※仏典童話より「少年と王様」

はるか昔のインドの話。

インドのある王様が、お釈迦様の話を聞きたいと思い、

お弟子も交えて何日も泊まってもらい、

お話を聞かせてもらっていました。

 

そんな中、お釈迦様が話を聞きにきた者たちの中でも

一番に貧しいかっこうをした少年をたいそう褒めました。

 

「・・あなたの瞳には、心の美しさがあふれてる」というのです。

王様は、「あんな下人にそんな言葉を・・」と、お釈迦様のその行為がとても我慢がなりませんでした。

 

次の日、王様は家来に言いました。

 

「あの少年の前で食べ物をこぼしてやりなさい。」

卑しいあの小僧のことだ、食べ物を拾って貪り食うにちがいない。

 

少年は、お釈迦様の話を聞いて心に決めていました。

 

「僕は生きていくだけで精一杯だけど・・、こんな自分でもたとえわずかでも

他の人のために、ほどこしができるような心をもって生きていこう・・」、と。

 

しかし、家来が近くで食べ物を落とすと、

条件反射で、それを拾って食べてしまいました。

多くの人に、いやしい姿をさらしてしまったのです。

 

少年は、ハッと思って我に返り、

やってしまった!と思いました。

周りの人達も凍りつきました。

 

そして、家来がやってきて、まるでゴミでも拾うかのように、

少年を外につまみ出してしまいました。

 

 

お釈迦様は食事が終わり、周りの者たちへの話も終わったあと、王様に言いました。

 

「あなたは、今の栄えている自分の理由を、いつからのおかげなのか考えたことはありますか。」

そういって、王様の過去の姿のお話をしてあげました。

 

 

世の中に、まだ悟った人が一人もいないくらいはるか昔の頃、

あなたは母と二人で、とても貧しい暮らしをしていました。

父親は、行方知れずで、

弟もいましたが、暮らしのため近くの家に下働きとしてもらわれていきました。

 

ある日、その近くの家でお客様が来るためご馳走の支度をしていました。

母親は、恥をしのんでその家にでかけていきました。

 

「息子が飢え死にしそうなんです。なんでもいいので、食べ物をわけてくれませんか・・。」

というと、その家の者が、

 

「ずうずうしいにもほどがある。

あんたのその暮らしでは子供が気の毒だと思ったから、一人もらってやったというのに、

きっと、ご馳走の支度をしているのを聞きつけてやってきたんだね。

受けた恩を返さずになんてあさましいやつ・・・

そんなやつにやる飯は無いよ!野たれ死にするがいいさ。」

 

そういって、母親はたたき出されました。

うなだれて帰る母親に、裏庭で手伝いをしていたおばさんが

手の中にそっと何かを渡しました。

 

手のひらにおさまるほどの、わずかなご飯でした。

 

母親は、うちにかえり、そのご飯を息子に渡しました。

そして、人の心の冷たさと暖かさを話して聞かせました。

 

 

すると、家の外で物音がしました。

出てみると、骨と皮だけの老人が倒れていました。

 

二人は、老人を家の中に運んで休ませて上げました。

そして、なんと息子はさきほどもらった、

わずかなご飯を老人に与えたのです。

 

母親は驚きました。

「お前だって、お腹をすかせていたってのに・・」

 

そしたら、息子は言いました。

「あのおじいさんの顔をみていたら、

なぜか自分の心が透き通っていく感じがしたんだ。

気が付いたらご飯を食べさせてあげてたの・・。

不思議なおじいさんだね・・。」

 

母親は、嬉しさのあまり息子を力いっぱい抱きしめました。

 

 

お釈迦様は、向き直って、王様に向かって言いました。

 

「王よ、この息子があなたなのです。

そのときの清い心が糧となって、今日の繁栄があるのです。」

 

王様は、お釈迦様の話が終わるとしばらく目を閉じていました。

そして、少年に心からあやまろうと思い、

部下に命じて少年を連れてくるよう命じました。

 

おしまい。