You're My Only Shinin' Star (276) 父との食事 1 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

「一緒に行きたかったな。」


「すみません、私もお義父さまにお会いできるのを楽しみにしてたんですけど・・・」


わずかだが駄々をこねるようなテギョンの口ぶりに、ミニョは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


A.N.JELLがアメリカのテレビに出演することが決まったのは数週間前。テギョンはちょうど仕事でアメリカに滞在している父ギョンセに妻となったミニョを会わせようと考えていたが、ミニョと一緒に仕事をしているシスターが階段で足を滑らせ怪我をしてしまい、ミニョは仕事を休めなくなってしまった。


「仕方ないな。」


靴を履きながらテギョンは尖らせた口を左右に動かす。

父親に会わせるというのは口実で、本当は一緒に行ってわずかな時間でも二人で観光を楽しもうと考えていたテギョンは、突然一週間もミニョと離れることになり、落胆していた。


ため息を漏らすテギョンの肩が不意に重くなり、頬に柔らかいものが触れた。テギョンの顔に小さな笑みが浮かんだ。


「それはいってらっしゃいのキスか?それともごめんなさいのキスか?」


「両方です。」


「なら・・・足りないな。」


足りない分を要求するテギョンの口の片端がわずかに上がる。一週間分の想いを求めるテギョンはミニョの身体を抱き寄せると、熱く甘く唇を塞いだ。






「ミニョも来れないなんて残念だな~せっかく久しぶりに会えると思ったのに。」


アメリカへ向かう飛行機の中で、ジェルミがガックリと肩を落とした。


数日前に事故で入院したミナムを韓国に残し、アメリカへ着いたA.N.JELLの三人は、歌番組、バラエティー、ラジオ出演、雑誌の取材とかなりのハードスケジュール。

そしてミナムのいない穴を埋めようとトークではジェルミがいつも以上にしゃべり、アメリカではまだそれほど有名ではないA.N.JELLの知名度を上げようと頑張っていた。


「何だかミナムが入る前みたいだね。」


A.N.JELLにミナムが加入してからはずっと四人で演奏していたので、三人での演奏は久しぶり。


「でも・・・前と同じじゃないな。」


ステージには三人しかいないのに、ついミナムがいつもいる場所に視線を送ってしまう。それはテギョンも同じようで、シヌの言葉にそうだなと返すと口の端で小さく笑った。




その日の仕事が終わり、みんなで食事に行こうと言うマ室長に、先約があると断ったテギョンはタクシーを降りると一軒のレストランへ入って行った。

華やかだが落ち着いた雰囲気の店内は穏やかなピアノの音が流れている。靴音を静かにのみ込む絨毯の上を案内されしばらく歩くと、その先には一人の男性がゆったりと座っていた。


「お久しぶりです・・・父さん。」


「相変わらず硬いあいさつだな、テギョン。」


ピシッと立った身体を軽く曲げるテギョン。

息子を見上げわずかに笑うギョンセ。

会うのはどれくらいぶりだろうか。

こんな時、他の家では父と息子はどんな挨拶をするのかテギョンには判らない。離れて暮らしている時間が長く、他人ではない”父”との対面にテギョンは幾分緊張していた。






離れて暮らすことが多かったが、幼い頃はギョンセについて各国を回ったこともある。

ピアノを教わる時は厳しかったが、上手く弾ければよく頑張ったと笑顔で褒めてくれた。それが嬉しくて一生懸命練習した。

母親と暮らせない寂しさを埋める為に、父親に褒めてもらう為に弾き続けていたピアノ。

父親を尊敬していたがクラシックの世界に足を踏み入れると、ファン・ギョンセの名前は意外な方向からテギョンに影響を与えた。

どんな世界にも影や計略は存在する。

世界的に有名な指揮者ファン・ギョンセ。その息子ファン・テギョン。

幼いながらも稀有な輝きを見せるテギョンの才能は、野心を持った大人達のターゲットとなった。

浴びる脚光。

贈られる称賛。

しかしそれは同じ道を志す一部の者の目には歪んで映り、嫉妬と妬みの対象にしかならない。

自分の実力に対する評価が正当なものなのか、不当なものなのか、幼いテギョンには判らなかった。

彼らの悪意に満ちた言葉は純真な少年の心を何度も傷つけた。それは決して父親のせいではないのだが、いつの間にかテギョンはクラシックからもピアノからも、そして父親からも離れていった・・・・・・






「座ったらどうだ。」


久しぶりの再会にどう接していいか戸惑っていたテギョンは挨拶をしたままその場に立ちつくし、ギョンセに声をかけられようやく椅子に腰かけた。


「ミニョさんに会えないのは残念だな、楽しみにしていたのに。」


電話でミニョが来られなくなったことは聞いていたが、実際に目の前にテギョンが一人で現れたことにギョンセの顔には落胆の色が浮かんだ。


「その台詞、父さんで二人目ですよ。」


ジェルミも同じことを言っていたなとテギョンは思い出す。

もともとミニョに会わせるつもりで食事の約束をしていた。父親と二人きりというシチュエーションは予定外で、何を話したらいいのかと困惑していたテギョンはミニョの話題になり、どこかホッとしたように肩の力を抜いた。

そんなテギョンの様子を見てギョンセは柔らかな笑みを浮かべる。


「そうか、ではきっともう一人増えるぞ。」


楽しげな口調のギョンセの視線が、目の前にいるテギョンを通りこした。




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