合宿所のドアを開け玄関でスリッパに履き替えると、シヌは廊下を歩く足取りが思いの外軽いことに気がついた。そしてそんな自分にフッと笑みを漏らす。
ミナムは怪我で入院中、ジェルミはまだ帰って来ていない。
静まり返った合宿所で、シヌは車のキーをチャリンと置くとキッチンでお湯を沸かし始めた。戸棚を開け茶葉の並んだ瓶を指でなぞりながらどれにしようかと考える。
「これにするか。」
いつもよりたっぷりと時間をかけ一つの瓶を選ぶと、カップを二つ用意した。
しゅんしゅんとやかんから蒸気が立ち上り、ポットに入れたお湯は中の茶葉を躍らせる。一連の動作はいつもと同じなのに、おいしく淹れられたか心配になるのは、一口飲んだ時の彼女の反応が気になるから。
おいしいと笑ってくれるだろうか。
二つのカップに注ぎ終わるとシヌはおもむろに立ち上がり、地下への階段を下りて行った。
コンコン・・・
練習室のドアをノックしてしばらく待つが、返事はない。シヌはもう一度ノックをしてから重いドアをゆっくりと開けた。
「やっぱり・・・」
部屋の中にはミニョがいた。しかもシヌの予想通り寝ているミニョが。
壁際に置いてある椅子に座り、背もたれに身体をあずけ、すうすうと穏やかな寝息を立てている。あどけない顔で無防備に眠っている姿を見ると、ここはミニョにとって安らげる場所なんだと何だか少し嬉しい気がする。しかし同時に、こんなとこで寝るなよと心配する兄のような気持ちにもなり、俯く身体を揺り起こした。
「あれ?シヌさん・・・やだ!私いつの間に。」
ミニョが慌てて立ち上がる。
結婚前に練習室を借りていたように、結婚してからもミニョは時々ここを借りていた。その回数は結婚前と比べるとぐんと減っていたのだが、チャリティーコンサートの出演が決まってからは、よくここで練習するようになった。
「お茶淹れたから飲んでって、後で車で送るよ。」
シヌは玄関のドアを開けた時、そこにあった女物の靴を見てすぐにミニョが来ていることに気がついた。だからカップを二つ用意した。一つは自分、もう一つはミニョの為に。
「おいしい・・・シヌさんの淹れてくださるお茶は本当においしいです。ホッとするっていうか、シヌさんの優しさがそのまま入ってるっていうか、ん~うまく言えないんですけど・・・」
カップを包むように持った時の温もりは、そのままシヌの温かさを表しているようで。
湯気と共に立ち上る穏やかな香り。
ひと口含んだ時に口の中に広がる味は丸みがあり、するりと喉の奥へと流れ込んでいく。
決して熱くなく、ちょうどいい温度のお茶はミニョの為だけに淹れられたもの。
「ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ。」
自分の淹れたお茶を笑顔で飲んでくれるミニョの姿を見ながらシヌも微笑んだ。
「すみません、また送ってもらっちゃって。」
「気にしなくていいよ、ちょうど買いたい物もあったし。」
そう言ってシヌが途中にあるコンビニに寄るのはよくあること。それがミニョに負担を感じさせまいとするシヌの気遣いだということは、ミニョにも充分判っていた。
コンビニから出ると外は夕方とは思えないほど暗かった。分厚い雲が空を覆い隠し、大粒の雨が降っている。短時間に大量の雨が降り、タイヤが水しぶきをあげる。しかし激しかった降りは通り雨だったのか、ミニョのマンションに着く頃には小雨程度に変わっていた。
「どうもありがとうございました。」
「じゃあね。」
マンションの前でミニョを降ろし、何気なく遠ざかって行くミニョをバックミラーで見た瞬間、シヌは思いっ切りブレーキを踏んだ。発進した直後でそれほどスピードは出ていなかったが身体にガクンと強い衝撃がかかる。しかしそれ以上にシヌに衝撃を与えたのは、ミラーに映っている誰かと争っているミニョの姿。
「ミニョ!」
慌てて車から飛び出すと、男がミニョのバッグを掴み引っ張っているのが見えた。そして突然どこかから現れたもう一人の男が何か大声で叫びながら二人へ向かっていく。
その声に驚いたのか、ミニョの手から奪い取ったバッグが男の手を離れ地面に投げ出された。
チッと舌打ちすると男は何も取らず、猛然と駆け出す。
後から現れた男はミニョへ駆け寄るシヌを確認すると、逃げた男を追うように消えて行った。
「ミニョ、大丈夫か!」
「は、はい・・・大丈夫、です。」
その場にペタンと座り込んだミニョを立たせた脚は、怖かったのだろう、言葉とは裏腹にぶるぶると震えている。シヌの腕にすがりつくように掴んでいるミニョの手も小刻みに震えていて。
「ごめん、俺が近くにいたのに・・・」
自分は何もできなかったと悔やみながら、シヌは崩れ落ちそうになるミニョの身体を支えていた。
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8日の夜、ちょっと驚くことがありました。
19時15分頃、車を運転しているとフロントガラスの右上から斜め左下に向かって光が流れました。
流れ星よりかなり明るく大きな光。
「うわっ、何あれ!流れ星?すごいはっきり見えた、大きい~!火花みたいなのあった!」
突然の出来事に興奮していると、「それきっと火球だよ」と後ろから子供が。
後部座席にいる子供の位置からは見えなかったらしく、「見たかった~ o(≧~≦)o」と悔しがる声。
ふふっ、私は見たのだよ( ̄ー* ̄)
ネットで調べると、結構目撃証言が。
今までにもテレビで映像は見たことあったけど、実際に自分の目で見るのは初めて。
なんか嬉しい♪
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