日蝕 2 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


ミニョがアフリカへ行って数週間。

どんな生活をしているのかと毎日気が気じゃなかったが、そんな俺の心配をよそに、電話から聞こえてくる声は明るく楽しそうだった。

急なスコールでずぶ濡れになった話や仲良くなった子どもたちの話。全部聞いてやりたいが、そうもいかない。

そろそろドラマの撮影が始まる。

俺は役者ではないのだから、俺の演技力なんて最初っから期待されていないことは周りの反応を見れば判る。結局はA.N.JELLのファン・テギョン主演という話題が欲しいだけ。

だが俺はただの見世物で終わるつもりはない。

そんなことは俺のプライドが許さない。

忙しいスケジュールの中、役作りの為にジムに通い身体を作り、自分なりに演技も勉強し、台本は他の役者の台詞まで完璧に頭の中に入れ、と準備は怠らない・・・つもりだ。

付け焼刃だろうが何だろうが、今の俺に出来る最大限のことをして撮影に臨む。

そんなわけでドラマに集中したい俺は、しばらくの間連絡を絶つとミニョに告げた。


「ドラマの主演ですか。歌って曲も作って演技もできるなんて、さすがテギョンさんですね、すごいです!」


電話からキャーキャーとはしゃぐ声が流れてくる。


「判りました。私の方も明日からすごく忙しくなるから、なかなか電話できなくなるなって思ってたとこなんです。ですからテギョンさんも私のことは気にしないで、ドラマのお仕事がんばってください」


声のトーンからすると、胸の前で拳を握り、「ファイティン!」とポーズをとっているに違いない。

俺はちょっと拍子抜けした。もっと残念がると思ってたのに・・・


「電話してきても俺は出ないからな。寂しいかもしれないが、少しの間・・」


「じゃあ次にお話しできるのは撮影が終わった時ですね」


「へ?あ、いや、ちょっと待て」


「大丈夫です、お仕事の邪魔しないように、電話もメールもしませんから」


俺としては撮影のペースがつかめるまで・・・1、2週間くらいのつもりだったのに、ミニョは全ての撮影が終わるまでと勘違いしたらしい。しかも誰かに呼ばれたのか慌てた声で「切りますね」と言ってさっさと電話を切ってしまった。


おいおい、ずいぶんあっさりしてるじゃないか。


これで数日後俺が電話したら、「あれ?撮影が終わるまでって・・・もしかして寂しかったんですか?」と、くすくす笑いながら言われそうだ。

そう思うと、俺としても撮影が終わるまで絶対に電話しないぞ!という気になってくる。

俺は黙りこくった携帯を睨みつけ、机の引き出しの奥にしまった。






撮影は最初の10日間ほどは日本で行われた。その日本ロケの最終日、みんなで呑みに行くことになり、俺も半ば強制的に連れて行かれた。


監督、助監督、役者とスタッフが数人。

酒が回るにつれ、みんな普段見せない表情を見せ始め、最初はめんどくさいと思っていた俺もそれなりに楽しめた。だが、隣に座った女優の絡み酒には正直まいった。

俺より10歳以上も年上の女。10代前半から役者をやっているらしいからベテランといってもいいだろう。

俺の恋人という役だが、どうやら実生活でも俺と同い年くらいの男とつき合っているらしい。

相手の男はごく普通の会社員で、年下ということもあり有名女優の恋人に対して気後れしてか、あまり積極的ではないらしい。

それとも草食男子が肉食女子に捕まったのか。

そんな話をしながら彼女は酒をぐいっと呑む。ふと気づけば俺の周りは彼女以外、人がいなくなっていた。同じ部屋にはいるのだが、みんな俺たちから数メートルは離れている。

後で知ったことだが、彼女の酒癖は有名のようだ。酔いが回ると誰かつかまえてはとにかく話す。それは愚痴だったり相談だったりといろいろ。

適当に返事をしてその場から離れようとしたが、彼女はそれを許さない。呼ばれたふりをし、さり気なく立ち上がるが、すぐに袖を掴まれ座らされる。

トイレに立てば出口で待ち構えていて話の続きを聞いて欲しいと引っ張っていく。

何とかしてくれと周りに助けを求める視線を送るが、どうも俺は生贄にされたようで、誰も俺たちの方を見ようとしない。


「ねえ、どう思う?」


すわった目が俺の顔をじっと見る。

どう思うも何も年上の女とつき合ったことなんてないし、俺は一般人じゃない。一般人なのはミニョの方で・・・

俺はふと思った。ミニョは俺とつき合うということをどういう風に考えているのか。

恋人という関係にありながら、それらしいことはほとんどなく、いきなり超遠距離恋愛に突入してしまった俺たち。

あいつは帰ってきたら人目を気にせず俺と街を歩けるのか。






「テギョン、頼む、な」


頼むと渡されたのはついさっきまで俺に管を巻いていた女。他の連中は別の店で呑み直すからと、既にこの場にはいない。

貧乏くじを引かされた俺は大きなため息をつくと、酔いつぶれた女をタクシーに押し込み、宿泊先のホテルへ向かった。




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