徳薄而位尊 知小而謀大 力小而任重 鮮(少)其及者矣
——易経から(古代中国で成立した東洋最古の古典であり、儒教の根本教典である「五経」の一つ)
徳薄(とくうす)くして位尊(くらいたか)く、知小(ちちいさ)くして謀大(はかりごとだい)なり、力小(ちからちいさ)くして任重(にんおも)ければ、其れ及ばざる(禍なからん)ことは鮮(すくな)し。
実力や人徳(徳)が足りないのに、高い地位につき、知恵もないのに大きな計画を立て、力が及ばないのに重い責任を背負えば、破滅や災難を免れることはほぼできない。
"Japan is back"とは高市早苗が総裁選やトランプ大統領との会談時などで時折口に出すようです。英語が苦手な私としては、てっきり"日本は後退している"という意味だと思っていました。というのも、日本は"失われた30年"といわれていますからね。どこをどのように考えても景気のいい国ではありません。沈んでいくばかりです。
そんな状況下で"Japan is back"ですから、私としては「ああ、日本はますます後退していくんだ」と思ってしまったわけです。では、英語に詳しい人だとどのように理解するかといえば、"日本は戻ってきた""日本は復活した"と翻訳するようです。
といっても、戦時中の日本が戻ってきたわけではありません。そのような意味ではないようです。戻ってきたのは、1970年代、1980年代の、高度成長時代が戻ってきたと言いたいようです。GDPが世界第2位で景気はいつも右肩上がり、都会は人混みで溢れていました。
北海道でさえ、ゴールデンウイークなどは関東並みに車が渋滞したものです。私たち一人一人がエネルギーに満ち溢れていました。私もその頃は、2時間も3時間も車を運転して、仲間と一緒に海釣りに行ったり、スキーに行ったりしたものです。大変に華やかな時代でした。
そんな時代にまた戻りたい、夢よもう一度というのが"Japan is back"であり、最初は2013年に安倍晋三が口に出した言葉だそうです。しかし、夢よもう一度というのは、その発想自体が貧困ですね。過去は戻ってきません。特に日本の場合は元々が他力本願でしたから、棚ぼた狙いでしかありません。
転機は1991年の"ソ連崩壊"でした。戦後続いていたアメリカとソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)の冷戦時代が、ソ連の崩壊によって幕を閉じたのです。アメリカの勝利でした。私も日本人の一人としてアメリカの勝利を喜んだものでした。しかし、皮肉なもので、これが日本を含めた欧米西側諸国の地獄の1丁目でした。
まず何が起きたかといえば、欧米が目標を見失ってしまいました。競う相手、つまりライバルを失ってしまった結果、何を頼りに生きていったらいいのか分からなくなってしまいました。「テロとの戦い」などと無理にこじつけた目標を掲げ、必要でもないのに中東の支配に取りかかりましたが、取ってつけたような目標ですから皆さん本気になれないのですよね。
考えてみれば、ソ連とアメリカの冷戦時代は、ソ連がアメリカを引っ張っていたのかもしれません。牽引役はアメリカではなくソ連だったのです。ソ連とアメリカが火花を散らして競っていたことの一つに、宇宙開発競争がありました。そこにおいて、1957年世界で初めて人工衛星の打ち上げに成功したのはソ連でした。
また、初めて有人宇宙飛行を成功させたのもソ連でした。1961年ヴォストーク1号はガガーリンを乗せて地球の周回軌道に乗りました。これに色めき立ったのがアメリカで、同年ジョン・F・ケネディ米大統領は「10年以内に人類を月に着陸させ、安全に地球へ帰還させる」と議会で宣言しています。
その結果、1969年にアポロ11号で人類は初めて月面に降り立ったことになっています。"なっています"などと曖昧な書き方をしたのは、いまだに人類の月面着陸はフェイク(捏造)だったのではないかとの説が根強くあるからです。アメリカがいかに嘘つき国家であるかを知れば知るほど、そのような疑いが強くなります。
まあ、それはそれとして、ソ連の崩壊によってライバルのいなくなったアメリカは、国全体が堕落していきます。締まりがなくなっていきます。頃合いの敵というものは実は必要なものであることを歴史から学ぶことができます。
ソ連もそうでしたが、現在のアメリカも同様で、大きな国が滅びるときというのは腐敗が目立つものですね。国全体からやる気が失われていきますから、私利私欲を優先させ、倫理や道徳といったものが廃れてしまいます。賄賂、リベート、利権、身内優遇、超法規的措置、戦争などが発生します。
現在の日本も危ないのですよ。裏金議員が何事もなかったようにのさばっています。公認賄賂制度とでもいうべき企業献金は放置されたままです。キックバックやリベートなどもおそらく見えないところでは盛んに行われていることでしょう。総裁選での中傷動画も現在騒がれていますね。極め付けは司法が機能しなくなってきたことで、政治家はいろいろ犯罪を犯していますが、見逃されることが当たり前になっています。滅びゆく社会というのは悲しいものです。
欧米の中心となっていたはずのNATOやEUも最近は分裂状態ですね。これからに期待が持てる、これから成長していくなどとは誰も思っていないでしょう。そうなると人間は愚かなもので、目先の利益を確定させにいきます。それが、賄賂、リベート、利権、身内優遇、超法規的措置、戦争などとなって表れます。
