
「お釈迦様のもとにいけば、今以上の美しさが手に入りますよ。
その美しさは、永遠に消えない美しさですよ。」
と説得して、連れ立ちました。

花屋は、両腕でしっかりと、一輪の華を掲げて歩いていました。

すると、その華の美しい色と、香りに、
ゾロゾロと後ろから多くの人が連れ立って歩いて長い列が出来ていました。