混沌(カオス)から、この世が創(う)まれて数百万年、

神魔大戦から七万年、

火神や水神、そして天界を束ねる天尊の尽力で、

世界は平和を傍受していた。

 

 

― 天界 回廊 ―

 

 白の世界と呼ばれる天界は、

宙(そら)から無数の花々や木々の葉が、

枝垂れるように降り注ぐ、美しい世界で、

花の淡い色々と、葉がもたらす緑の濃淡によって、

やわらかな色と香りに彩られている。

 

それでも白の世界と呼ばれるのは、

足元を流れる河の如き雲がもたらす白を指しての事だった。

 

 天界に建つ堂宇は、雲河の上に立ち、

道となるべく架けられた回廊によって結ばれている。

 この回廊は白く浮き立つ雲によって、

所々だが呑み込まれることもあり、

目立つようにと朱色に染められている為、

赤の回廊と呼ばれていた。

 

 その回廊を、二人の侍女が手に篭(かご)を持ち歩いている。

 

 「今日も天尊は火神に結婚を勧めたそうですよ。」

 

 火神に仕える若い侍女が、先輩らしき侍女に話しかけた。

 

 「あれほどのお力を受け継ぐ者がいない事は、

天界にとっても損失だもの。」

 

 先輩侍女も、もっともらしく答える。

 

 「同じ太古の神である水神は子だくさん、

今だって、夫人のお腹にはお子がいる。

だから天尊も、今からでも火神にお子をと望まれているのよ。

 でも、火神にその気はないのよね。」

 

 先輩侍女は、自分で言って感慨深げに頷いた。

 

 この七万年、誰も寄せ付けず、

氷雲閣に籠って修行に明け暮れる火神は、

すでに達観されているのだろうと思うからだ。

 

 「忘れられない人がいるからだって噂を聞いたんですが、

・・・本当ですか。」

 「忘れられない人?」

 

 若い侍女に訊かれて先輩侍女は考える。

長く仕えているけれど、修行ばかりでそんなお相手など一度たりとて見ていない。

先輩侍女は七万年以前ならと、記憶を遡ろうとして思い出した。

 

 「もしかしてだけど、その忘れられない人って・・・・・・、

火神を救った小神の事かも・・・」

 「火神を救ったんですか? 小神が?」

 

 若い侍女が驚くのも無理はない。

そもそも火神は孤高にして高潔、

さらには豪然たる強さを持った畏敬すべき神であり、

小神が助けられることはありこそすれ、

小神が助けるなんてことは絶対にありえない方なのだ。

 

 先輩侍女はその若い侍女の驚きを、

当然そうなるわよねとでも言いたげな顔で見て、

わかるわよと頷いた。

 

 「あなたが生まれる前に、神魔大戦があったのは知ってるわよね。

 私もまだ幼かったから、あんまり詳しくはないんだけど、

幾つもの世界が滅するのと同じように、

徳の高い偉い神々も消滅していったの。

 そしてね、その時、火神の神元も、

自らの力によって燃え尽きようとしてたのを、

偶然その場に居合わせた小神が、

命を擲(なげう)って救ったらしいわ。

 だから火神は、自分を助けるために塵となって消えた者を、

忘れられないのだと思うわ。

 それでずっと修行の日々を送られているのよ。

二度とあのような悲劇が起こらないようにってね。」

 

 先輩侍女は火神の気持ちを思って、

また感慨深げに小さく頷いた。

 

 

― 竜宮殿 ―

 

 一方、水神の居である竜宮殿、その奥の宮では、

ちょうど27番目となる娘が産声を上げたところだった。

 空は五色に色づき、吉兆の鳥が賛美の囀(さえず)りと共に飛び回る。

 

 天尊も水神も、これが何を表すのかは察していた。

 今、生まれたばかりの水神の娘は、

火神を救った小神の生まれ変わりであり、

生まれながらに徳を持っているのと同時に、

運命(さだめ)も引き継いでいるかもしれない子なのだ。

 

