ハートに火をつけて(Light My Fire)はザ・ドアーズのセルフタイトルデビュー作のA面最後に収録された作品。7分にも及ぶ大作の演奏部分を編集してシングルカットされた後、1967年の夏に全米No.1ヒットを記録、2004年・ローリング・ストーン誌が選ぶ偉大なる500曲のうち35位に位置づけられた、名実ともに彼らを代表する楽曲でもあります。

 

パンク・ロックの源流を辿るとザ・ドアーズに行き着くと言われる(正確には「ロック・シンガーであるジム・モリソンに」だと個人的には思う)ことがあります。それを端的に示す好例が1967年の9月、有名なTVショー「エド・サリヴァン・ショー」でのパフォーマンスです。歌詞の一部がドラッグを連想させるので替えて歌うようにと要請され、リハーサルでのモリソンは確かに替えて歌った。しかし、本番では約束を無視してオリジナルのまま歌ってしまったのです。生放送であり、数秒遅らせて放映する技術などなかった当時、演奏を中断させることも出来ず、強烈なシャウトをもって完奏を決めてしまいました。戻ってきた彼らを待っていたのはこんな会話でした。

"Mr. Sullivan liked you boys. He wanted you on six more times... You'll never do the Sullivan show again." Morrison replied with glee, "We just did the Sullivan show."

 

We just did the Sullivan show 
日本語訳では「俺たちはエド・サリヴァン・ショーは卒業だぜ」という風にされることが多いようですが、演奏したその場で「出演した事実は変わらない」というニュアンスと皮肉をdidの一語で表現出来てしまうのには言語の差異を痛感させられます。これを言われた方はさぞかし悔しかったであろうとも想像できるからです。


ローリング・ストーンズが同じくこの番組に出演した時、ミック・ジャガーはLet’s Spend The Night Togetherの歌詞を約束通り変更(night→sometimes)して歌っています。ロック界のチャーリー・チャップリンと後に称されることになるミック・ジャガーらしい選択であり、それがこのバンドの長命の理由でもありそうです。

 

 

ジム・モリソンがエド・サリヴァンの要求に従っていたなら、彼を擁するザ・ドアーズはもう少し長く存在できたのかもしれません。しかし、在りようの根幹を揺るがす大切な何かを失ってしまうのもまた事実で、「ハートに火をつけて」を毛嫌いしながらも芸術家としての強い意識を持った、これもまたジム・モリソンらしい選択であったのです。

過去は変えることができない 
この重さを彼は知っていたに違いありません。