前日のサーマルソアリングに気を良くした俺は2人に無理を聞いてもらい、今日も口臭岳でトレーニングをさせてもらう事になった。
しかし、前夜調子に乗って飲みすぎ約束の時間になっても起きれず、結局チェックアウト時刻ギリギリくらいに宿を出発した。
シグマッ!てめ〜調子くれてんじゃねーぞ。
タイメイケンが何回部屋に電話入れたと思ってるんだっ!先輩2人も待たせやがって。時間勿体無いだろうが!
(頭痛てー…キモチワリイ〜…頼むからでけー声出すなよ…。)
まあまあ…ヨーダさんいいじゃないですか。俺達もシグマに飲ませすぎたし。
(そうだそうだ!だいたいヨーダの俺の若い頃は…のクソみたいな話と、全く興味の沸かない写真のくだりがダルくて酒量が増えたのもあるんだぞ。)
シグマが練習したいからってゴネたから予定に無い宿泊までして付き合ってるんだぞ。怒るのは当たり前だろ!
(確かにそれは正論。ヨーダの言う通りだよ。でもな、正直あんたを必要ないと思ってるのは師匠も同じはずなんだぞ。それに宿泊費出したの俺だもんねぇ〜。)
ハハハ…シグマも若いから。こんなもんですよ。まあ暇だしいいじゃないですか。
それにガラじゃないです。ヨーダさんが居てくれて助かりますよ。
(さすがタイメイケン師匠。人格者だわ〜ヨーダも見習えっつーの。)
そんなだからシグマが付け上がるんだ。師匠なんだしビシッと言ってやれ!
はぁ…まあ…じゃあ…。
…シグマァ
はっ…はい!
…あっ、さっき買ったからあげクンとってくれ。俺腹減っちゃって。ハハッ。
普段は来ることが出来ない丘陵の草原は、昨日と同じ晴天とススキが爽やかな風に揺れている。
何もしないで佇んでいるだけでも有意義な時間に感じさせる風景だった。
ガッチャン!ドテッ!
遅いっ!フレアーのタイミングいい加減おぼえろ。
フレアー。
ハンググライダーの着陸(ランディング)時、機首(ノーズ)を上げブレーキをかける動作。
俺など永遠の課題と思われるほど難しかった。
タイメイケンの怒声が二日酔いの頭に響く…。
クッソー。
昨日はむちゃくちゃカッコよく決まったフレアーが今日は一本も決まらない。
カシャカシャッ!
無様にノーズから地面に突っ込んで腹ばいで寝てる俺をここぞとばかりにニヤニヤしながらシャッターを切るヨーダ。
(コノヤロー…嬉しそうに撮りやがってぇぇ。死なすっ!)
そろそろラスト行くか。
練習といってもテイクオフからランディングまでは距離と高度があるため、飛んではたたみ車に載せてまた組んで飛んでの繰り返し。
練習するのは俺なのでその行為を行うのは当たり前だが、付き合う2人にとっても大変な作業。
このスポーツはドMじゃないと無理かもしれない。
しかし、辛抱強く付き合ってくれた2人には感謝しか無い。
飛ぶときは一人だが、周りのサポートがあって初めて安全に楽しめるスポーツなんだと書きながらあの頃を思う。
ラストだ。決めろよ!
真剣な面持ちで頷く俺。
日が傾きはじめた丘陵にグライダーが滑空する。昨日のサーマルなど微塵も感じない穏やかな空中。
高度が墜ちて行く。ランディングターゲットを設定して何度も頭の中で確認する。
アップライトに持ち替えて胸を張り地面効果を意識、滑空中の音の変化に集中しろ。
何回も何回も復唱して練習してきた。最後は決めるぜえ!
ガッチャン!ドテッ!ボキッ!
カシャカシャカシャッ!
くっ…ヨーダァァ撮ってんじゃね工エエェェ!
つづく