七夕の夢
氷がたくさん入ったアイスティーをストローで回し、
全体がミルクティ色に変わったので、
私は昨日の話を始めた。
多摩川がほど近い街の、路地裏にある
小さな出版社との打ち合わせが
予定より随分早めに終わった。
今日は会社に戻らずにそのまま直帰できる。
せっかく時間が出来たので
買いものでもして帰ろうかなと思う。
あの角を右に曲がると、小さな郵便局があって
その先を斜めに入ると、駅までの近道だったはずだ。
そう思ってその小道に入ると、前に来た時と風景が違う気がする。
なにより、こんなところに美容室なんてなかったはずだ。
そういえばここ3カ月ぐらい髪の毛を切っていない。
伸び放題の髪を一つに結えているだけ。
時間もあるし、久々に髪の毛でも切っていくか。
そう思って、ツタの絡まった一軒家の扉を開けた。
入口のモロッコランプが、こころなしかゆったりと揺れた。
店内は、お香が炊かれているのだろうか
甘くスパイシーな香りで包まれていた。
根元から髪全体に、強いパーマのかかった
長い髪の女性がゆっくりと振り向いて
ようこそ、と微笑みながら言った。
その店は椅子が一脚しかなく、
椅子の前に置かれている鏡は異様に大きい。
そういえば、どうしてこの店が美容室だと解ったのだろう。
入口には美容院を示す物が何もなかったのに。
こちらへどうぞ、と女性はその一脚しかない椅子を指した。
誘われるままに椅子にすわると、
その目の前の大きな鏡に呑みこまれそうな気がする。
「外暑かったでしょう。よかったら冷たいお茶のみませんか?」
そういって女性は、
金色の美しい模様の入ったグラスを
鏡の前にある小さなテーブルに置いた。
それを手に取り、一口飲む。
アルコールが入っているのだろうか、
一瞬喉が熱くなったかと思うと
突然意識が朦朧としてきた。
そうして景色がぐにゃりとゆがみ、
遠くで 美味しいでしょうという声が聞こえた気がした。
その声はリフレインを繰り返して、消えていった。
気がつくと私は砂漠の真ん中で
金色に輝く蛇と対峙していた。
どうしたいの?
蛇は薄いグラスを弾いたような、澄んだ声で聞いてきた。
どうしたいの?
私はどうしたいのだろう。
何を迷っているのだろう。
何かが私の中で声を上げようとしている。
蛇はしゅるしゅると足元に近づき
そうして脚から腰を這い上がり
ついに耳元でまでやってくると
どうしたいの?
と囁いた。
私は目を閉じ、声を絞り出すように言った。
カットとカラーとパーマをお願いします・・・。
目をあけると私は
シャンプー台の席に寝そべり、
頭を洗われていた。
と、くりくりにパーマのかかった毛とつまんで、
伸ばしながら私が説明すると、
そんな事言わなくても大丈夫だよ、
可愛いって、失敗じゃないって。
友人が言った。