You're My Only Shinin' Star (316) 未来への一歩 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。


”ファン・テギョン 不倫疑惑は事実無根”




とある新聞が今までの不倫報道に対し、”二人はそのような関係ではなかった”と報じた。

しかしマスコミが騒いだのはほんのいっとき。その後、不倫疑惑自体がメディアから姿を消した。

それはまるで初めからそんな騒動は存在しなかったかのように、ゴシップばかりを扱う雑誌からも。

そしていつの間にかヘジンの姿も芸能界から消えていた。




テギョンとミニョがアメリカへ発った数日後、アン社長はテギョンは喉の治療の為海外へ行ったと発表。

治療期間及び帰国時期は未定。

年末のライブもミナムは復帰したもののテギョンは不在のまま行われた。

A.N.JELLが何か動きを見せる度、テギョン帰国説がネットを中心に流れた。しかし、一つとして信ぴょう性のあるものはなく、結局はただの噂で終わっていた。






重厚で深みのある色合いの壁に囲まれた広い空間。

ざわざわと話し声の聞こえるホールは、パンフレットを手にした観客で徐々に埋まりつつある。

子供からお年寄りまで客層は幅広い。

青い目をした金髪のテギョンは舞台の袖からチラリと客席を覗くと、控え室へと向かった。


「オッパ、どうでした?」


「まあまあだな、まだ時間はあるしこれからもっと・・・」


ドアを開け中へ足を踏み入れたテギョンは、振り向いたミニョを見て言葉を失った。

青いノースリーブのロングドレスに身を包んだミニョは、きりりとした涼やかな美しさを身に纏っている。普段見たことのないミニョの姿に、テギョンは思わず息を呑んだ。


「テギョン君、もしかして見惚れてる?」


クスクスとした笑い声と共に、ミニョの後ろからカトリーヌが姿を現した。


「オッパの前で着るのは初めてなんです。ずっとしまったままだったんで・・・変ですか?」


くるりとその場で一回転すればふんわりとスカートが広がり、華やかさが加わった。


「いや似合ってる・・・綺麗だ。」


笑みを浮かべ短く言うテギョンにミニョは笑顔になる。


「よかった、今日はビルさんも見に来てくださってるんで、絶対これが着たかったんです。あーでも緊張してきました、ちゃんと声出るかなぁ・・・」


イギリスへ行った時ビルにプレゼントされたドレス。これを着てステージに立てばきっとビルも喜んでくれるだろうと、緊張で身体を硬くしながらも、ミニョは笑みをこぼした。


今日はミニョが出演するチャリティーコンサートの日。

帰国したのは二週間ほど前で、それまではずっとアメリカにいた。その間にテギョンはドレスを買おうと何度も言ったのだが、ミニョは家にあるからいりませんの一点張り。

テギョンの口は尖ったまま今日を迎えた。

初めて見るミニョの青いドレス姿。豊かなギャザーは上下をアシンメトリーに寄せることで上半身をすっきりと見せていて、女性らしいラインを強調している。ふんわりとボリュームのあるスカートは可愛らしさと美しさを兼ね備え、華美になり過ぎていないところがミニョにとてもよく似合っていた。

さすがカトリーヌが選んだだけのことはあるとテギョンは口元を緩めるが、これをプレゼントしたのは男だと思うと、たとえそれが老人であっても面白くない。

終わったらさっさと脱げよと思いつつ、いやそんなもの俺が脱がしてやるという気持ちが湧きあがる。




背中のファスナーをゆっくりと下ろしていけば、光沢のある青い生地の下から徐々に現れる白い柔肌。長い髪を横に流し首筋に唇を寄せれば、艶を含んだ声が甘く響く。肩を露わにさせ、滑らかな肌を撫でるようにそっと指先で触れ・・・・・・




