抱きしめた身体と柔らかな唇の感触が頭から離れない・・・
ベッドに入って布団を頭までかぶった俺は、まんじりともしないで朝を迎えた。
あの後俺はミニョをその場に残し部屋へ戻ったが、ミニョはあれからどうしたんだろう。あのまま下にいたんだろうか、それとも部屋へ戻ったんだろうか。
俺は足音を立てないように歩き、ミナムの部屋のドアを静かに開けた。細く開いた隙間から中を窺うが、ミニョの姿は見えない。地下へ下りて行きピアノ室を覘くがそこにもミニョの姿はなかった。
「どこへ行ったんだ?」
俺がいきなりキスしたから身の危険を感じて出て行ったのか?
その答えはキッチンのカウンターの上にあった。
”病院へ行ってきます。私がここに来たことは誰にも言わないでください。泊めてくださってありがとうございました”
残された小さなメモ。
結局ミニョはここの方が病院に近いからという理由で泊まっただけなんだろうか?
俺が首を傾げながらその紙を手にしていると、玄関の方からバタバタと足音が近づいてきた。
ミニョが忘れ物でもして戻ってきたのかと思ったが、入って来たのはシヌで、俺はとっさに手をポケットへ突っ込んだ。
慌てた様子のシヌはキッチンにいる俺に気づいてないのかそれとも俺のことなど気にしてないのか、そのまま走って階段へ向かい、2階へと上がっていった。上の方から何度かドアを開け閉めする音とともに、ミニョの名を呼ぶ声が聞こえる。しばらくして下りてきたシヌは軽く息を切らせながら俺の前に立った。
「ミニョはどこだ」
慌てた様子のわりには静かな口調。
久しぶりに見るシヌはいつものポーカーフェイス。だがその目の奥にわずかだが焦りと苛立ちの色が見えた。
「昨夜から連絡がつかない、ここにいるんじゃないのか」
疑いの視線が真っ直ぐに向けられた。
シヌが合宿所を出て行ってから1度もここで顔を合わせてないが、なるほど、それでここへ来たってわけか。
さて、どう答えるか・・・
ここに泊まったのは事実なんだから、「ここに泊まった」と答えるか。それとも今ここにいないことも事実だから「ここにはいない」と答えるか。
「泊めて欲しいと言われたから泊めた。抱きしめてキスした」と言えば、そのポーカーフェイスは一瞬で崩れるだろうなと頭を過る。
俺はポケットに入れた手をぐっと握った。手の中で紙がくしゃりとつぶれる。
俺が返事を思案していると、シヌの携帯が鳴った。
「ミニョ、どこにいるんだ。・・・病院?・・・ああ・・・判った、今からそっちに行く」
電話の相手はミニョのようで、病院からかけているらしい。
シヌはミニョと連絡が取れたことでほっとしたように表情を緩めた。
「ミニョがどうかしたのか」
ミニョがどこにいるのかもその理由も知っているが、俺はわざと知らないフリをした。
「知り合いが入院して付き添ってるらしい」
そのまま玄関へ向かうシヌ。俺はその背中に声をかけた。
「どうしてここにいると思ったんだ?」
「・・・何となく・・・そんな気がしただけだ」
足を止め振り返ったシヌはそう言ったが、その目は「違うのか?」と冷たく俺に聞いているようだった。
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