結婚後、テギョンのオフが終わると同時に、A★Nエンターテイメントから報道関係各社に送信された一枚のファックス。
『A.N.JELLリーダー ファン・テギョンの結婚報告』 にテレビはもちろんラジオ、新聞、雑誌とあらゆるメディアは大騒ぎだった。
相手の女性は一般人の為、顔も名前も一切公表しないという姿勢はこれまでと同じだったが、今までプライベートに関してはほとんど話をしなかったテギョンが、詰めかける記者の質問に短いながらも丁寧に答える姿は、連日テレビで放送された。
しかし新しい話題に事欠かない芸能界。
大いに盛り上がったテギョンの結婚報道も、日が経つにつれ次第に落ち着いていった。
テレビ局の控え室。
テギョンが番組の台本を見ながらスタッフから説明を受けていると、何やらバタバタと廊下が騒がしくなった。
眉間にしわを寄せるテギョンを見て、スタッフが慌てて廊下の様子を見に行く。
「すいません、どうやら女の子を捜しているようです。」
「女の子?」
「オーディションを受けに来ていた子がどうもこっちに入り込んだみたいで・・・」
そう話すスタッフの後ろでドアがノックもなくガチャリと開き、突然一人の少女が飛び込んできた。
ショートパンツにTシャツを着たその子は中学生くらいで、肩より少し長めの黒髪が荒い息とともに揺れている。整った顔立ちで、髪と同様黒い大きな瞳が印象的な少女はキョロキョロと誰かを捜すように部屋の中を見回した。
「誰だ君は、突然入って来て。」
「あの・・・えーっと・・・ちょっと道に迷っちゃって・・・ここって、ファン・テギョンさんの控え室ですよね。」
「何?君か!?オーディションを受けに来たというのは。迷っただって?しらじらしい、どうせテギョンさんのサインでももらいに入り込んだんだろう。」
「オーディション?サイン?・・・え?・・・あ!違う、私は・・・」
「オーディションだと?」
スタッフと少女の話し声にパーティションの陰から顔を出したテギョンは、少女を見ると片方の眉を上げ軽く睨んだ。
「オーディションに来たのは私じゃなくて友達。私はただ付き添いで来ただけなの。それなのに、なぜかそこにいたおじさん達が私にもオーディション受けろってうるさくて・・・あんまりしつこいから逃げて来たんだけど、出口が判らなくて・・・私はただ帰りたいだけなのに、皆で追いかけて来るから・・・」
事情を説明する少女の顔を、うさん臭そうに見るスタッフ。
腕組みをしながら少女を見下ろしていたテギョンはチラリと時計に目を遣り、スタッフに声をかけた。
「ミニョの控え室は角を曲がった突き当たりだったよな・・・もう終った頃か?」
「はい、Aスタジオの収録はさっき終わったって連絡があったんで・・・もう戻ってる頃だと思います。」
テギョンは携帯を取り出した。
「ミニョか、俺だ。控え室だな・・・今からそこで歌え。あ?曲は何でもいい、とにかくセーブしないで思いっ切り歌え。それと、電話はそのまま切らずに置いとけよ。・・・どうしてかって?俺が聴けないじゃないか。」
テギョンが携帯をテーブルの上に置くと、暫くしてそこから高く澄んだ歌声が聴こえてきた。
すると今度は先程以上に廊下がバタバタと騒がしくなる。
ソプラノ歌手として有名にはなったが、テレビに出演するのはトーク番組などほんのわずか。今日の出演も司会者との対話形式の番組で、CDなど出していないミニョの歌を聴けるのは年に数回、各地で行われるチャリティー公演のみとなれば、防音設備のない控え室から聴こえてくるミニョの歌声に、チャンスとばかりに人々が集まりだす。
「テギョンさん、すいません、俺もちょっとだけ聴きに行っていいですか?」
案の定部屋にいたスタッフも、突然部屋へ飛び込んできた少女のことなどそっちのけで、電話越しではない歌声を聴きたいとそわそわしだした。
「ああ、悪い、今日のところは諦めてくれ。・・・ほら、今なら皆ミニョの部屋の前に集まってる、その”おじさん”とやらに捕まらずに帰れる筈だ。俺が連れてってやれればいいんだが・・・かえって目立ちそうだからな。」
