もしもドアの前に誰かが立っていたら、その人物は確実にどこか怪我をするんじゃないかと思われるくらいの勢いで、部屋の内側へとドアが開けられた。そこから現れたマ室長はテギョンの姿を見つけると、一直線にそこへと向かって行った。
「これ、知ってるか?」
マ室長の持っていた紙をバッと目の前に大きく広げられ、やぶから棒に何だとテギョンの眉間にしわが寄る。
「知ってたらそんなのん気な顔してられないよな。テギョン、俺はショックだ。ミニョさんという人がありながら、まさか・・・まさかテギョンがそんなことをする男だったなんて・・・見損なったぞ。」
テギョンに詰め寄るマ室長は興奮しているようで、その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
何のことだかよく判らないが、どうやら自分は非難されているいるようだと悟ると、テギョンはマ室長の持っていた新聞を奪い取り、そこにある記事に目を走らせた。
「プッ・・・ヒョン、記事がレベルアップしてるよ、子供だって。」
テギョンの後ろからひょいと覗き込んだジェルミは、記事の内容に噴き出した。
以前から芸能人など有名人のゴシップ記事を多く取り扱っている、とあるスポーツ紙。そこには真実もあればほとんどねつ造といっていいものまで様々で、テギョンも度々迷惑をこうむっていた。
読者の関心を煽る為、人目を引く見出しが多く、今回のテギョンの記事も 『隠し子?』 と妻ではないお腹の大きな女性と一緒にいる写真が載っていた。
昨日、ソユンを自宅付近まで送って行き、店を教えてもらった際、テギョンが車の外に出て詳しい場所を聞いている時に撮られたと思われる。
ジェルミが言ったレベルアップというのは、結婚前の 『新しい恋人か?』 という記事に対して、結婚後は 『隠し子?』 と変化しているからだったが、それにしても妊婦と一緒にいるからと、お腹の中の子がテギョンの子供だというのは、あまりにも短絡的で、強引で、ばかげている。
よく調べもせず、目の前の光景だけでくだらない記事を書く記者の人間性も疑いたくなるが、それ以上にテギョンは目の前のマ室長の言動が信じられなかった。
「ショックなのは俺の方だ。この新聞がいつもでたらめな記事ばかり載せているのはマ室長も知っているだろう。それなのにこの記事を信じて俺を疑うとは・・・」
テギョンは大きなため息をついた。
「だって昨日アン社長の誘いを断って慌てて帰って・・・で、この記事だし・・・」
「久しぶりにミニョとゆっくりしたいと思ったんだ。」
「でもテギョン、この人と二人でいたんだろ?」
「ミニョも一緒だ。車の中にいた。」
「この写真・・・テギョン、笑ってるじゃないか。」
「俺は笑っちゃいけないのか。」
「えーっと、だなぁ・・・」
テギョンを疑ったことを少しでも正当化させたいと思ったのか、マ室長は思いついたことをとにかく口にしたが、その全てをあっさりと返され口ごもっていく。
「隠し子って・・・ヒョンがそんなことする訳ないだろー。そんなのちょっと考えれば判りそうなもんだけど。」
「まったくだ、一体今まで俺の何を見てきたんだ?そんな風に疑われるとは、がっかりを通りこして呆れる。」
二人の冷ややかな視線を浴び、マ室長の身体は小さく縮こまっていく。しかし、すぐに今まで言ったことを誤魔化すように薄ら笑いを浮かべ、丸めていた背中をピンと伸ばすと、記事に対する批判を始めた。
「ハハハ、俺もうさん臭い記事だなーとは思ってたんだ。だいたいテギョンの笑顔もミニョさんに向けるものとは全然違うし、いくら何でも隠し子って、突飛すぎだよなー。いやいや、俺も心の底ではちゃんとテギョンのこと信じてるんだぞ。ただマネージャーという立場から、いつどんな状況にも対処できるように、あらゆる可能性を視野に入れてだな・・・」
変わり身が早いというか切り替えが早いというか。
自分の身を守ることには極めて長けているマ室長の口からは、スラスラと自分自身を弁護する言葉が出てくる。もしも今、この場にスンウがいたとしたら、「勉強になります」と目を輝かせているんじゃないかと思うと、テギョンの顔には苦笑いが浮かんだ。
「この新聞社も売れるからこういう記事を書くんだよな。書くほうも書くほうなら、買うほうも買うほうだ。誰だこんなのを買う奴は。」
「それってマ室長じゃん。」
痛いところを突かれたが、マ室長もそれくらいでは引き下がらない。
「誤解だ、俺がこれを買った分、他の誰かの目に入ることがなくなったんだぞ。こんなくだらないものが少しでも人の目につかないように、俺はテギョンに、いや世の中に貢献してるんだ。」
どうだ偉いだろう、とでも言わんばかりに胸を張るが、冷ややかなテギョンの視線にチクチクと攻撃され、マ室長は逃げるようにそそくさと部屋を出て行った。
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