 その運命を避けるため、天尊と水神は、

まだ生まれたばかりの赤子に、未来の相手を決めようとする。

 

 天尊が最初に選んだのは、雷神の子だった。 

位も高く、水神の娘とならば遜色ない相手だと思えたからだ。

 だが水神が、雷神は火神に通じると断った為、

次に白羽の矢が立ったのは、山神の子で神木に宿る神だった。

 

 「かの小神はかつて湖ノ神として山にいた。

この者となら縁も深かろう。

 これより、木ノ神に見守らせ、時が来て双方に依存がなければ、縁を結ばせるとしよう。」

 

 天尊の言葉に、水神は頭を下げ、前祝いの盃を酌み交わす。

 

 

 

 

 それから五万年、

美しく成長した水神の娘は、

五万歳の誕生日に許婚がいる事を告げられた。

 

 時折、父である水神に連れられて登った山、

兄と慕った木ノ神が相手だと言われた事で、

水神の娘は一人で木ノ神に会いに来た。

 

 

― 梵天山  神木のある森 ―

 

 「今日は一人で来たの?」

 

 木ノ神に訊かれて、水神の娘は笑顔を見せた。

 

 「昨日、五万歳になったの。

もう子供じゃないもの、一人でどこにでも行けるわ。

 それより、また火神が妖獣を退治したって知ってる?」

 

 これまでと変わらず、水神の娘は木ノ神に接する。

 言い換えれば、水神の娘にとっての木ノ神は、

まだ兄でしかないのだ。

 

 「ね、木兄様は長くここ(人間界)に住んでいるから、妖獣を見た事もあるのでしょう。

恐ろしい姿をしてるの?

それとも禍々しい感じ?」

 

 水神の娘は、話しながら木漏れ日溢れる山の、森の中を歩き、木ノ神が宿ると共に、守っている大木の前に、腰を下ろした。

 それから、懐から取り出した好物のおやつの包みを開くと、

木ノ神にも勧めてから、一つつまんで頬張る。

 

 「実物を見た事はないけど、描写本なら持っているよ。

見るかい?」

 

 おいしそうに、おやつを食べる水神の娘を見ながら、木ノ神が言う。

 目を輝かせる水神の娘に、描写本を取り出して手渡すと、

娘はおやつを食べてる事も忘れて、それを夢中で見始めた。

 それを可愛くて仕方がないって顔で木ノ神が見つめる。

 

 そんな木ノ神を、少し離れたところから、

複雑な思いで見ている石ノ神がいた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ミニョが湖ノ神から水神の娘へと、転生いたしました。

 

ここから、転生を繰り返し、

メインの話へと繋がっていくわけですが、

その間、場所があちこちに飛んじゃいます。

天界だったり、人間界だったりです。

 

人間界でも時代が違ったり、

場所が変わったりしますから、

それを全部、文中で書き表す事ができなくて、

場面ごとに場所を示す事にしました。

 

という事もあって、

今の居住場所と人物を上げておきます。

 

まず天界のイメージは文字にしました。

雲を川に見立てたので、雲河とし、

季節はないので、年中花が咲いています。

そんなこちらには、

 

火神の居住である氷雲閣があります。

 

天尊の画像はありませんが、

お住まい兼、謁見や会議などを行うのは天浄宮です。

 

 

そして地上、こちらの世界は人間界と同じ見た目ですが、

次元の違うため、人間と神の接触はないのです。

 

まず、そんな海の中に、

 

水神の居住、竜宮殿があり、水神の娘もここに。

(海の中は童話などでイメージがあるかと思い、文字にはしませんでした。)

 

それから、梵天山という山神(女神)の山には、

 

神木に宿る木ノ神や、

 

 

岩や鉱石の神である石ノ神がいます。

 

なんとなく想像できたでしょうか。

 

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