「ミニョ、終わったらすぐに帰るからな、着替えはしなくていい。」


「え?この恰好で帰るんですか?それはちょっと・・・このまま車に乗るのは窮屈だし、目立つし・・・恥かしいから嫌です。」


「チッ仕方ない・・・だったら俺もこの恰好で帰る。二人一緒ならいいだろ。」


テギョンが着ているのは黒のタキシード。プラス、金髪のかつらにブルーのカラコンつき。

二人揃って歩いていたら余計目立つだろう。


「仕方ないって言葉の後がどうしてそうなるんですか。普通その流れだったら、「仕方ない、着替えてから帰ろう」ってなりません?」


「いいだろ別に、俺はこのままで帰りたいんだから。」


「だったらオッパだけその恰好で帰ってください。私は着替えてからにしますから。」


平行線で言い合いをする二人の横でカトリーヌが声を殺して笑った。


「ミニョ、少しはリラックスした?」


カトリーヌの言葉にミニョはキョトンとした顔を向けた。

そういえばさっきまで冷たく震えていた手が今は温かい。


「あ!オッパは私の緊張をほぐす為にあんなこと言ったんですね。」


まだ歌ってもいないのにどうして急に帰る時の話をするんだろうと首を傾げたが、なるほどそういうことだったのかとミニョは納得する。

ありがとうございますと明るい笑顔を見せるミニョの後ろで、全てを見透かしたようなカトリーヌの目が、テギョンを見ながら笑っていた。






プログラムは順調に進んでいきもうすぐミニョの出番。客席にいるジェルミは緊張した面持ちでミニョが出てくるのを待っていた。


「あ~ミニョ大丈夫かな、緊張してないかな。俺ちょっと控え室覗いてこっかな。」


ミニョの出番が近づくにつれ、ジェルミの脚がそわそわと動き、隣に座っていたシヌがお前の方が落ち着けとたしなめた。


「にしても、ミナムってやっぱ薄情だよな、せっかくのミニョの晴れ舞台だってのに、見に来ないなんて。」


「そうか?あいつなりにミニョのこと考えてると思うけどな。テギョンの帰国前日に婚約発表したり、今日もヘイの映画の試写会に花束持ってってるだろ。傍にいることだけが愛情じゃないよ。」


シヌの言う通り、テギョンの帰国前日にミナムはヘイと婚約していることをマスコミに発表した。もともと二人の交際は有名だったが、話がそこまで進んでいたのかとマスコミは大慌て。世間の目がミナムとヘイに集中している間にテギョンはこっそりと帰国した。

そして今日も仲の良さをアピールするかのように大きな花束を持って現れるミナムに、結婚はいつですか?とマスコミが詰めかけるのは目に見えている。それは野次馬のような記者を一身に引きつけるようなもので、実際このホールにはクラシック専門誌の記者がちらほら見えるだけだった。




「でもテギョンヒョンがいきなりステージに現れたらみんなびっくりするだろうね。うるさくて演奏どころじゃなくなるかも。ミニョがかわいそうだよー」


ジェルミの頭の中ではタキシードを着たテギョンがピアノの前に座った瞬間、客席から沸き起こる黄色い歓声にミニョがおろおろと歌えなくなってしまっている。


「ミニョを邪魔するようなこと、テギョンがする訳ないだろ。ほら、見てみろよ。」


舞台の上には細身のパーティションが幾つも並べられていた。柔らかな布でできたそれは、ひらひらとなびきながら設置され、ピアノをすっかり隠してしまっている。

変わった演出に客席がざわめくが、物知り顔のおばさんの「伴奏者、アメリカ人らしいけど、人前に出るとあがっちゃって弾けなくなるんですって、変わってるわよね」という声に周囲は納得していて、ジェルミは必至で笑いを堪えていた。




舞台の袖からステージを見るミニョは、客席から完全に見えなくなってしまったピアノに少し心を沈ませた。


「オッパの演奏がみなさんに見てもらえないなんて残念です。オッパがピアノ弾いてる姿、とっても素敵だから見てもらいたいのに。」


「俺が出てったらキャーキャーうるさいぞ。今日は俺が目立つ必要はないし、ミニョからは俺が見えるだろ。」


念には念をと変装もした。

客席からは見えないが、ミニョが歌う場所からはテギョンの姿がよく見える。ミニョにしか見えないテギョンの姿。


「今日の俺はお前の為だけに輝いてやる。」


「こんな大勢の人の前でオッパを独り占めできるんですね。」


「光栄に思えよ。」


澄ました顔で言うテギョンにミニョは「はい」と笑顔で答えた。




指を絡めるように繋がれた手。

そこから流れ込んでくる温かなパワーはミニョの血液にのって全身を駆け巡っていく。


「さあ、行くぞ。」


明るいライトの下、テギョンが静かに鍵盤へ手をのせると、長くしなやかな指が流れる音を紡ぎだした。

客席に聴かせるのではなく、ミニョの為だけに奏でられる曲。

舞台の中央。

輝く星に見つめられながら、ミニョは大きく息を吸った。




――――   Fin   ――――   




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