債務不履行による契約の解除 | 不動産法務コンサルタントへの道

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こんにちは。不動産法務コンサルタントの中沢です。



不動産(あるいは信託受益権)の売買契約書では、以下のような定めがなされていることが一般的です。


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第●条(債務不履行による解除)

売主又は買主のいずれか一方当事者が本契約の条項への違反があったときは、相手方当事者は、相当の期間を定めた上で、違反当事者に対し違反の是正を催告し、違反当事者が当該期間内にかかる是正を行わない場合には本契約を解除し、かつ、損害賠償として売買代金(消費税・地方消費税を除く。)の20%に相当する金銭(以下「損害賠償金」という。)を請求することができる。但し、前記期間内に当該違反を是正することが不可能であることが明らかな場合には、相手方当事者は、催告をせずして直ちに本契約を解除し、かつ損害賠償金を請求することができるものとする。

2.前項の場合、損害賠償金を次の通り遅滞なく精算する。

(1)売主に違反があったときは、売主は買主より受領した金銭全額を返還したうえで、損害賠償金を支払わなければならない。
(2)買主に違反があったときは、売主は買主より受領した金銭から損害賠償金を控除した残額を無利息にて買主に返還しなければならない。

3.売主又は買主は、第1項の契約解除に伴い損害賠償金を超える損害が生じた場合であっても、損害賠償金に満たない損害が生じたに過ぎない場合であっても、上記損害賠償金にて解決するものとし、互いに損害賠償金額につき何らの異議を申し立てないものとする。


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誤解されている方が意外と多いのですが、この規定は「違約金を支払えば契約を解除できる」というものではありません。


債務不履行をした人の相手方(買主が代金を支払わない場合であれば売主)が契約を「解除することができる」だけで、債務不履行した人(先の例では買主)からは契約を解除することはできません。


そして、相手方は契約の解除ではなく、あくまでも「履行」を求めることもでき、債務者が任意に履行しない場合には、裁判所に強制履行を請求することも可能です。


つまり、債務者の財産を差し押さえて、競売にかけることができるわけです。


もっとも、債務者(先の例では買主)にめぼしい財産がなければ強制履行を請求しても無駄ですので、相手方としては解除を選択したうえで損害賠償(違約金)の請求をするほうが現実的だとは思います。


しかし、それはあくまでも相手方の選択の結果であって、債務者側に違約金を支払うことによって解除する権利があるわけではないのです。


購入を中止したい買主としては2つの選択肢があります。一つは、売主と話し合って契約を解除(合意解除)することで、もう一つは、そのまま履行期を徒過して売主が解除権を行使するのを待つというものです。


ただし、後者の場合には、売主が強制履行を請求する余地もあるわけで、何らかの財産を持っている買主の場合にはその財産を失う危険性はあります。


そう考えると、やはり話し合いで解決するのが一番望ましいと思います。



先日の記事 タイトルのとおり、「契約は守られなければならない」という法諺があります。


一度合意した以上は、お互いその契約に定められた義務を果たさなければならないということです。


契約を締結した後に急激な環境変化があったとしても、「事情変更の原則」が認められるのはよほどのケースだと考えられますので、基本的には契約どおり履行しなければなりません。


したがって、やはり契約書を作成する段階での慎重な検討が大切だと思います。


たとえば、買主の立場であれば、無償で(違約金無しで)契約を解除できる条項を盛り込むことも一考でしょうし、売主の立場であれば、無償解除を認めないか、仮に認めるとしても解除事由を限定する必要があるでしょう。


もちろん、売主からの無償解除を規定しておきたい場合もあり得ますので、その場合は逆のことが言えます。


マーケットが好調な時は、当事者全員が楽天的になっていて、取引を中止することなんて誰も想定していないものです。


しかし、物事が急激に変化している今の時代においては、契約書を作成する段階で考えうるあらゆる事態を想定し、それに対してしっかりと手当てをしていくよう努めなければならないと思います。