やっとテイクオフがある山頂に向かうことになる。
それにしても汚ねー車内。
ヨーダはこの車で日本全国をフラフラしながらカメラ撮影をしているとの事。
脱いだままの形でリアウインドウのスピーカーに被さるジャージズボン。
足元はゴミが入ったコンビニの袋、カップラーメンのふた。更にはオッサンが3人乘っている為、なんとも形容しがたい匂いが鼻をつく。
となりのトオルは無駄に汗かいてるし。さっきから膝当ててくんな。
俺が見た沖縄の青空に映えたグライダーから想像した世界は、爽やかでスマートなのだがここにそんなものは1mmも存在しない。
そんなことより窓全開にしないと息ができん。
詩具真(シグマ)君は何歳だっけ?ヨーダが俺に問う。
普段俺の一人称は「俺あるいはオヤジ」だが、俺以外オヤジで紛らわしい為、以前から憧れのキラキラネーム詩具真(シグマ)とする。これからは気軽に「詩具真」と呼んで頂きたい。
はいっ23になります。半分顔を窓の外に出しながら答える。
そうか~うちも若い衆が入ってくれて若返るなぁー。
(いや、あなた。明らかにあなたが平均年齢押し上げてるんでしょーが。)
舗装道路から林道に変わり、突き上げる振動とカーブでだんだん気分が悪くなってくる。
何の罰ゲームだよこれ…。
はー…。やっと着いた。
まだ何もしていないはずだが異様に疲れた。
しかし山頂の空気は清々しい。が、大丈夫かこれ?結構な風吹いてるぞ。
上記はウインドソック(吹き流し)の略図。当日はまあまあ水平にたなびいていた。
10m/sの風とは傘を差すのが困難なくらい。※注 俺調べ。
普通こんな日はバカしか飛ばない。
素人の俺からでもはっきりとわかる風の強さ。
着ている服がはためくき、時折よろけるくらいだ。しかし彼らは黙々と機体を組んでいく。
ヨーダが組み終わりテイクオフの様子をしばし見ている。
風の強さ、向き、上空の雲様々な情報をインプットしフライトプランを練っているのだ。
あれ?
サングラスをかけヘルメットをかぶりハーネスを装着した姿はヨーダを連想できない。
どこかスマートささえ感じる。
いや待て騙されるな。あのヘルメットの下は頭髪の寂しいアラカンだ。
いよいよヨーダのテイクオフ。
風が強い為グライダーの前方、両翼と俺を含め3人でサポートする。
位置についた。強風が吹くと機体が傾く。バランスを崩すと立て直すのにやっかいだ。
最悪事故にもつながってしまう。
おい!詩具真!さっき教えたろ。ワイヤーは手のひらを上にして握れ!
はいっ!すいません!
強風の中、緊張感で必死になり機体のフライングワイヤを握りしめていた。
行くでぇー!
ワイヤーを離す、少し前進したかと思うと4~5m垂直に浮き上がった!
ヨーダのグライダーはそのまま尾根沿いを進む。
安心してほしい。間違いなくヨーダではない。
タイメイケンが言う。
動力を持たないハンググライダーが風の力を利用して大空を翔る。
これが滑翔だ。ソアリングというものさ。
(すげー…。カッコええわ…。)
あの頭髪の薄いオッサンが・・・、怪しいカメラマンが空を飛んでいる。
この時生まれて初めてといっても過言ではない、ほとばしる制御できないような感情を覚えた。
それから俺はどっぷりとこの加齢臭クラブにはまっていく。