ひとりの夜はうさぎを抱きしめて 11 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

 

「ねぇねぇ、ミニョどうしちゃったのかな。テジトッキはぬいぐるみなのに話しかけてたよ、それにオッパって・・・」

 

事務所の一室でうろうろと歩き回るジェルミは不安な面持ちで爪を噛んでいた。

 

「事故現場の映像見てかなりショック受けてたし、見つかったっていう連絡はないし・・・ミニョの心が耐えられなくなったのかも」

 

「どういうこと?」

 

「あのぬいぐるみをテギョンヒョンだと思いこんでるんだよ。一応ぬいぐるみだって認識はしてるみたいだけど、ミニョにはテギョンヒョンに見えて、声も聞こえる」

 

「幻覚とか幻聴ってやつ?」

 

「よく判んないけど、脳の防御反応みたいな?俺たちの前じゃわざと明るく振る舞ってたけどずっと夜も寝れてなかったみたいだし、身体も心も限界だって脳が判断したんじゃないかな。昨日はぬいぐるみ抱いてぐっすり眠ってただろ」

 

ジェルミは昨夜のミニョの顔を思い出した。泣きはらしたのかまぶたと鼻は赤くなっていたが、テジトッキをしっかりと抱きしめている寝顔は穏やかで幸せそうに見えた。

 

「どうしよう・・・どうしたらいいのかな」

 

立ち止まっていた足が再び忙しなく動き出す。

 

「俺にも判んないよ。でもあのぬいぐるみがミニョの支えになってるなら、俺にはそれを否定なんてできない」

 

「それって、俺たちもテジトッキをテギョンヒョンとして扱えってこと?しゃべりかけたりするの?」

 

「それは・・・・・・俺だって判んないって」

 

楽しそうな顔でぬいぐるみに話しかけている姿は本当にテギョンを前にした時のミニョそのもので、ミナムもどう声をかけていいのか判らず、思わず目を逸らせてしまった。

もう出かけなきゃと半ば逃げるような形で合宿所を後にした三人だったが、これからミニョとどう接したらいいのかと頭を悩ませていた。

 

「こんなに役に立たないとはな」

 

二人の会話に耳を傾けていたシヌが周りには聞こえないくらい小さな声で、ポツリと呟いた。

毎日ミニョを慰め励まし、少しでも力になれたらと心を砕いてきたのに、ミニョが助けを求めたのがぬいぐるみだという事実にやるせない気持ちでいっぱいになる。自分たちには涙を見せようとせず、ぬいぐるみを抱きしめ大粒の涙を流していたのかと思うと、そんなに自分は頼りない、役に立たない存在なのかと情けなくて悔しかった。

どうしてミニョは自分を頼ってくれないんだろうか、そんな思いが心に広がる。しかし純粋にミニョの力になりたいという気持ちの奥に、特別な感情が潜んでいることに気づくと、それを振り払うかのようにシヌは頭を振った。

 

 

 

 

 

「フン、フフン、フンフン、フフン・・・」

 

鼻歌を歌いながらミニョが料理を作っている。それをテギョンはちょこんと座ったカウンターの上から眺めていた。

もしかしたら朝には消えてしまっているかもと思った意識は夜になってもテジトッキの中にしっかりとあり、その身体を自力で動かすことはできないが今もミニョと会話はできる。

何の前触れもなく人生の終焉を迎えてしまった身としては、たとえ身体が動かせなくてもミニョと会話ができるだけで幸せなのかもしれない。そう思うともっと何か話をしなければとは思うが、こんな姿でどんな話をしたらいいのか判らない。それに言葉は交わさなくてもこうしてミニョの姿を見ているだけで心が満たされていく。

とは言え、気にくわないこともある。それはまさに“今”だった。

ミニョは嬉しそうに料理を作っている。そのことはいい。問題はそれが他のメンバーたちのためだということだ。

 

「やけに楽しそうだな、俺は食べれないのに」

 

それはテギョンの身近にいる人間なら一度は聞いたことのある、誰でも判るくらい不機嫌な時の低い声。

 

「はい、オッパがそこにいますから。それだけで嬉しくてウキウキしちゃうんです」

 

しかし少し嫌みを含ませたテギョンの言葉に対する返事は、明瞭でストレートなものだった。

そのミニョの笑顔を見てテギョンは嫉妬なんて無意味だと思った。時間を無駄にしたくないとも。

 

「ミニョ、今日からは俺の部屋を使え」

 

「え?いいんですか?」

 

「そのかわりこれから毎晩一緒に寝るんだからな」

 

「はい!うふふっ、寝るまでずっとおしゃべりできるなんて楽しみです」

 

それはミニョの本心だった。

テジトッキの中にテギョンがいる。その意味を考えれば取り乱してしまいそうになる。

だから考えないことにした。

考えずに目の前のありのままを受け入れる。

見た目は変わったけど、やきもち焼きなところや時々少し意地悪になる口調は変わらない。優しいところも。

幸せだった。

他の人からは、そんなのはウソで自分をごまかしているだけだと言われるかもしれない。ただの現実逃避だと。

けれどミニョは今この“時”をこれ以上ないくらい幸せに感じていた。

 

 

 

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前回の記事の最後に、ブログ村のランキングポイントについてちょこっと呟いたんですが・・・

 

 

ビックリです!

見たことのない数字が😲💦

 

 

みなさん、ありがとうございます <(_ _)>

 

 

                  

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