焚き火の煙が目に染みる。熊本県苓北町。白岩崎キャンプ場の朝。


朝から焚き火。

長旅の日常。


今日も天気は良さそうだな。

のんびり準備してまずは海岸線のサンセットラインを大江教会へ。

去年のおさらいだ。



戻って来てしまったよ。

去年はここから一気に北九州まで強行軍で引き返したっけ。

思うところは沢山ある。

一度此処まで戻って来ないと自分の頭の中をリセット出来ない気がしてた。





ガルニエさんまたこの地に戻って参りました。




7ヶ月ぶりの大江教会。

ここから先は未知の旅。

さあ!行こう!

下島を南下して世界遺産、崎津集落へ。

先ず崎津集落に到着するとボランティアのおばちゃんにバイクの駐車場所へ誘導される。

パンフレットも貰い良かったら資料館から見てって下さいとアドバイスされる。

それはそうだよねえ。崎津集落が何なのかも知らないんだから。





入館料100円を入口で払うと、今度はおじちゃんに声をかけられた「時間は有りますか?良かったら10分程ですが説明をしながらご案内いたします。」

そうですか。それではお願いしますとボランティアの語り部おじちゃんと一緒に拝覧する事になった。

「この建物みなと屋は実際にここにあった旅館です。昭和11年に建てられた旅館を2016年に改築してこの資料館は作られました」




「江戸時代に入り禁教令がひかれると、当時集落の人々はキリスト教だったのですが表向にはみんな仏教徒にされてしまったんです。」


「ですが、簡単にはキリスト教への信仰心は無くならず潜伏キリシタンとなるのです。」

「例えばマリア像ですとか」「十字架とか」「メダイ(メダル)とか持ってると罰せられるのでそういった物は持てませんでした。これを見て下さいアワビの貝殻です」




「この貝殻をじっと見てると見えて来ませんか?イエス様を抱いた聖母マリア様が見えると言われています。」

「向きとか、人によっても見え方が違うんですがいろんな見え方で聖母マリア様が見えて来ます。」

なるほど…見えて来た様な…。

「こういった信心具だと持っててもわからない。ただの貝殻ですから。潜伏キリシタンは当時こういった物にお祈りしていたのです!」


「これが崎津集落の模型です。当時と今、殆ど変わって居ません。」

「森の中にある神社、諏訪神社も含めて世界遺産に入っています。何故かと言うと禁教時代、集落の者は神社の氏子となりながらも参拝の際には密かに此処でキリストへお祈り唱えていたと言う歴史も含めて世界文化遺産だからなのです。」

なるほどねえ。神社に参拝しながらも心の中ではキリストに祈ってたんだねえ。

歯がゆい思いだっただろうなあ…。

「教会は禁教令が終わった明治時代に信仰を守ったキリシタンによってやっと建設されました。」

「現在の教会は昭和9年ハルブ神父がかつては毎年、幕府による踏み絵が行われてた場所に建てる事に意義があると建てたのですが…地主と土地の買収交渉が長引き、全ての土地を買収する迄に相当な時間がかかり入口を作った時点ではモルタル。でも横から見ると木造。これは途中で予算が厳しくなって来たから木造になってしまったそうです。」

へ〜!トリビア!

こんな感じに10分程の説明が終わり語り部おじちゃんは次に入って来た入館者の元へ去って行った。

語り部おじちゃんありがとう!

最後にキリスト教へ入信を勧められるかと思ったらそう言った事は無いんだねえ。




二階に上がると猫?を踏んだウマンテラさま像。

この人は堕天使なのでは?

