ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 40 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

タタン、タタタン、タタン、タタタン・・・

握るというより落とさない程度に軽く持っただけのスティックが奏でるドラムにいつもの力強さはどこにもなく、乾いた地面を叩く空虚な音がした。

タタタン、タタタタ、タタタン、タタタタ・・・

 

「はぁ・・・」

 

手はかろうじて動いているが、心ここにあらずといった様子のジェルミから大きなため息がもれた。

 

「テギョンヒョン大丈夫かなぁ。ミニョも・・・心配だよ-」

 

「最近ため息ばっかついて、うっとうしいぞ」

 

目の前の空間をぼんやりと見つめため息の数を更に増やすジェルミに、ミナムがイライラと声をかけた。

 

「んなこと言ったって、ミニョが向こうに行ってずいぶん経つじゃないか。最初の予定じゃとっくに帰ってきてるはずなのに・・・」

 

アメリカへ行ったミニョからはメール以外に時々動画が送られてきていた。そこには元気そうなテギョンの姿が映っていて、順調そうな回復にみんな安心していた。

「もう少ししたら帰国できそうです」と言っていたのに、その後ミニョの体調不良で帰国が延びることになったと連絡があった。

 

「仕方ないだろ、こっちとは環境も違うしテギョンヒョンのリハビリ手伝ったりでいろいろ大変なんだよ、精神的にも体力的にも。軽い貧血だって言ってたから大したことないと思うけど」

 

ミニョはミナムに妊娠したことは告げておらず、貧血とだけ伝えていた。

 

「何だよミナム、冷たいなー、軽くたって貧血なんだろ心配じゃないか。なかなか帰ってこないし様子だって詳しく判んないし」

 

「俺は時々電話してるから判るよ、すごく元気そうだった。帰ってこないのはテギョンヒョンに止められてるからみたい。きっと向こうにいれば二人きりでいられるって思ってんじゃないの、ヒョンのことだから。で、曲作りに役立つとか言ってあちこち観光でもしてんだよ」

 

「ああそれはあり得るね・・・ってミナム、何か最近変わった?こんな状況、前だったらもっとミニョのこと心配して、「くそーヒョンめ!」とか言ってたのに」

 

ジェルミの台詞にクスッと笑い声がした。その声の主はこの部屋にいるもう一人の人物、シヌだった。シヌは目を通していた楽譜から顔を上げると、“知らないのか?”と少し驚いた表情でジェルミを見た。

 

「ミナムは今、ヘイのことで頭がいっぱいなんだよ。とりあえず今夜のデートすっぽかされないか、そっちの方が気になって仕方ないんだろ」

 

「ヘイって・・・ユ・ヘイ!?何で?別れたんじゃないの!?」

 

「ケンカしてただけだよ。機嫌直すの大変で・・・やっとOKもらったんだ」

 

ミナムは“物好きなやつ”と目と口を大きく開けているジェルミにメールの返事を見せながら、ふふんっと笑った。

 

「テギョンも退院して週に何度かリハビリに通うくらいまで回復してるみたいだし、ミニョに無理させるようなことは絶対にしないから心配するな」

 

「う、ん・・・シヌヒョンがそう言うんならきっと大丈夫だよね」

 

「そうだよ、短い間だったとはいえシヌヒョンの身体はテギョンヒョンのものだったんだ。つまり二人は一心同体・・・ん?一身同体か?ま、そのシヌヒョンがテギョンヒョンを信用しろって言ってんだから、間違いないって」

 

ハハハと笑うミナムにそれまでにこやかだったシヌの表情が一瞬にして無になり、持っていた楽譜がはらりと床に落ちた。

 

「俺の身体がテギョンの・・・って、何のことだ?」

 

固まった顔のままゆっくりと首を動かしミナムを見る。

 

「あれ?言ってなかったっけ。ミニョが持ち歩いてたぬいぐるみに昏睡状態のテギョンヒョンから抜け出た魂?が入ってたんだ。で、それは時々シヌヒョンの中にも入って身体を動かしてたってわけ。だから一時的だけど、シヌヒョンの身体はテギョンヒョンのもの~♪」

 

「笑えない冗談だな」

 

「冗談じゃないから笑わなくていいよ。俺とジェルミはテギョンヒョンになったシヌヒョンがミニョと手つないでるとこ見てるし、テギョンヒョンと話もした」

 

「そうそうビックリしたよー。シヌヒョンがテギョンヒョンの声でしゃべるんだから、仕種もそのまんまだったし」

 

こんな感じだったと眉間にしわを寄せ口元を歪ませてみせる。

 

「俺がそんなことを?」

 

「てっきりミニョに近づきたくてテギョンヒョンが憑依したフリしてるのかと思った」

 

「するわけないだろ」

 

「技術的にはできそうじゃん。感情的には絶対にするわけないと思うけど」

 

ミナムはシヌの反応を見ようと顔をのぞきこむが、テギョンと違ってそこにはミナムが期待するようなものは表れない。何を考えているのか石像と化した顔はピクリともしなかった。

 

「すぐには信じられないが・・・俺が知らない間に、テギョンが俺の身体を乗っ取ってたんだな」

 

「そーそー」

 

「勝手に人の身体を・・・」

 

ブツブツと文句を言いながらチラリと両方の手のひらを見ているシヌにミナムがこそっと耳打ちをした。

 

「つないでたのは左手だよ」

 

さすがにキスマークのことまでは言えない。

スッと左手に視線を流したシヌはミナムがニヤニヤと見ていることに気づき、咳払いをすると無表情で顔を上げた。

 

 

 

                  

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