もう50年ほど前の学生時代、厭世的になっていた一時期がありました。そんなある日の通学途中の電車での出来事でした。
隣に小さな女の子とお祖父さんが座っていました。二人は途中の駅で降りていきましたが、ふと横を見ると、その女の子の “リカちゃんハウス” が置き忘れてありました。とっさにそれを持って閉まりかけた扉からとび降り、二人を追いかけ渡しました。お祖父さんから「良かったね」と言われ、はにかんだようにコクリとうなずく女の子を見て、ただすごくうれしくて、優しい気持ちになりました。
今、改めてふり返ると、このことをきっかけに気持ちが前向きに変わっていったように思います。些細な親切にすぎない行動でしたが、自分の人生にとって、一つの大切な出来事だったのではないかと思います。
(庄司薫さんの小説『赤頭巾ちゃん気をつけて』のラストシーンのような出来事でした)