現在、日本国憲法の改正問題で、緊急事態条項が取り沙汰されていますが、目先の利益を確定させるための典型的なものですね。いざとなったら、国民などという有象無象は縛り付けておいて、特権階級だけが生き延びる、持ち逃げするという規定を、あろうことか憲法に盛り込もうとしています。そんな調子ですから、日本を含めた欧米文明はこの先そんなに長い間持たないのかもしれません。
以上のように、日本も含めて世界は混沌としてきたのですが、その根本原因はなんといってもアメリカの衰退です。敗戦後、日本はアメリカの腰巾着として国を維持するようになりました。自民党はもちろんそうですが、野党も自民党同様に"アメリカの腰巾着日本"を前提として政治に加わってきました。
アメリカが世界の覇権を握っている間であれば、それは一つの戦略として成立していました。ところがアメリカが衰退し始め、覇権を手放そうかというのが現在の世界情勢です。戦後80年間アメリカにおんぶに抱っこされてきた日本も、考え直さなければなりません。
ところがこれが難しいのです。常識的に考えるならば、アメリカが衰退してきたのであれば、日本はアメリカの支配下を少しずつ離れて、その分中国やロシアとの関係を深めていくのが自然・当然の政策というか、戦略になるでしょうが、長年アメリカの支配下でノンベンダラリンとやってきただけに、それだけの意欲も覚悟も持つことができずにいます。
そして、逆に日本の方から今まで以上にアメリカに接近し、アメリカを盛り立てることによって、これまで同様アメリカの腰巾着として日本を維持していきたいと考えています。まあ、現在の日本の政治を牛耳っている薩長閥としてはそうならざるを得ないのでしょう。なにしろ、明治維新前から欧米の力を頼りに日本を動かしてきたのですから。
しかし、日本ごときがいくらアメリカと結託したところで、"中国+ロシア"には対抗できません。すでに勝負はついているというか、地力の差がはっきりできています。しかも、"中国+ロシア"はこれからも発展を続けるでしょうが、"日本+アメリカ"は今後も衰退していくことが目に見えています。
そもそも、欧米はいつ頃から世界の覇権を握ったのでしょうか。どうやらそれは18世紀にイギリスで起きた産業革命からのようです。産業革命というと、石炭と蒸気機関車・蒸気船を想起しますが、その当時のイギリスは何から何まで、つまり、農業も工業も、あらゆる分野において新技術が考案され、より合理的で効率化されたものに変わっていったようです。
産業革命の結果、欧米はそれを軍事力の増大にも結びつけ世界に進出するようにもなりました。イギリスと清とのアヘン戦争が1840年、日本に黒船が来航したのが1853年ですが、そのあたりから、欧米が世界の覇権を握るようになったようです。
ではそれまではどこが世界の覇権を握っていたのでしょうか。驚くべきことに、それは中国だというのです。私などは歴史にうといものですから、ギリシア文明から始まり、ローマ時代、大航海時代など、古代から現在に至るまで一貫して西洋文明が世界の中心であり、支配していたかのように錯覚していたのですが違うようです。
実は世界史的に見ると、中国に漢王朝ができた紀元前200年頃から、アヘン戦争が起きるまでの約2000年間、世界の中心地は中国にあったそうです(漢、唐、宋、明、清など)。つまり、中国は2000年もの間、世界のトップに君臨し続けていたようです。
長安は世界最大の国際都市であり、シルクロードを通じて人や物が集まりました。奈良や京都はそっくり長安を真似した"ミニ長安"でした。律令制などの政治制度なども中国からの輸入です。日本には取り入れられませんでしたが、科挙は実力主義で官僚を集める革新的なシステムでした。
世界初の紙幣、羅針盤や火薬、活字印刷の発明、あるいは鉄鋼生産量も当然世界一でした。明や、その後の清の全盛期は、世界の富の中心でもありました。18世紀後半の中国のGDPは世界全体の約3割を占めており、単独でヨーロッパ全体の合計を上回っていたそうです。
つまり、中国は世界一の座が定位置なのです。昨日今日ポッと出の欧米とは格が違うと考えていいでしょう。私は現代の中国がなぜこんなに目覚ましい発展を遂げるのか不思議に思っていましたが、その理由がよく分かりますね。彼らにとって自分たちが世界一であることは何の不思議もないことであり、単に復活する(China is Back)だけのことなのです。
その点、アメリカは苦しいです。戦後世界の覇権を握りましたが、世界一の座は初めての経験です。どうしていいのか分かっていません。世界中に500以上の米軍基地を設置して、あちこちで紛争を起こしてブイブイ言わせてきましたが、それでは長続きさせることができません。実際問題としても、アメリカは今や破産・倒産寸前です。素人の浅ましさですねえ。
そして、そんな破産・倒産寸前のアメリカに、これからも養ってほしい、面倒を見てほしいと懇願しているのが、高市早苗政権であり、自民党であるわけです。野党でさえもそうです。そんなことでうまくいくと思いますか?
歴史は通常ゆっくり変化していきますが、ソ連崩壊が私たちにとっては突然だったように、アメリカ崩壊が突然やってくるかもしれません。日本とイスラエル以外の国はすでにアメリカに付き従っていません。昨年来、EU諸国は次々と北京詣でを行なっています。中国に喧嘩を売っているのは日本くらいのものでしょう。アメリカでさえ、今回の米中首脳会談で柔和な姿勢を見せており、日本がいかに世界情勢を見誤っているかを示しています。
中国に屈服するべきだとは思いませんが、もっと理性的に、日本の国益を考えた上で外交を行なっていくことが必要です。今の日本ときたら、まるで1941年のようであり、政治家ばかりではなく、国民も狂い始めていますから。
