俺とハング その7(茶碗は左手) | オレブログ

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さあ、
俺の話しを聞いてくれ。

シグマッ、次のサービスエリア寄ってくれ。

え~またですか?

アテが無くなったんだよ。いいから停めろ。ワハハハ。

 

ヨーダとタイメイケンのオッサンは、人に運転させといて朝から車内で酒飲んでいやがる。

そりゃあんたら先輩だし俺はビギナーだし教えを乞う身だから言われるとおりにしますけど、早朝からイカ臭い車運転する身にもなってほしいわ。

しかも、高速道路100kmくらい走行してその間のサービスエリア、パーキングエリア全てに停まって用を足す。「頻尿クラブ」かよ。

 

ホームエリアの「更クサ山」から飛ぶ為に、最終試験である中高度飛行訓練をする「口臭岳」に到着したのはお昼前。

 

 

だいたいな、ビギナーを指導する時間帯は気流が穏やかな朝夕を狙うものだが、このオッサン達は遠足気分で朝から車内で宴会だ。サービスエリアで停まってはツマミを買い用を足す。

せっかく早朝5時過ぎに出発したのにまったく意味がねえ。

 

明日シグマの卒検だからな。タイメイケンも寝坊すんなよ。4時半集合だからな!

・・・たしかに昨日は言ってたんだよ。内心ありがとうございますって思ってたよ。

 

 

ワハハハ!どうしたぁシグマァおまえ機嫌悪いのか?あっそうか!お前も飲むか?

 

いやいや、ヨーダさんそれまずいでしょ!

 

(オマエはバカか?俺も酔っぱらって事故でもしたらシャレになんねーだろうが。ていうか頭の薄い妖怪と色黒オッサンと心中とか冗談じゃないわ。どうせ逝くなら女の子と逝きたいわ!)

 

 

口臭岳の周辺は丘陵と高原で構成された景勝地。

風に草が揺れ澄み渡った秋空が気持ちよかった。

なだらかな丘が5~600mつづく。その丘陵が中高度飛行のテイクオフとなる

高低差は30mくらいか。

 

 

機体を組み終わり、タイメイケンからフライトプランのレクチャーを受ける。

ここに着く前まではヨーダと飲んでたはずの師匠。ここに来て一変し真剣な面持ち。

何だかんだ言ってもハンググライダーに関しては頼りになるわ。

ヨーダはデカい望遠レンズを付けたカメラを持ってせわしなくカシャカシャやってる。

 

シグマいいか、テイクオフしたら左に行け。

左端の木まで行ったら戻ってこい。そして8の字を書きながらランディングへ向かえ。いいな!

はい!わかりました!

 

初めて見たヨーダのテイクオフは強風で、見てるこちらが緊張するほどだったが今はサポートも不要な穏やかな向かい風が吹いている。

 

 

お前のタイミングでいいぞ!タイメイケンが声を掛ける。

 

 

…いきます!

 

グライダーを抱えて揚力を感じるまで丘を駆ける。

すぐに浮遊を感じるがまだだ。足が地面を蹴れる限界まで走り抜け!

 

滑空が始まる。アップライトからベースバーへ。

グライダーコントロールポジションへ移行する。

よし!いいぞセーフティーだ。


体重移動を開始する。

右に行きたければ右へ、左に行きたければ左に重心を寄せる。

グライダーを進行させたい方向へ体重移動するとタイムラグは多少あるが機体は曲がって行く。

 

おいおいおい!左だっひだりぃ!

無線機から怒声が聴こえる。

 

(あっああ…)右に曲がりかけ飛行中にテンパる俺。

 

ひ・だ・り!茶碗持つ方だろうがっ!タイメイケンの怒声が俺のテンパリを助長する。

 

(…落ち着け!茶碗だ!茶碗の方向だ!)

 

その8へつづく。