精神医学は医学の中でもとりわけ遅れた分野で、果たして医学と呼んでいいのか疑問に感じている人もいるくらいである。一般人である私たちにそのような事情は分かりようもなく、精神科医が診断名をつけると、肺炎、癌、糖尿病などと同じレベルで、アスベルガー症候群(ASD)とか、注意欠陥多動性障害(ADHD)などと診断されたように感じがちである。

 

しかしこれは大きな誤りである。精神医学は身体医学の100倍も1000倍もあやふやな学問なのである。それを説明する手がかりとして、なぜアスペルガー症候群はアスペルガー病とは言わず、「症候群」と命名されているかについて触れてみたい。

 

症候群というのは、「何となく似ている」「同じような感じがする」というものの集まりである。アスペルガー症候群というのは、「よう分からんけど、何となくアスペルガーっぽいよね」という診断名といえる。「ちょと無理なところもあるけど、一応ひとまとめにしときましょう」という、人間の都合によって症候群という名前がつけられるのである。

 

身体医学でも似たようなものはある。例えば、パーキンソン病とパーキンソン症候群である。パーキンソン病は脳の「ドパミンを作る細胞が徐々に減少して脳内のドパミン量が不足する」ことによって運動機能に障害を起こす病気ということになっている。一方、パーキンソン症候群は、原因は様々であるが症状が似ているものを全て含めてそう呼ぶ。だから、パーキンソン症候群との診断名では、パーキンソン病と違って悪いところを指摘できない。

 

高血圧も似たようなものである。実際のところは高血圧症候群である。中には腎血管性高血圧や内分泌性高血圧など、原因がはっきりしているものもあるが、多くはなんだかよく分からないが症状として高血圧なので(本態性高血圧)、高血圧という病名をつけている症候群である。

 

アスペルガー症候群も同じであり、なんとなくアスペルガーに見えるということから診断をしているが、なぜアスペルガーなのかについて、血液検査行うなどしてはっきりした証拠、根拠を提示することは不可能である。

 

ひょっとするとAさんのアスペルガー症候群は、脳の一部位の病変であり、Bさんのアスペルガー症候群はホルモン分泌の異常なのかもしれないのである。それでも、外から態度や行動を見ると、なんとなく似ているので、アスペルガー症候群として扱っているというのが実態である。

 

さて、そのようなはっきりした根拠を見いだしにくい精神医学においては、誤診が多くなる。身体医学と違って、血液検査等の客観的証拠によって診断をすることができず、また、誤診をしてもそれがはっきり誤診だとは証明されにくい。そのあたりのことは医者も十分わかっているので、暫定的な診断をつけてお茶を濁すことがある。または、アスペルガー症候群(疑い)などとして断定を避けようとする。

 

意図的に違う診断名を与える場合もある。アスペルガー症候群(ASD)とか、注意欠陥多動性障害(ADHD)は法律(発達障害者支援法)によって公的な支援を受けることができる。本人や家族が援助を欲したときに公的機関につながりやすくなり、受診者の利益となるので、断定できないようなときには発達障害系の診断をつけることになりがちである。

 

また発達障害は近年知名度が上がっていることから、患者やその家族に通りがいいことも理由である。精神医学に関心を持っている人なら診断名を聞いて、実際は違っていても「あああれか、どおりで」などと感じやすい。素人が「家庭の医学」などを読むと、自分が一つのみならず重篤な病気に当てはまっていると感じてしまうものだが、似たようなことが生じる。

 

それでは、発達障害と誤診しがちである障害は何かというと、それは「パーソナリティ障害(人格障害)」である。私の感覚で言えば、パーソナリティ障害は多くの場合、発達障害よりもずっと「困ったちゃん」である。扱いにくく人に腹を立てさせる。一筋縄ではいかない。場合によっては太刀打ちできない。

 

パーソナリティ障害は下位類型が10個もあるが、職場等でみんなから嫌われて、総スカンを食っているような人は、発達障害というよりも人格障害である確率が高い。発達障害は「できない人」だが、人格障害は「あえてやらない人」、あるいは「あえてやる人」という側面があるためである。そこが人を苛立たせる。

 

このパーソナリティ障害も、上で説明したように一つ一つが症候群である。しかも、「妄想性パーソナリティ障害 」と「依存性パーソナリティ障害」が併発しているということがありうる。さらに言えば、発達障害とパーソナリティ障害の併発というややこしい場合もありうる。

 

このように複雑なことになってくると、もう何がなんだか分からなくなる。場合によっては、「アスペルガー障害」+「妄想性パーソナリティ障害 」+「依存性パーソナリティ障害」+「反社会的障害」などということがないとはいえない。しかも、そんな場合でも自他共に「アスペルガー症候群」として認知しているかもしれない。

 

それに引き換え、細胞診を行って癌であることが完全に判明するなどという身体医学の単純明快さ(治療は困難であるにしても)には素晴らしいものがある。癌は癌であり、癌症候群と呼ぶ必要がないのである。

 

最後にお断りしておくが、私は医者ではない。何かの有資格者でもない。持っている資格・免許は普通自動車運転免許(今のところゴールド)のみである。こうやってエラそうに分かった風のことを書いていると、ひょっとするとニセ医者くらいならできるかもしれないと思うが、ニセ医者もしたことはない。当たり前か。てへぺろ