旅の朝が開けた。

ライダーハウスを後にぬかるみに気を付けながらトイレのある母屋へ。

「寒っ。」


庭先から見える鳳凰三山も上の方は雪が降った様だな。

野良猫に「ニャー」って話しかけたのに。

一度はamemiyaさんと勘違いして寄って来たのに。あれ?違う人だと踵を返して高いとこに登ってく。

大丈夫だよイジメ無いから。

田舎の朝は早い。

顔を洗ったらもう朝食が用意されていた。


朝から沢山あるね…。

実は寝起きは食べれない体質。

頑張って食べたけど少し残す。

私「ごめん残しちゃって。」

amemiyaさん「大丈夫!野良猫にやるから!」

助かるなあ。後は野良猫達に任せよう。

南カリフォルニア在住の二兎さんは去年北海道ツーリングの為に日本で購入したCRF190Lを此処に預けて帰米した。

その間はamemiyaさんが最高のコンディションを保てる様に乗ったり整備したり。

今回、二兎さんは九州ツーリングに行くべく来日したものの九州の天気が暫く怪しい傘マーク。早くも行き先を変更。若き日を過した京都の北山辺りを周る予定とか…もしかしたら九州にも足を伸ばすかもと…。

今日も午後から確実に雨マーク。

何と無く出発前に私が避難場所に探しておいた静岡県磐田市のライダーハウスを教えると早速予約を入れていた。

俺もそうしようかなあ…。

でもライダーハウスっていろんな人来るかもだし…雑魚寝だし気を使いそうだしな。

どうしようかなあ…。オーナーさんもクセが強い人が多いしな…。

雨なら出来れば温泉宿に泊まりたいなあ…。



走りながら考えよう。

いざとなったら俺もそこだ。

この希少な2台が揃うなんて。

同じ190ccのエンジン。同じ中国製HONDAなのに会社は違う。

新大洲本田のミニアフリカツインと言われる二兎さんのCRF190Lはオフロード寄り。

俺のは、はじめからサイドボックスとトップケース付きのフルパッケージで旅のコンプリートマシンの如く売り出した五洋本田CB190X。

こちらは今流行りのアドベンチャーモデルを意識したアプローチだ。

エンジンが一緒だから情報を共有出来るのは有り難い。

記念撮影した後にラリー式スタートだ。

二兎さんの出発をゆっくり見送ってから出ようかね。

お互い目指すは西日本。また何処かで会うかもしれない。


「行ってらっしゃーい!」

「気をつけて!」


荷物満載。

遂に二兎さんはツーリング旅のスタートを切った。
お互いの健闘と無事を祈る。


行っちゃった…。

さあ。二兎さんも行った事だし。

荷物降ろして雨だし連泊しよっ(笑)

そんな衝動に駆られながらも頑張ってこちらもスタートを切る。

「amemiyaさんお世話様でした!」

また帰路に3人で此処で会えるかな?

走り出してすぐに二兎さんが路肩に停まり写真を撮ってた。

もう会っちゃったよ。「お先に〜!」

ナビも地図も見ないで走る。

海に出るには広域農道をひたすら走り富士川街道に出れば良い。

富士川を眺めながら流れと一緒に下れば海に出るはず!


予想どおり富士川に出てほっとする。

もう1時間以上は走ったかな。

なんの意地なのかまだナビも地図も見ていない。

ちょっとした達成感。

雲行きが怪しくなって来た。

午後からは雨らしいからな。

雨が降り出す前に土手にテントを張るのも手だけど、あまりにも距離走って無いしまだお昼にもなって無いから走り出す。

少し走ったコンビニでコーヒータイム。

コンビニの裏手から富士川の土手を上り川を眺めながら一人作戦会議だ。初めて地図を開く。

「ふ〜。気ままな一人旅。今日は何処まで進もうかな?」


土手を振り返れば富士川街道。

「あっ!二兎さんが駆け抜けてった。」

「チっ!抜かれた。」

この若干の悔しさは何だ!?

別に本当にラリーレースやってる訳じゃ無いのに。

それなのに急いでバイクに跨り追走してる自分が居た。

長い赤信号にすぐ止められた。

ダメだこりゃ。もう追いつけん。

諦めてマイペースで進む。

桜も咲きだしたね。

此処で停まれる心のゆとりが大事だ。

旅は長い。

ゆっくり行こう。

そんな旅がやりたくて自由になったんだから。


春本番いよいよこれからは桜街道のツーリングになりそうだ。

富士川沿いに更に下れば早くもポツリポツリと雨粒が…。

早くも降り出すのか?

