日蝕 7 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


その日、残りの仕事をどんな顔でこなしたのか俺には判らない。不機嫌極まりない顔かそれとも感情のこもらない空虚な顔か。確かなのは、笑えと言われても笑えなかったことだけ。






シヌの隣にいるミニョを見た瞬間、俺の思考は止まった。そして呼吸も。

しばらくして息苦しさに大きく口を開け酸素を取り込むと、深い霧が晴れるように、頭の中が冴え渡った。


しばらく連絡しないと言った時のあっさりとした返事。

帰国が延びたのをシヌが知っていたこと。

迎えに行った俺の目の前を2人が通り過ぎたという事実。

全てを繋ぎ合わせれば、おのずと答えは見えてくる。


よくよく考えれば迎えに来て欲しいというのもおかしな話だ。以前のミニョなら俺のことを気遣って、そんなこと言わなかった。

見送りにも行けなかった俺の忙しさは十分判っているはず。それなのに迎えに来て欲しいと言ったのにはそれなりの理由があったからだ。

俺とミナムしか知らないはずの到着時刻に、シヌが偶然空港にいたなんてありえない。



つまり、ミニョは・・・・・・心変わり、した。



シヌに迎えを頼んであり、それを見せるためにわざと俺を呼び出した。

信じられない・・・信じたくないが、そういうことなんだろう。



俺は、ミニョに、裏切られた・・・のか?








いつからなんだ、いつからあいつの心は俺から離れていった?

アフリカへ行ってすぐか?それともだいぶ経ってからか?

いや、出発前、見送りに行けないと言った時すでに平気な声で返事してたぞ。


考えれば考えるほど判らなくなってくる。

どういうことだと問い詰めるのは簡単だ。だが、「そろそろ気づいてくれませんか?それともはっきりと、もう好きじゃありませんて言わないとダメですか?」なんて言われたらと思うと、俺の心は一瞬怯んだ。

そして同時に、今こうして思い悩んでいる時間がものすごく虚しく、無意味で腹立たしく思えてきた。


もうどうでもいい。

難しい問題じゃない。

俺だけと言っておきながらシヌの車に乗って行ったんだ、それが答えなんだろう。

俺の方から連絡する気も失せた。






ザァザァと降り注ぐシャワーを浴びながら、俺は湯気で曇った鏡をキュッと手のひらで擦った。そこに映っていたのは、濡れた黒髪から覗く目を鋭く光らせる1人の男。


「いい顔してるじゃないか。今だったらもっと目で表現しろなんて言われないな」


口の片端をわずかに上げ、静かに笑う男は全てを洗い流すように熱いシャワーを浴び続けた。






お互いソロ活動で忙しく、しばらく顔も合わせていなかったシヌがある日の夜、俺が帰るとリビングで座っていた。

シヌは俺の姿を見ると立ち上がり近づいてきた。


「俺・・・ミニョとつき合うことになった」


俺の目をじっと見るシヌ。

あの日空港で、俺の目の前を通り過ぎて行った2人の姿が脳裏によみがえる。


「そうか」


白々しい、もうとっくにつき合ってたんだろと喉まで出かかった言葉を飲み込み、俺はピクリとも表情を変えず、感情のこもらない声でそう言った。




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