ゆく河ノ流レハ絶エスシテ シカモモトノ水ニアラス 淀ミニ浮フウタカタハ カツ消エ カツ結ヒテ 久シク止マ例ナシ 世ニ有ル人ト栖ト 又カクノコトシ(「方丈記 大福光寺本」)

——鴨長明(1155-1216)



 日本人もいつの間にかずいぶん狡賢く(ずるがしこく)なったものです。高市早苗はもちろんそうですが、考えようによっては、一番先頭に立って狡賢さを演じているともいえます。というのも、背後に控えている自民党議員も負けず劣らず狡賢い連中ばかりだからです。

 与党ばかりではありません。国民民主・玉木雄一郎の腑抜けの狡賢さ、参政党・神谷宗幣のスーパーの親父的狡賢さ、公明党・斉藤鉄夫の仏もびっくりの策士的狡賢さ、日本維新の会・吉村洋文の思いつき一辺倒の狡賢さ、元立憲民主党・野田佳彦の仲間を沈めるスパイ的狡賢さなどですね。

 なぜ日本人がここまで狡賢い人間ばかりになってきたかといえば、それはアメリカにそそのかされてそれを受け入れた結果です。欧米人は一般的にいって東洋人よりも狡賢いといえます。さらに東洋人よりもずっと残虐です。

 その結果、1853年にペリー率いるアメリカ合衆国海軍東インド艦隊が浦賀に来航して以降、日本は欧米の支配下に入り、搾取され蹂躙される歴史を今日まで歩んできたわけです。日本は西洋と比べると、知恵も足りなければ残虐さでも負けますから仕方ありませんでした。特に1945年の敗戦後は、アメリカの奴隷として現在まで生きながらえてきました。

 とはいえ、戦後80年もの間に宗主国であるアメリカの狡賢さを、日本人も少しずつ身につけてきました。見習った面もあるでしょうし、入れ知恵された面もあるでしょう。そのせいで日本政府はすっかり狡猾になり、国民は政府にきれいに騙されるようになりました。さらに深刻なことは、自分たちが騙されていることにすら気がつかないことです。それが今の日本人、今の日本国民です。

 "ストックホルム症候群"という犯罪に関係した精神医学用語があるそうです。ググってみたところ「誘拐や監禁などによって拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、信頼や結束の感情まで抱くようになる現象のこと。 1973年のスウェーデンの首都ストックホルムで、この言葉が生まれるきっかけとなった事件が起きました。」という説明がなされていました。

 ちょっと難しいでしょうか。もっと短くいうと「自分を誘拐監禁した犯人のことを好きになってしまう」ことをストックホルム症候群といいます。とある女性を拉致し、あちこち強制的に連れまわし、強姦までした犯人が警察に逮捕されたとします。そして解放される被害者が、その時に犯人との別れを惜しんで涙を流すといった光景を思い浮かべるといいかと思います。

 日本人は、民族丸ごとストックホルム症候群といえるところがあります。日米戦争では真珠湾におびき出され、民間人も含めて300万人以上が殺され、原爆投下や東京大空襲のジェノサイドまでされながら、現在の日本は"鬼畜米英"を忘れて世界一の親米国になったといえるように思います。

 仮に今の日本がロサンゼルスにでも核ミサイルを撃ち込もうと虎視眈々と狙っているとしたならば、物騒ではあるのですが、精神的には素直というか健全なような気がします。人間関係の基本は良くも悪くも「目には目を、歯には歯を」ですから。

 しかし、日本人はすっかりストックホルム症候群の状態にありますから、日本人を酷い目に遭わせたアメリカのことが大好きになっています。さらに面白いことに、中国はほとんど日本に危害を加えていません。それどころか、1931年から日本が敗戦となった1945までの「15年戦争」の間、日本は中国国内を荒らし回りました。

 南京大虐殺が本当にあったか否か、犠牲者は何人だったかなどについての議論はあるようですが、少なくとも日本が中国を侵略しようと意図して戦争を行なっていたことは間違いありません。欧米列強がこぞってしていたことを日本も真似しただけであるともいえますが、侵略された方にとっては、真似であろうが独創であろうがさしたる違いはありません。

 しかも、1978年の日中平和友好条約で、中国は日本に対する戦争賠償の請求を放棄しました。東洋のすることは穏やかでいいですね。これが中国ではなく、アメリカ相手のことだったら、日本人は全員餓死するくらいまで借金を背負わされていたかもしれません。

 もっとも、中国は賠償請求を放棄したとはいえ、長年にわたる日本の「ODA(政府開発援助)」や技術支援などで、発展する基盤を作ることができたわけですから、それほど損な取引ではありませんでした。

 話が少し逸れましたので本筋に戻しましょう。すっかりストックホルム症候群になってしまった日本ですが、1990年くらいまではそれでさしたる支障はありませんでした。なぜなら、アメリカにとって日本は利用価値のある国だったためです。

 中曽根康弘が総理大臣をしていたのは1982年から1987年まででしたが、その頃の総理大臣の仕事は単純というか、簡単でした。敗戦国のトップとして、どのように宗主国であるアメリカに尻尾を振るか、気に入られるかが勝負でした。中曽根康弘といえば「日本列島をソ連の爆撃機の侵入を防ぐ『不沈空母』のようにする」という不沈空母発言があったとされていますが、そのようにアメリカに対して這いつくばっていればよかったのです。