道の駅なんぶに緊急避難。

合羽を着るべきか。

雨をやり過ごすべきか。

「幸せの丸鳥君、雨を止ませて…。」

願いが通じたのか本当に雨が止む。

しかしながら、どこかで本降りになるぞ。

嫌だなあ…雨の中テントを張って野宿とか。

スマホでビジネスホテルを調べてもリーズナブルな価格のとこは既に当日じゃ満室だし…。

これは二兎さんが向かってる磐田市のライダーハウスで良い気がしてきた。

そうと決まれば早速電話。

オーナーさんと思しきオバちゃんが出た。

話しは通って居た。二兎さんがもう一人来るかもと言ってくれてた様だ。

私「別々に向かってるんです。宜しくお願い致します!」

結局一緒に泊まるんなら一緒に走れば?って思うでしょ。

ツーリングって走る時は別々の方が自分のスピードで走れるし。好きに休憩や撮影出来るし。気が楽だし安全なんだ。

寝る場所が決まればもう雨が降ろうがへっちゃらだ。

遂に海沿いの高速道路の様に流れる国道1号線のバイパス化された道に出た。単調な道を流れに乗りひたすら走る。

お腹が空いて来た。バイパス化され過ぎてインターで下道に降りない限りは食べる所も出て来ない。

藤枝で名物朝ラーメンでも食べようか。

藤枝市に入った辺りでバイパスから下道へ。

藤枝のラーメン屋さんを検索して気が着いた(笑)もう11時。

藤枝朝ラーメンの店は軒並み閉店時間。

もうなんでも良い。ラーメンでも定食でも牛丼屋でも。

闇雲に市街を彷徨っていると中華屋さん発見!

そのタイミングでファミリーのお客さんがお店から出て来た。

他にも車停まってるし!ここに決定!


店内に入ると結構広く清潔感がある。

適当に空いてるボックス席に座って良いらしい。

今日のランチ…。これどういう事?

一品料理の定食かラーメンもあるよって事?

いや違う!20種類ある一品料理から一つ選んで更に6種類あるラーメンから一つ選んで。更にライスも付きお替り自由みたい。この値段で!?

半信半疑のまま店員さんを呼ぶと中華系の感じの良いお姉さんがやって来て、素人だと悟られ無い様に(笑)

「チンジャオロースで醤油ラーメン。ライスは少な目で」って言ったらこんなに出て来た(笑)

良かったライス少な目にしておいて。

キムチ小鉢やサラダもついて780円って…儲けあるのかと心配になる。

普段から少食な俺にしては頑張って完食した。

クオリティー高いな。腹苦しい…。

藤枝朝ラーメンは食べ損なったけど藤枝に来たらこの店だな(笑)

満腹過ぎると眠くなる。

バイパスに復帰してひた走る!

磐田市に入った辺りでバイパスから離脱。

なんとか天気はもっている。

ライダーハウスに着く前にお風呂へ入っておこう。

Googleさんに検索で聞く「一番近い日帰り温泉」

10分ぐらいの距離にあった「磐田ななつぼし」って施設へ田舎道を走り到着。




ふ〜ん。人工的に作られた炭酸泉らしいね。

可もなく不可も無く。さっぱり出来て良かった。旅って風呂に入れ無い日もあるから入れた日はモチベーションが上がる!

でも風呂から出て天気予報を見てたら後10で降り出すぞ!

慌ててライダーハウスを検索して出発!!

「ポツ…」「ポツ…」やばっ。来るぞ!

ライダーハウスまで後7分なのに。

俺は知って居る。この場面で即座に合羽を着れるかが明暗を分ける。

合羽。長靴はサイドボックスの内側のデッドスペースにある。面倒くさがらず急げー!

着たタイミングで本振り。

うう…。温泉入ってさっぱりしたけど。既にぐちゃぐちゃ…温泉入らなければライダーハウスに着いてたな。どっちが良かったんだろ(笑)

程なくスマホナビを頼りにライダーハウスKENさんに到着!二兎さんのCRF190ももう先に到着してて一安心。

軒下にバイクをねじ込ませる。


ここがライダーハウスの入口。

隣が同経営の居酒屋KENさん。

二兎さんに受付方法を聞くと申し込み用紙に必要事項を書いてファイルに入れ2000円一緒に入れてテーブルに置いとけば後でお母さんが回収に来るって…なるほど!

一万円札しか無く挨拶がてら居酒屋に持ってってみるとオーナーさんであろうお母さんが仕込み中。挨拶してお釣りを貰う。「御飯作ってるからねって!」

えっ!遅めに食べた中華屋さんの分がまだ消化しきれて無い…。



どうやら二兎さんが二人分お食事も頼んでくれてるらしい…。

本当に食べ切れ無いと悪いのでお米の御飯は夜は食べ無い習慣なんでと…夜の主食はビールです!(笑)って強調したらどうやらメニューを変更してくれるらしい。

ライダーハウスって言うのは独特だ。


注意書きは一読すべし。




いざとなったらで丁稚制度で泊めて貰えるらしい…。

ライダーハウスの起源を遡れば1970年代後半ぐらいから北海道を旅する若者が駅舎やバス停で寝てるのを見かねて納屋や倉庫など開いてるスペースを無料で泊まって良いよって地元の人が善意で開放したのか始まりだ(たぶん)

