夜の自転車
今日は飲みすぎてしまった。
お会計はいくらだったのか、そもそもちゃんとお金は払ったのか
あれ、どうやって店をでたんだっけ
そう思いながら自転車を漕いでいる。
蛇行しながらよろよろと坂を上りきると、
目が乾くほどのスピードで坂を下る。
何かのCMソングが頭の中を何度も流れる。
坂を下りきって右に曲がる。
すると急にペダルが重くなった。
誰かが後ろに乗ったらしい。
「私もうどこにも行かないよ。
真っすぐ家に帰るだけだから。」
「嘘よ
これから 行くところあるんでしょ。」
「まっすぐ帰るってば。」
「嘘よ
本当は行きたいんでしょ。」
行きたいところなんてない。まっすぐ帰りたい。
「あなたはどこに連れて行ってもらいたいの。」
「私はあなただから、あなたの行きたいところよ。」
私は知らない。私が何処へ行きたいかなんて。
家に帰って寝たい、それだけなのに。
と、突然ハンドルがぶれる。一瞬何かに乗り上げたらしい。
ハンドルがぐらぐらと揺れ、バランスを失う。
街の明かりが残像を残してぶれる。
転んじゃだめだ、転んじゃだめだ。
細かく蛇行を繰り替えして
なんとかバランスを取り戻した。
一旦自転車を停め、足をついて深呼吸をする。
あ、私行きたいところあった。
「1年前に行きたい。あの人がまだいた、あの世界に行きたい。」
「馬鹿ね、行けるわけないじゃないの。」
ふっと自転車が軽くなる。
頭にずっと流れていたのは
老夫婦が手をつなぎながら街をスキップしている
洗剤のCM曲だ。
振り返る。
私の自転車に荷台はなかった。
そうして、あの人って誰なのだろう。
今晩は雲がかかって月が見えない。