青い空にぽっかりと浮かんだ白い雲は、緩やかな風に乗ってのんびりと散歩でも楽しんでいるかのように流れていく。
緑鮮やかな芝生の上にペタンとお尻をつけて座っていたミニョは、ぼんやりと穏やかな空を眺めていた。
「ちょっと時間かかっちゃった。はい、ミニョはオレンジでいい?俺はコーラ。」
息を切らしてやって来たのはジェルミ。急いで走って来たのか額には汗がキラリと光っている。
「はい、ありがとうございます。て、あ!ジェルミ、ちょっと待っ・・」
「うわっ!」
缶を開けようとしているジェルミを見て、待ってと言おうとしたミニョの言葉はジェルミの叫び声でかき消された。そしてジェルミのシャツには缶から噴き出したコーラが大量の泡となって襲いかかり、見るも無残な姿に。
「うっわー、べったべたー、せっかくミニョとデートなのに~」
濡れたシャツを肌から引きはがすように指先でつまんでいるジェルミの姿に、ミニョはあははと笑い出した。
きょうはミニョの休みの日。ジェルミのオフも重なった。
「俺は忙しくて相手してやれないから、ジェルミがミニョの相手をしてくれないか」
数日前、ありえないテギョンの言葉にジェルミは耳を疑ったが、気が変わらないうちにと満面の笑みで即答した。返事はもちろん「OK!」
その後テギョンが「あれは冗談だ」と言い出すこともなく時は過ぎ、今日を迎えた。
天気は晴れ。澄み渡る青い空とぽっかり浮かんだ白い雲が美しいコントラストを描き、吹き抜ける風が心地いい。
絶好のデート日和に、日ごろの行いがいいからなんだとジェルミは上機嫌。
遊園地に行き、たくさん遊んだ後は芝生の上でひと休み。噴き出したコーラはそこでのハプニングだった。
「ずいぶん前ですけど、オッパもそうやってジュースが服にかかっちゃったことがあるんです。あの時はちょうどマ室長の服があったんでそれを着て。でもサイズが合わないからズボンが短くて・・・」
ミニョは過去のことを思い出し、くすくすと笑い続けている。
「そうか、これはヒョンの呪いだな。ミニョの相手を・・・なんて言っておいて、さっさと帰ってくるように念を送ってるんだ。そうはいかないぞ。」
コーラを思いっ切り振りながら走って来た自分の行動を棚に上げテギョンのせいにすると、ジェルミはべたつくシャツを脱ぎ、近くの水道でじゃぶじゃぶと洗いだした。そしてぎゅっと絞ると、広げて木の枝にひっかけた。
爽やかな風が吹き、シャツをなびかせる。適度な陽射しと気温も手伝って、しばらくすると何とか着られるくらいには乾いた。
「うわっ、冷たっ。」
べたべたではないが完全に乾燥した訳でもないシャツの着心地はひんやりとして、ジェルミは一瞬身震いをした。
「もう少し乾かしてからの方がいいんじゃないですか?」
「平気だよ、これくらいなら着てればすぐに乾くって。それにこれ着てないと、ミニョ、俺の方見てくれないだろ。」
ミニョはジェルミがシャツを脱いだ時からまともにジェルミの方を見ていない。せっかく一緒にいるのにそんなの悲しいじゃん、とジェルミは大げさに嘆き、ミニョの笑いを誘った。
「ドラマのお仕事って、やっぱり大変なんですよね。」
帰りのバスの中、俯くミニョの言葉にジェルミが顔を覗き込んだ。
「毎晩遅いことが多いし、それに何だか最近家でも難しい顔してることが多くて。考え込むような感じでよくため息ついてるし、疲れてるのかなって。」
「ヒョンはどんな仕事でも妥協しないからね。俺達にも厳しいけど自分自身にはもっと厳しいから。身体が心配?」
ミニョはコクリと頷いた。
「ドラマも体力使うからなぁ。でもヒョンにとって一番安らげる場所ってミニョが待ってる家だと思うから、眉間に縦じわ寄せて怖い顔しても、うっとうしいくらいのため息ついても、笑顔でいてあげてよ。」
言葉と一緒に眉と眉の間にうにゅっとしわを作ったり、大きな大きな息を吐いて肩を落とすジェルミ。
ジェルミの優しさに、ミニョは「はい」と顔をあげた。
「おかえりなさい。」
深夜に帰って来たテギョンをミニョは笑顔で出迎えた。
「悔しいがジェルミ効果はあったみたいだな。」
「ジェルミ効果?」
最近ふさいでいる様子が多いミニョの気分転換に、ジェルミと出かけることを勧めたというテギョン。
「俺は毎晩遅くてどこにも連れてってやれないからな。」
役に立たないなと寂しそうなテギョンに、ミニョは違いますと首を横に振った。
「もし私が暗い顔をしていたとしたら、それはオッパの身体を心配してたからです。でも今日ジェルミに、オッパが安らげる場所はここだから、私は笑ってなきゃって言われて。」
「落ち込むようなことがあったんじゃないのか。じゃあ俺は何の為にジェルミと行かせたんだ。」
「でもジェルミのおかげで私は笑顔になれました。・・・プッ、クスクス・・・」
「何だ、何がおかしい。」
「オッパのその顔・・・」
おもしろくないと尖らせた唇を左右にムニムニと動かすテギョンにミニョは笑い出す。
「私、オッパのその口、好きなんです。かわいい。」
クスクスと笑いながら尖った唇を指先で触れれば、その手をテギョンが掴んだ。
「見るだけか?指で触るだけで満足か?俺は全然足りないぞ。」
ミニョにとっては笑っている顔も拗ねている顔も、怒っている顔でさえ傍で見ていられれば幸せ。でもテギョンの言うように物足りない時もある。
不満げな顔で見下ろすテギョンの肩に、ミニョがそっと手をのせた。
「こっちも好きですよ。」
少し背伸びをしながらミニョがまぶたを閉じる。
テギョンは満足げに口の端に笑みを浮かべるとミニョをきつく抱きしめ、柔らかな唇をゆっくりと味わった。
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