動物を踏んでるし。

天使界から追放されたとか…。

語り部おじちゃんのおかげで崎津集落を少し理解出来て来た。




内海に面した崎津集落。湖の様だ。


かつての宗教弾圧も言われなければ、わからない程に今は平和だね。



当時は崎津集落は海路でしか来れない隔絶の地だったとか。

天草四郎率いる一揆軍に参戦しなかったのは外界でそんな事が起きてたのすら知らなかったらしい。

だからこそ集落の人々は幕府からの処刑も逃れ。

こんな歴史を歩んだんだとか。


禁教時代に踏み絵をやらされていた屈辱の場所、吉田庄屋役宅跡にハルブ神父の強い希望で建てられた崎津教会。

此処に建てた事で屈辱の歴史を塗りかえたかったんだろうなあ。

確かに正面から見るとモルタル仕上げ。


横から見ると途中から木造。

中は撮影出来なかったが畳が敷いてあった。

そしてモルタルと木造の境目が中からはわからない綺麗な作りだった。


錦鯉も居てマリア像。

仏教もありキリスト教もある。

これで良いのだ。

宗教に固執しすぎなければ戦争は減る。




この辺りは景観が守られてるから散歩してても楽しい。




昔ながらの焼杉板造りの家屋って良いよねえ。


情緒のある甘味処の南風屋(はいや)さん。


入江に公園が整備されてたり。


心地良いそよ風が吹いていて。


静かな時間が流れてた。


ずっと人々を見て来た崎津の海。


もう好きな者を信じればいいさ。


しばし。崎津集落をほっつき歩く。



これが島原の乱の後に建てられた崎津諏訪神社か…説明を聞いてから来るとキリスト教弾圧の象徴的な神社だなあ。

本当は嫌なのにこの石段を登り神社に参拝するふりをしてキリストに祈りを捧げてたんだねえ。


神社を登ると当時は無かったであろうキリスト像。

日本全国探しても神社に置かれたキリスト像ってここだけなのでは?

クリスマスにツリーを飾り。お正月には門松を飾る。実はそれは凄く平和な光景だったんだね。




民家の軒先にはマリア像。



鳥居の向こうには崎津教会が見える。

これは確かに歴史を勉強してから来ないとふーん?で終わりそうだけど、昨日からの天草四郎ミュージアム見てからの崎津集落なので感慨深い。資料館に先に寄ったのも良かった。



この辺りの名物 杉ようかん


話しの種に食べてみたらこれが柔らかくて甘さも丁度よい。

220年前に琉球王の使節団がこの地に伝えたとか。

一時は途絶えた杉ようかん。近年地元の人達が復活させたとか鮮やかな紅色は天草産のドラゴンフルーツを使ってるらしい。

杉は保水性と殺菌力があるから防腐剤の代り。

先人の知恵だねえ。



結構長い事、崎津集落に居たな。

案内係のおばちゃんに会釈してやっと走り出す。



崎津集落がある入江を周り込み天草、下島の最南端に位置する牛深へ向かう。


穏やかな澄んだ海。


なんて綺麗な海なんだろ。


牛深に入った辺りに出て来た中華屋さんでお昼にする事に。



バイクを停めてたらたまたま外に出て来た店主さんに話しかけられる。

「横浜から!来たの!」

「そうです。」



店主さん「俺もCB750に乗ってるんだけどいまバラバラにしてて早く組み立て無いと…いい時期なのにさあ乗れないんだよ…」

へー。店主さんもバイク好きなんだ!



なんか良さげな店だなあ。

店内に入るとお客さんがちらほら入ってる。

愛想の良い奥様に案内され席につく。

店主さんが奥様に「横浜から来たんだって!」って言った瞬間に店内に居た皆の注目を浴びた(笑)


かた焼きそばを注文して待っていると不意に後ろに座ってた綺麗な女性に声をかけられた。


女性「横浜から来たんですか?」

私「はい。そうですよ〜。ず〜と旅しながら…」

女性「牛深って日本で一番遠い所って言われてるんですよ!」

上手い事言うなあ(笑)

確かに熊本から来ると宇土半島を走り橋を渡りながら大矢野島、上島、下島と経由してグニャグニャ走りながら最南端にあるのが牛深。

鹿児島側から来ようにも陸路で来れるのは橋で繋がってる長島まで。

長島からフェリーで渡るしか来れない。

確固たる決意で目指さないと来れないのが牛深。

それにしてもこのお姉さんは?1人?って思ったら会社の上司と思われる男性もやって来てしばし旅の話で盛り上がる。

お姉さんは結婚してて(残念!)旦那さんと今度、北海道まで車で行くんだとか。

旅が好きなんだねえ。なので思わず声をかけてしまったらしい。

女性「牛深ハイヤを見に来たんですか?」

私「牛深ハイヤって?」

女性「お祭りです!明日からやるんです。」

そう言えばなんか聞いた事があるかも。

私「いや…たまたま来ました。」

女性「牛深ハイヤ見に来た訳じゃ無いんだwww」

どうやら牛深ハイヤって言う大きなお祭りの前日に偶然来たらしい。




かた焼きそばが出来た!

これがむちゃくちゃ美味かった。

牛深の思い出の味となった。

お姉さん達に挨拶して出発!!


むむ!この、のぼりは?合戦か!


牛深ハイヤ祭りの、のぼりだった。



あれよあれよと言う間にループ橋に迷い混む。


ありゃりゃどうしよう。

世界は周る。

地球は丸い。


珍しく方向感覚を失う。



ループ橋を脱出して地図を見る。

下須島っ言う島に居る?

