本牧読書日記。安部龍太郎「ふりさけ見れば」(上・下)  (日本経済新聞出版)。


朝日新聞書評を見て読んでみた。

当初は司馬遼太郎を思わせるロマン調でおおいに期待したが、100%期待は裏切られた。

司馬の事実8割・小説的脚色2割に対して、本書は逆。脚色8割・事実2割だからである。

しかも脚色が荒唐無稽に過ぎる。

我慢して読みきったが、まともにブログに書く気がしない。

一応の筋書きとしては、日本(天皇)の正統性を支配者・唐(玄宗皇帝)に認めさせるために、阿倍仲麻呂が国命によりスパイとして唐に残留、策を弄して皇帝側近に昇任、遂に日本と大陸史の最重要史料たる「魏略」第三十八巻を手に入れるフィクションが筋となっている。

しかし、仲麻呂の後妻が玄宗の命により楊貴妃の実姉であったり、仲麻呂自身が武道の達人だったり、日本経済新聞連載とは信じられないような、こういうのを何と表現したらよいのだろうか、「劇画風」とでも言うべきか、上・下900ページにも及ぶので1週間ほどを空費してしまった。


ここでは仲麻呂関連年表と表紙画像だけを残して、当ブログ最短文章をもって終える。

698  仲麻呂誕生 。 702  第8次遣唐使 ・ 僧弁正など。

710  平城京遷都。   712「古事記」。

717  第9次遣唐使・阿倍仲麻呂、吉備真備など長安へ。

720 「日本書紀」。

724~749  聖武天皇。

733  第10次遣唐使、吉備真備など帰国、仲麻呂残留。

740  楊貴妃登場。755  安禄山「安史の乱」(~763)。

753  仲麻呂・秘書監に任命。遣唐使船で帰国の途につくも遭難、安南に漂着。

755  苦難の末に唐中央に復帰。

760~766  仲麻呂、鎮南都護・安南都護(ハノイ)に就任。

762  玄宗、高力士死去。

770  仲麻呂死去。大都督(従2品)を贈らる。

こうした数奇な運命なのだから、著者の知識と筆力だったらもっと文学的に価値の高い作品が書けただろうに、その点でも二重に残念である。


こうした本に出会うと読書に身が入らず、音楽、テレビの時間が長くなる。
日曜「クラシック音楽館」のリヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」が実によかった。
R・シュトラウスは大好き。近代人の情熱と懊悩とロマンティシズムの音楽であるから。
「英雄の生涯」とは作曲家・シュトラウス本人を指すとの通説に反して、番組ではバッハから始まるドイツ音楽の巨匠たちの生涯を表すのだとの解説があり、長年の疑問が解決し納得できた。
山田由美子「第三帝国のR・シュトラウス」(世界思想社)を思い出す。
そこから同じ著者の「ベン・ジョンソンとセルバンテス」や「ドン・キホーテ」そのもの、さらにシェークスピアやショスタコーヴィチと、読書と音楽の世界が拡がったのである。
これらはもう20年近く以前の話。まだ現役だったし生活に張りがあった。
「張り」があるから本の一つ一つが身に染み込んだ。
その全ての復活は無理にしても、その幾ばくかは取り戻したいとは思うものです。
次回はもっとまともなブログに戻そう。
(5月11日作成・17日掲載)。