 ところが1991年にソ連が崩壊してしまい、東西の冷戦構造がなくなってアメリカ一極支配の時代が訪れました。つまり、アメリカはライバルが消え、何でもしたい放題ができるようになりました。

 そうなると、不沈空母である日本の利用価値がなくなったというか、日本が不要である時代になりました。その結果、アメリカは日本に冷たくなりました。親切にしてくれるどころか、日本から搾取する、つまり日本の富を奪うようになりました。それが"失われた30年"と呼ばれるものですね。

 アメリカが日本に冷たくなり、日本の富を奪うようになると、日本国民から政府は(自民党は)何をしているのかという声が上がるようになってきました。当然ですね。1980年代までの日本は右肩上がりの成長を示した大変に活気のある国でしたから、その時代との落差が目立ったのです。

 それならそれで、日本は日本なりの違う生き方を目指すべきだったのですが、かつて殿様(アメリカ)のご寵愛を受けて何不自由なく暮らしていた頃のことが忘れられません。何とか殿様のご寵愛をとり戻すことはできないものかと、過去を振り返ることが多くなりました。

 悪いことはそればかりではありません。頼みのアメリカというお殿様そのものの力も弱まってきたのです。仮にお殿様のご寵愛を取り戻せたとしても、昔のように羽振りのいい生活が戻ってくる保証はどこにもありません。いや、お殿様自体が瓦解の憂き目を見るかもしれないくらいです。

 私がたまに読みにいく「櫻井ジャーナル」に面白い記述がありました。以下のとおり一部引用してみます。


 アメリカとイスラエルはミサイルやドローンが枯渇、事実上、イランに敗北した。その事実をトランプ大統領は隠そうとしているのか、本当に認識できていないのか不明だが、ともかく勝利のイメージを広めようとしている。
 日本のように「エリート」がアングロ・サクソンに従属することで権力と富を握っている国では、アメリカが負けるということは、彼らが権力と富を失うことを意味する。アメリカは無敵の絶対的な存在でなければならないのだが、そのイメージを維持することが難しくなっている。日本を含む西側諸国で言論統制が強化されているのは必然だ。


 上手に描かれていますね。高市早苗ばかりではなく、野党も含めて政治家が嘘ばかりつくようになった理由、あるいはマスメディアなどを使って嘘ばかりをつかせるようになった理由を巧みに説明していると思います。

 今や西側欧米諸国は張子の虎です。何とか表面上だけでも強がって格好をつけようと必死になっていますが、そのことが逆に墓穴を掘ることにつながっています。イラン戦争は不要の戦争でした。イラン戦争をしないからといって、どこかの誰かが困るというような戦争ではありませんでした。

 しかし、BRICSに追いつかれ、追い越されそうになっている西側欧米諸国には焦りがあります。このままおめおめと抜かれてたまるかという意地があります。その結果冷静で合理的な判断ができなくなってきました。ウクライナ戦争が始まる前までは世界を支配してきたのですから、自分たちの力の衰えを認めたくないのでしょう。

 そのような欧米よりも、さらに一回りも二回りも遅れた認識しか持てないのが日本になります。欧米はそれでも自分たちの力の衰えを感じて、何とかしようと悪あがきをしていますが、日本ときたら欧米の衰えを理解していません。現在でも昔のように欧米が日本を可愛がってくれるようになれば、日本は復活するとアホな夢を見ています。それが「Japan is back.」ですね。何の見通しもなく、願望しか言えない状態です。

 日本の政府が、あるいは日本人が、一番最初に理解しなくてはいけない最も重要なことは、「欧米は衰退してきている」「英米文明は衰退期に入った」ということです。これは大きな歴史の流れですから、日本ごときが100兆円出そうが200兆円出そうが趨勢を変化させることができる性質のものではありません。無駄な抵抗はやめて歴史の流れに沿うことが身を守ることにつながります。

 しかし、日本や日本人にはその覚悟ができていません。「お殿様のご寵愛さえ戻れば」とその一念です。クノイチ(くノ一)まで繰り出してトランプの籠絡に当たらせました。ダメですよ、そんな姑息な手を使っても簡単に見破られてしまいます。誰ですかね、そんなことを考えたアホは。

 世界の情勢が変わってきている、時代の流れが変わってきているのですから、それにきちんと正面から対処しないことには、日本という国がどんどん傾いていくだけです。そういう私も、ここまで事態が急展開するとは思っていませんでした。欧米が主役の座を降りるのはあと30年や40年はかかるのではないかと思っていました。

 しかし、今回のイラン戦争が世界の変化を早めました。もう誰が見ても欧米の衰退を感じることができるようになってしまいました。アメリカはすでに、中国やロシアと正面からぶつかり合う方針を捨てています。ヨーロッパはアメリカと歩調を合わせなくなり、中国との距離を縮めようとしています。

 日本だけですね、相も変わらずお殿様であるアメリカのご寵愛を受けようとしてもがいているのは。今のアメリカには側女を雇い入れているだけの余裕はなくなっているのですよ。