ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 19 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

シヌがミニョを抱きしめる。その姿を想像しただけでムカムカと腹が立ってくる。しかしそのシヌは今は自分であって・・・

中身は俺なんだから問題ないだろと思いつつ、安心しきった顔でシヌの腕に抱かれるミニョを想像するとヒクヒクと頬が引きつり・・・

せっかく自由に動ける身体が手に入ったのに、思い通りにならなくてテギョンの不満は募るばかり。しかし、外見に囚われなければいいんだと自分に言い聞かせ、ミニョの腕をつかむと後ろから包みこむように抱きしめた。

 

「えっ!あの、オッパ!」

 

「動くな、そのまま前を向いてろ。目を瞑れ、俺の声に集中しろ」

 

テギョンに言われた通り目を瞑り、聞こえてくるテギョンの声に神経を集中させる。するとミニョは本当にテギョンに抱きしめられているような気がしてきた。

 

 

 

 

 

「不思議ですね、夜お布団に入った時には私がテジトッキのオッパを抱きしめてたのに、今は私がオッパに抱きしめられてるんですから」

 

「そうだな」

 

「どうしてオッパは今そこにいるんですか。シヌさんはどうなったんですか?」

 

「あいつの意識は今眠ってる。何となくだがそれは判る」

 

自分の声を出そうとシヌの身体の奥深くを探っている時、それに気づいた。シヌの気配はずっとそこにあった。眠るという表現が合っているかどうかは判らないが、寝ているシヌの身体をテギョンが使っている、感覚としてはそんな感じだった。

 

「たぶん朝になってシヌの意識が眠りから覚めれば俺はもうこの身体にはいられないだろう」

 

「じゃあまたテジトッキの中に?」

 

「判らない・・・俺は後悔したんだ、たとえテジトッキの姿でもミニョのそばにいたいと言ったことを。動けないことが嫌になった。動けたらと思った。動きたいと願った。だから判らない・・・戻れるのか、それとも今度こそ消えてしまうのか・・・」

 

淡々としたその口調はテギョンがすべてを受け入れているように聞こえた。大きな波にのみこまれ、抗うこともできず、深い深い海の底に沈んでしまっても仕方ないと。

 

 

 

 

 

「俺、そろそろいくから」

 

「どこへですか?」

 

「シヌの部屋だ。もうすぐ朝になるし、あいつの目がいつ覚めるか判らない。ミニョだってこうしてるのがいつの間にかシヌに代わってたら嫌だろ。俺は嫌だぞ。だからもう行く、そして・・・俺はまたここに戻ってくる」

 

テギョンは抱きしめている腕に力をこめた。

ミニョのお腹に回された大きな手に上からそっと手を重ねた。形を確かめるように手のひらを、指の一本一本を触る。記憶の中にあるテギョンの手とは少し違う感触。ミニョはパッと手を離した。

 

「私の手、暇なんです」

 

アピールするようにひらひらと振ってみせると、くるりと向きを変え今まで背中にあった温もりを正面から抱きしめた。

 

「ここにいるのはオッパです。シヌさんの身体でも今はオッパです。だからシヌさんにはもうちょっと寝ててもらってください。ほら、私言われた通りにずっと目を瞑ってるんですよ。それなのにもう行っちゃうなんてずるいです」

 

「ずるいって・・・」

 

目を瞑ったまま訴えるように見上げているミニョの顔を見てテギョンの心がぐらついた。こんなことをするつもりはなかったが、抑えきれない衝動がわきあがってくる。

 

「そのまま目を開けるなよ」

 

ミニョの耳元で囁くと、テギョンは両手でミニョの頬を包んだ。

ミニョの額に押しあてられる柔らかな感触。それは鼻の頭、頬へと移り、じれったいほど時間をかけ唇にたどり着いた。

そっと触れては離れ、そっと触れては離れる。

何度も軽く啄まれて。

決して急ぐことなくミニョの心に合わせゆっくりと深くなっていく口づけは、テギョンがミニョをことさら大切に扱い深く深く愛する時にされるものと同じだった。

 

 

 

 

 

ミニョはドアに背中をつけて座っていた。ミニョを抱きしめていた温もりが部屋から消えてからずっと。ここにいれば廊下を歩く人の気配がよく判るから。

暗かった空は白み始め鳥たちが歌い出す。

どんな音も聞き逃さないようにと息を詰め、耳に神経を集中させていると、やがて廊下から足音が聞こえてきた。階下へ行く足音は時間をあけて三つ。どれが誰だか判断はつかなかったが、三人が起きたことは判った。

 

「オッパ?」

 

シヌが目覚めテギョンがテジトッキに戻ってくれば返事をするはず。そう思ってずっと抱いていたテジトッキに声をかけるが返事はない。

 

「オッパ、起きてください、みんな起きましたよ。オッパが一番最後です、寝坊ですよ」

 

テギョンが中にいた時のテジトッキは、笑ったり怒ったりと表情があったように見えたのに、今は少しもそれが感じられない。ぬいぐるみがぬいぐるみらしくそこにいるのに、返事をしないテジトッキはまるで死んでしまったように見えた。

 

「戻ってくるって言ったのに・・・オッパのウソつき・・・」

 

ミニョの頬に涙が伝った。

 

「誰がウソつきだって?」

 

「オッパ!」

 

テギョンの声に慌ててテジトッキを見ると、さっきまで無表情だった顔が意地悪く笑っているように見えた。

 

「だってなかなか戻ってこないから」

 

「でもちゃんと戻ってきただろ」

 

ミニョは濡れた頬を拭うと笑顔を作った。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

 

 

                

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