You're My Only Shinin' Star (267) 子役とCM 2 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

ん?

不意に腰の辺りを掴まれたテギョンは何だ?と下へ顔を向けた。そこには共演した子供が立っていて、テギョンを見上げている。

小さな丸いくりっとした目はじっとテギョンを見つめ、もじもじと恥ずかしそうな仕種を見せつつ、その口元は嬉しさでいっぱいといった表情をしていた。


「・・・パパ?」


おずおずと、まるで確認するかのように疑問符付きの言葉が小さな口から発せられた。澄んだ目はキラキラと期待に満ちている。

女の子はまだテギョンが父親という世界に浸っているのだろうか。パパと言いながらテギョンを見上げたまま。しかし仕事が終わった以上、テギョンはいつまでもこの子の父親を演じるつもりはない。


「俺はもうパパじゃないんだ。」


テギョンは言葉がきつくならないよう気をつけながら子供に声をかけたが、女の子は納得がいかないようで、テギョンの服を掴んだまま、「パパ」と繰り返す。


「もう撮影は終わったよ。」


「パパ?」


「俺はパパじゃない。」


「パパ!」


テギョンはイラつく気持ちをぐっと抑えながら諭すように言うが、女の子はまるで『パパはここにいるじゃない!』と言う感じでテギョンの服をぐいぐい引っ張る。

テギョンはため息をつくと辺りを見回した。


「おい、この子の母親はどこ行ったんだ?」


「たぶんトイレだと思います。さっき場所を聞いてたから。」


近くにいたスタッフはそう答えながら床に伸びているケーブルをまとめる。


「マ室長、何とかしてくれ。」


「そんなこと言われてもなぁ・・・」


しがみつくように服を握っている小さな手を振りほどくこともできず、困ったテギョンはマ室長へと助けを求めた。

マ室長はその場にしゃがむと、女の子に優しく話しかけた。


「このおじさんはパパじゃないだろ、本当のパパが悲しむよ。」


女の子はマ室長の顔を見たままで、ふるふると頭を横に振った。


「だってパパだもん。おうちにママといっしょにうつってるしゃしんあるもん!」


叫ぶような大きな声がスタジオに響き、ごそごそと片付けをしていたスタッフが一斉にテギョンの方を見た。

その目は、『えっ!まさか、それって・・・』と、口には出さないまでも、何を言いたいのかはっきりと判る目で。

そんな視線の集中砲火を浴びたテギョンだが、本人は周りの反応に気づくこともなく、急に何を言い出すんだと訝しげな目で子供の方を見ている。


何をどう勘違いしているのか。いや、そもそも他人を父親だと間違えることがあるのか。それともよっぽど自分とうり二つの人間が存在するのか・・・


もし突然目の前に現れた子供の存在に少しでも心当たりのある男なら、こんな時、『まさか、いやそんなばかな・・・』と慌てたかも知れないが、そんなことはありえないテギョンは、なぜこの子は妙なことを言うのかと冷静に考える。

眉間にしわを寄せ、少し首を傾げながら腕組みをしている姿は、周囲の人間にはテギョンが何かを思い出そうとしているように見えてしまい・・・


「おい、テギョン、まさかお前本当に・・・」


すぐ傍でマ室長は細めた目を疑惑の色でいっぱいに満たし、覗き込むようにテギョンの顔を見ていた。






「今日はやけに疲れたな。」


「何だか・・・大変だったみたいですね。」


撮影でのことをマ室長から聞いたのか、リビングのソファーに崩れるように身体を沈めたテギョンを見て、ミニョはくすりと小さく笑った。






マ室長の言葉でその場にいる全員に疑惑の目を向けられていることに気づいたテギョンは、慌てて「違うぞ」と大声で叫んだ。しかしその間も、女の子は服を掴んだまま「パパ!」を連呼していて。

微妙な空気が充満する中、漸く戻ってきた母親に女の子の「パパだもん!」発言のことを話すと、もしかしたら・・・と申し訳なさそうな顔で説明をしてくれた。


母親はシングルマザーで子供は父親の顔も知らない。以前A.N.JELLのイベントで、好きなメンバーとツーショット写真が撮れるという抽選に当たった彼女は、テギョンと写真を撮り、それが部屋に飾ってあるという。彼女は子供に、写真に写っているテギョンを「ママの好きな人よ」としか説明せず、毎日その写真を嬉しそうに眺めている母親を見て、『パパなの?』と思っていたのかも知れない・・・と。






「撮影はスムーズにいったのに、まさか最後にあんな落とし穴があるとはな。」


昼間のことを思い出し、ソファーに身体を沈めたままテギョンは大きなため息をついた。


「もっと苦手になっちゃいましたか?」


隣に立つミニョがテギョンの顔を覗き込む。

何を考えているのか判らない、どんな動きをするか予測のつかない小さな子供は苦手だ。しかし、親を求める気持ちと服を掴んでいた手は理解できる。


「そうでもないな。」


テギョンは俯けていた顔を少し上げミニョと視線を合わせると、微かに笑った。




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