「ミニョが明日帰ってくる。テギョンヒョンだけに伝えてって頼まれたから、誰にも言ってない。迎えに来て欲しいって・・・行けないなら俺が行くけど」
大きく開けたドアの外、ミナムは口をへの字に曲げ、俺を睨むように立っていた。
どうしてそんな目で俺を見るんだ?まあもともとミニョが俺とつき合うことに反対してたんだから、ミナムじゃなく俺に迎えに来て欲しいと言われ、ムカついてるのかもな。
「判った、絶対に行く」
俺の返事を聞いて、ミナムは更に不機嫌度を増した顔で俺の前から立ち去った。
俺はさっそく明日のスケジュールを確認した。
朝から晩までびっしりと埋まっているが、昼間の撮影は俺次第で早く終わらせることができるはず。そうすれば空港まで迎えに行く時間は十分にある。
怒って電話を切って以来ミニョとは話してないが、俺に迎えに来て欲しいと言っているなら、勝手に帰国を伸ばしたことをきちんと謝りたいということだろう。つながらない電話も、一体どんな秘境にいるんだ?と思えばくすりと笑みもこぼれる。
実際アフリカに行ってすぐ、「電波状況が悪いみたいで・・・」と嘆いていたことを思い出し、俺は自分を納得させた。
しかしなかなか思い通りにならないことだらけの世の中。撮影は俺が予想していたよりかなり長引いた。
飛行機はもうとっくに着いているはず。それでも俺は車を空港へ走らせた。
迎えに来て欲しいと言ったんだ、ミニョはずっと待ってるだろう。
キョロキョロと辺りを見回しながら大きな荷物を引きずる姿が目に浮かぶ。
はぁ、と俯きため息をついてるあいつの前に静かに立ち塞がれば、俺を見上げ、ミニョは顔を輝かせるだろう。
「テギョンさん!」と大きな声で名前を呼ばれ、周囲の視線を集める前に、俺はミニョの唇を塞いでやるつもりだ。結果的に視線は集まってしまうだろうが、俺は気にしない。
真っ赤になったあいつの手から荷物を奪い取り、何事もなかったかのように駐車場へと向かえば、カルガモのヒナのように慌てて俺の後ろをついて来るミニョ。
考えただけで顔がニヤけてくるな。
帰って来ても俺は忙しくて思うように会えないと思うが、アフリカに比べれば同じ国内にいるんだからどうってことない。
これから毎日が楽しくなるだろうなと考えていたら、いつの間にか空港へ着いていた。
自分でも驚くほど心が浮き立っている。
しかしそれもわずかな時間だった。
車から出ようとドアに手をかけた瞬間、見慣れた白い車が目の前を横切った。
運転していたのはシヌ。そしてその隣にいたのは・・・ミニョ。
ふわふわと浮かれていた心が一瞬で凍りついた。
ドアにかけた手も、思考も、時間も。
通り過ぎる人々、行き交う車。
俺だけが取り残され、動けずにいる。
どれくらいそうしていたが判らないが、やがて1つの結論に辿り着いた。
「そういうことか・・・」
俺はハンドルに額を押しつけると、こみ上げる笑いに顔を歪めた。
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