どうやら牛深ハイヤ大橋を渡り下須島と言う天草、下島最南端牛深の更に南端に位置する島に来たらしい(笑)



きっと此処までは中々来る人は居ないぞ。

せっかく来たからには島の最南端を目指すのがライダーの性。



もはやスマホの電波も途切れ途切れ。

最後は己の方向感覚だけで急勾配の細い道を走り辿りついたのはほぼ最南端の小森海岸。





目の前の岩礁に何か建造物がある。


ズームすると三角の吸気口の様な物がある。

これ明治30年に作った海底炭鉱の入口なんだって!


建設から125年!?

そのまま残ってるなんて。

この炭鉱、実際のところは採掘の効率が悪すぎて湧水に悩まされたり…。使ってたのは数年だったとか。

旅をするとこんなトリビアが増えるな。

旅の物知り博士になりつつある。







下須島の此処まで来ればもう思い残す事は無い。

また迷いながら牛深に戻る。



戻り道で見つけた白い砂浜。


もうこの辺りで旅を終わらせて。


のんびりここで暮らしたいけど。

旅人は1箇所に留まれ無いんだ。

天草諸島、最後の島。

長島にフェリーで渡るべく牛深港へ。




明日からの牛深ハイヤ祭りなので前日祭なのか大音響でハイヤ大橋の辺りから祭りの音頭が流れてる。

1日待って見ていきたい気持ちもあるけど、何故か心は先を急ぐ。



フェリーの発着場所にバイクを置いて道の駅に併設された切符売り場に向かった。

次便は14時。

出港までまだ1時間もある。

バイクと人で1460円払い切符を買い施設内をウロウロ。



何故か真鯛の生簀がある。


みんな同じ方向を向いて輪になった生簀をぐるぐる周る。

指を入れると噛みつきますから指を入れないで下さいって書いてある。

ダメって言われるとやりたくなるよねえ…

やりたいなあ…

指で釣れたりして…

安心して下さい「やってません!」




そろそろ出港の時刻。


あれ?


くまモン。

くまモンワンピース?

くまモンフェリーに乗り込むぞー!!




バイクは1台だけ。

車もたいした台数では無いけど。このフェリーは重要だよね。無くなったら鹿児島方面へ抜けられ無くなる。


さよなら下島。

さよなら牛深。

牛深ハイヤ祭りを見れなかったのが心残りだけど…。



バイクは積み込みが一番先だから一番乗りに船室へ行ける。

席を選び放題だ。



九州に来たら懐かしのスコールで喉の渇きを潤す。

去年も帰路に島原半島へ渡る航路で飲んだなあ。


牛深から長島の蔵之元港へは30分。


点在する島々を眺めながらしばしの海の旅。


これは戸島かなあ。


富士山みたいな島だな。




そろそろ蔵之元港だと思うんだけど。

船着き場が見え無い。


断崖絶壁で上陸出来るのか?って思ったら無事に着岸。

数台の車の下船を待ってからいざ!




天草諸島最終ステージの長島に上陸!

と同時に鹿児島県に入った。




もはや放浪と言うか。

漂流。

流れ流され島流しの旅。



上陸したは良いけど長島の知識はゼロ。

さてどうしよう。上手くキャンプ出来る場所が見つかると良いけど。


船着き場で見つけた100円野菜コーナー。




サンチェを買おう。たまには葉物野菜も食べないとね。

近くに長島青少年旅行村って言うキャンプ場があるけど、調べたら開設時期が7月〜8月。

今はまだやってないのかあ…島を周りながら野宿を出来る場所を探す事にしよう。

長島古墳公園と言う道標を見つけて曲がってみた。公園ならキャンプ出来るかも。

駐車場には軽自動車が1台。おばちゃんが休みながら怪しげなムード歌謡を聞いている。憩いの時間を邪魔しちゃったかな。

う〜ん。テントを晴れるスペースは有るんだけど。きっとここはあまり人も来ないだろうし…。



古墳って事は大昔のお墓だから野宿するには微妙かなあ。

でも霊魂の寿命は400年って聞いた事がある。

この古墳は6世紀に造られたらしいからもう大丈夫かも。

いや待てよ。ツタンカーメンの呪いみたいな話しも有るからなあ。


 
長島は古墳の島で200基を越える古墳が点在してるんだとか。今でこそ鹿児島本土と橋で繋がって居るけど、島なのに太古から人が住んでたのが意外だよねえ。


この場所はキープで。先へ進む。

次に出て来たのは道の駅長島の横にあった恐竜の骨格標本?