自分が若者の頃は既に1990年代。その頃にも北海道にはライダーハウスがいっぱいあった。

無料こそ少なくはなってはいたけど無料〜1000円ぐらいでいっぱいあった。

正規の宿泊施設では無いので、安価で有り難く使わせて貰うって言う気持ちが必要なんだ。

そこを履き違えて部屋を汚して帰ったり。ゴミを放置したり。夜中まで騒いで近隣住民とトラブルになったりして…そもそも儲けなんてほぼ無いしで嫌気がさして辞めてしまうとこが多く衰退して行ったんだよねえ。

そんな事も有り1990年代当時、アウトロー野宿ライダー気取りの俺はライダーハウスに泊まる人種を一方的に嫌ってた。ライダーハウスばかり泊まり歩く奴なんて仲良くなれる気がしない。男は黙ってテント張って野宿に焚き火だ!ぐらい思ってたよ(笑)実は2回泊まった事あったけど。

その時代のライダー達が地元に戻り始めたライダーハウスが今では少ないながら全国にあるんだ。ここもそんな場所の1つであろう。

もう。だいぶ俺も丸くなったし。

もしおかしなヤツが同じ日にライダーハウスに来ても一晩ぐらいなら我慢しよう(笑)

そんな気持ちで宿泊を決心した。

カーテンの向こうに布団もある。

シュラフ持参が基本だけど現状復帰させて帰って貰えれば使って良いらしい。



それではと先に我らは奥半分に布団をひかせて貰う。



昔のカーフェリー2等船室雑魚寝部屋みたいな雰囲気になって来た。

この後に雨降りしきる中、YAMAHAテネレ700に乗った方が到着!


テネレ氏「これから天気は大荒れで台風並みの嵐が来るから!ちょっと軒下詰めて貰っていいですかー!!」

俺と二兎さん一瞬キョトン。

米国から来た二兎さん冷静に気象情報をググる。

二兎さん「明日の予想気圧が○○ヘクトパスカルって事は…」「ミリバールに換算すると…○○ミリだから…たいした事無いような…」(米国はまだミリバール)

クククッ…絶対にこの人自体が嵐なんだよwww

一人ほくそ笑む俺だった。

何はともあれバイクを詰めてあげよう。

三台ともフルパッキングで横幅がありかなりギリギリのクリアランスで通路も確保しつつ頑張って収めた。

聞けばテネレ氏バイクラリー大会に参加する為に出発したものの天候悪化の為に一晩ここでやり過ごすと…実はYAMAHAの元社員60代半ば。バイクの開発に携わって来た方だった。

俺も乗ってたTT-R250レイドやブロンコにも携わってたって。

夕食の時間になり我らは居酒屋に移動。



うわっ!掘りごたつ式のカウンターって初めて見た。


お任せのおつまみ。トンカツがブランド豚で厚い。

サラダに。枝豆。シマホッケ。

生ビールも貰い「カンパーイ!頂きまーす。」

そのタイミングでお母さん。

お母さん「ねえ!生ビール注げる?」

私「大丈夫出来ます。」何しろ居酒屋勤務だった時代もあるから…。

お母さん「そしたらちょっと用事があってすぐ戻って来るから自由にやってて!」

爆笑〜!何それ。新しいシステムだな。飲んだ分は自己申告制?

行っちゃったよ…www


「二兎さん!はーい!生お替り1丁〜!」


「自分の分もお替り一丁ー!!」

まさか地元の居酒屋ならともかく旅先でカウンター入るとは思わなかった!!

他のお客さん来てもお母さん帰って来るまで俺、出来そうな気がする。

わりと早くお母さん帰って来た!

私「生ビールいっぱいづつ飲みましたー。」

聞けばお母さんは70代。

かつては北海道も走る旅ライダー。

ライダーハウスに泊まる事もあったとか。

ライダーハウスに泊まる際に隣に居酒屋があれば良いのになといつも思ってたとか。

中々そんな立地のライダーハウスも無いので無ければ作ってしまえと此処に移り住んで始めたらしい…。凄いな!

視力の低下や目眩で2年前に遂にバイクを降りる決心をしたとか。

子育てしながら分割で数年かけて日本一周も成し遂げたとか。

お母さんの今までの旅の話し。

ライダーハウスの苦労話し。

俺の旅の話し。

仕事を辞めて旅に出て来ちゃった話し。

人生の大部分をバイクや旅に費やして来た話し…

飲みながら話しは尽きない。

お母さん「あなたの話し面白いわね!逸材だわ。」

と、お褒めの言葉を頂き。最後は二兎さんが手作り餃子を注文して皆で一緒に食べてお開きとなる。



もうお腹いっぱいで一個だけ食べたけど絶品でした。

「お勘定で!」

なんと二兎さんに去年泊めて貰ったお礼だとごちそうになる。

「二兎さんご馳走様でした!」

部屋に戻ろう。

きっとテネレ氏は一人で退屈してるに違い無い!

嵐に備えて一人で窓枠に板を打ちつけてたりして無いだろうな…。

遅くなり過ぎる前に居酒屋KENを後にする我らであった。

つづく。