指輪 | 恵比寿物語

指輪

鈍器で殴られたような痛みで

うううとうずくまる。

殴られたのではなくて

自分でぶつけたのだけれど。


押し入れの中身を全部出して

中を掃除しようともぐりこんだところ

あの指輪を発見したのだ。


あまりの衝撃に中腰にしていた体を勢いよく持ち上げたら

後頭部を低い天井にぶつけてしまった。


うわぁ、ここにあったんだ。

ジンジンする頭をさすりながら、

あれから2年かぁと思いだす。


その日はなぜかイライラしていた。

髪の毛を短く切り過ぎた。

ヒールでこけて足を捻った。

録画ができていなかった。


どれも決定的ではないけれど、

とにかくイライラしていた。


その晩のことだ。

彼と二人で夕御飯を済ませたあと

ふと彼の手元を見ると、

おそろいでつけているはずの

指輪をしていない。


どうしたの?と聞くと

いや、実はなくしたみたいなんだ。

とさらっと言った。


とつぜん糸が切れた。

私はそこから

なんで?いつから? どこで?

と詰め寄り、だいたいあなたはいつもそうじゃない

なんでそんなに平気なの?

と土石流のように攻め立てた。


いつもおとなしいはずの私が

ここまで言うのは始めての事だ。

しかし彼は何処か遠くを見るような目のまま

何も言い返さない。


私は 彼の心が少しずつ私から離れていっていたのを

気付いていた。

時間にルーズになり、

約束も破るようになり、

連絡が付かない日が度々あった。


でも、その理由を聞くことができなかった。

ただ、受け入れるだけだった。

私は彼と揉めるいう事が、一切できなかった。


指輪をなくしたとサラリと言われた瞬間

私は彼をあきらめた。

あきらめた途端、今まで抑えていた感情が

溢れだした。


別れましょうと言ったのは私だ。

彼から別れを告げられるくらいなら

私から、と思った。



なんでその指輪がここにあるのだろうか。

彼はこの押し入れを開けるはずがないのに。


彼は私と別れたかったのだろうか?

私と別れたいと思って指輪を放った先が

私の押し入れだとしたら

彼は迷っていたのだろうか。

それとも・・・。


「おーい 入るよー。」

と言う声とともに、玄関の開く音がした。

私は指輪を急いでポケットにしまい、

押し入れから這い出した。


「なにやってんの?」

「押し入れの掃除。」

「引っ越しはさ来週だよ。」

「うーん、でもまぁ準備ぐらいしておこうかなと思って。」


相変わらずだねとあの人が笑いながら言う。

そうしてその笑顔は満面に広がった。

「そう言えば、さっき店から電話があって、

結婚指輪出来上がったって、取りに行こうよ。」


私はそうねと答えながら、ポケットのなかに再び手を入れる。

そうして、所在投げにいる指輪をどうしたものやらともてあそんでいる。