良く見たら流木アート。

これは凄い。

感心してる場合じゃないや。

今日寝る場所を探さないと。

夕暮れが迫る前にテントら張りたいところだ。

その前に出て来たAコープで買い出し。

クーラーボックスにビールと食材を詰め込み島の西岸の国道を南下する。

パーキングスペースがあったので入って見ると階段があり子供の遊具があるような公園があった。

誰も居ないしトイレも有るからここでも良いけど流石に遊具の隣りに張るのは怪しいかな。下手したら通報ものだよな。

公園の脇に街路樹がありちょっとしたスペースがあるので、そこに張れるかなあなんて思ったら名前が書いてある養蜂箱があり、蜂は見えないけど蜂に襲われたら怖いからこの場所もキープで。移動。


中々良い場所が無いまま島の南端まで来てしまい島の東側の県道で折り返す。




長島を一周しそうな勢いだ。

県道47号で船が到着した逆岸を目指す。

地図で見ると太陽の里って言う場所に温泉マークが付いてるから行ってみよう。

何故ここを目指したか。北海道の南富良野にも太陽の里って言うのがあり、そこは昔、無料キャンプ場も有り良く行ってたから名前に期待しただけ。




行ってみたら温泉施設とコテージ群があり近くにはまだ開設時期前の松ケ平キャンプ場ってのが有るらしい。

せっかくだから温泉に入って行こう。

困った時には飯を食べるか風呂に入るかだ!


ローカルな張り紙。

誰か貰ってあげて!

450円払い温泉施設 東泉望さんへ



丁度、仕事帰りに寄るのかな?島民と思われる人達が世間話しをしながら入って来る。

そこは俺の洗う場所とか縄張りとか決まって無いだろうなあ(笑)

大丈夫みたいだ。ゆっくり身体を洗い髭も剃り風呂に浸かれば八代海が一望だ!

まだ寝る場所も探せて無い事も忘れ温泉を満喫。

温泉を出たら近くに有るらしいまだ開設時期前の松ケ平キャンプ場に行ってみよう。

何と無く勝手にキャンプ出来たりしないかな。

バイクで坂を下り切ると海へ降りられた。

取り敢えずキャンプ場に来てみたら、すっごい良い場所。

海水浴場に面した静かな場所にある。

開設前なのでロープは張ってあるけど脇から入れるね。

「失礼しまーす。」

管理棟に近づくとヤバい。軽トラが2台。人が二人見える。草刈りの人かな?
 
管理人さんかも?

もう入ってしまったし。怒られる前に先手必勝のキラースマイルで挨拶攻撃だ!

私「すみませーん!ここはキャンプ場ですか?」
白々しくとぼけて聞く。

管理人さん「そうなんだけど、まだやって無いよ。」

私「勝手に張ったらやっぱりダメですか?」

管理人さん「出来れば張って欲しく無いねえ」

私「そうですかあ…この辺りでキャンプ出来る場所は無いですかあ…」無さそうだから此処に来たのにわざわざ聞く。

管理人さん2人が顔を見合わせる。

管理人さん「無いよなあ…張らせてあげようか…」

管理人さん「いつまでキャンプしたいの?」

私「一晩だけです!ゴミも持ち帰ります!」

管理人さん「まあ良いよ。一晩だけなら。水も出ないけど。」

やった!!

私「ありがとう御座います!助かります!!」

深々とおじぎして2台の軽トラを見送る。

ほら。なんとかなった。こうしていつも長旅を乗り込えて来た。

満面の笑みで管理人さんを見送りテントを張る。




本来は1000円だったみたい。


東屋の隣りで海が一望出来る最高の場所だ!

追い詰められた状態からの逆転勝利だ。


椰子並木があったり最高の立地だね。




そして目の前の浜には流木がいっぱい。


薪には困らないね。

さあ晩御飯食べようか。


鹿児島産の豚バラに地物のサンチュを巻く。




サンチュにね。ご丁寧に書いてあったんだ。

「肉に巻いて食べる。」って。

今日もビールが美味い。

長島って良いとこだな。



今日も当たり前に焚き火が出来るのが何よりだ。


月も昇って来たね。

今宵は満月か。


この旅もこれで天草諸島を制覇したし。

そろそろ明日から帰路に着こうかな。



もうすぐ出発してから一ヶ月。



帰路はどう走って帰ろうか。


まだまだ走って無い九州は沢山ある。


全部走ったらダメなんだ。

次の楽しみが減っちゃうから。



まだ人生は長い。

ゆっくり明日から戻る旅だな。

つづく。