少女を外まで連れて行ってくれと頼まれたスタッフは目を見開いて驚いた。
テギョンが一般人の少女と局内を歩く・・・それは少女が一人で廊下をうろつくより確実に目立つだろう。
しかしテギョンはやっかいごとが嫌いで人とあまり関わりたがらないということは、実際に一緒に仕事をしているスタッフも身をもって知っていること。それなのに、こんな風に突然入り込んできた女の子を、嘘をついているかも知れない子を助けようとするなんて・・・と驚きを隠せないスタッフ。
だが、彼がそれ以上に驚いたのはこの後だった。
テギョンは自分のバッグからキャップを取り出すと、少女に手渡した。
「一応これで顔を隠して行け、ミニョが歌っている間は皆そっちに気をとられているとは思うが・・・」
少女はポケットから取り出したヘアゴムで髪をキュッと結わえると、受け取ったキャップを目深に被る。そして携帯から流れてくるミニョの歌声に耳を傾けた。
「やっぱりきれいよね・・・何度聞いても飽きないわ。」
「当たり前だ、誰が歌ってると思ってるんだ。お前もそろそろ本格的に教わったらどうだ?」
「んー、私はできればカトリーヌさんに教わりたいな~」
「贅沢なヤツだな。」
「だってカトリーヌさん大好きなんだもん。」
「まったく親子そろって・・・」
ニッコリと笑う少女を見てテギョンは口元を歪ませる。
「じゃあね、ありがとう。」
「真っ直ぐ家に帰れよ。もしも遅くなったら・・・来月の小遣いはカットだからな。」
「ええーっ!!」
ぷうっと頬を膨らませながら少女は部屋のドアを開ける。
テギョンと少女の顔を交互に見ながら、目の前で交わされる二人の会話を口を開いたまま呆然と聞いていたスタッフは、少女がドアを開けた音にビクリと反応し、テギョンに頭を下げると慌てて部屋から出て行った。
「あの顔・・・ミニョにそっくりだな・・・」
少女が頬を膨らませた顔を思い出すと、携帯から聴こえてくる歌声に耳を傾けつつ、テギョンは小さく笑った。
「オッパ・・・オッパ・・・起きてください。」
ミニョの声にうっすらと瞼を開けたテギョンは眩しさに腕で目を覆った。
「今日はお昼からアン社長と打ち合わせがあるんじゃないですか?」
徐々に慣れてきた部屋の明るさに腕をどかすと、目の前にミニョの顔が見えた。
昨夜はレコーディングが予想以上に遅くまでかかり、帰って来たのは午前三時。テギョンの帰りをずっと待っていたのか、ミニョはリビングのソファーで眠っていた。
軽くシャワーを浴びるとミニョを抱き上げベッドへと行く。全く起きる様子のないミニョに少しだけ口を尖らせつつ、テギョンは柔らかな身体を抱きしめ眠りについた。
「いい夢だったんですか?」
「夢?・・・さあな、全く思い出せないが・・・」
「ずっと顔が笑ってましたよ。」
そう言われれば何となくいい夢だったような気もする。しかし今は憶えていない夢のことよりもミニョだ。
「先に寝てろと言ったのに・・・」
「私ちゃんと寝てましたよ。」
「ソファーじゃなくベッドで寝ろ。」
ミニョの腕を掴むとベッドへと引きずり込み、素早く唇を重ねる。
「んっ・・・オッパ、お仕事・・・」
「まだ時間はある、慌てる必要はない。」
テギョンがチラリと時計を見ながらじたばたと暴れるミニョの首筋へ唇を這わせれば、甘く短い息を漏らしピクリと身体を震わせるミニョ。
「仕事は・・・もう少し、ミニョを補充してからだ。」
再び唇を塞ぐとテギョンの手は服の中へするりと入り込み、ミニョの肌を滑る。
結婚してまだ一ヶ月。
二人だけの甘い時間はまだまだ続きそう・・・
。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆
明けましておめでとうございます
バタバタと慌ただしい年末年始を乗り越え(大したことしてないけど)、徐々に普段の生活に戻りつつあります。
もうすぐ子供達の冬休みも終わり!≧(´▽`)≦
落ち着いてPCの前に座れる~♪
今回のお話はだいぶ前に書いてあったものをアップしました。
本編の下書きは、これでゼロ!(ノ゚ο゚)ノ
またちょっとずつ書き溜めないとな~
今年こそは本編を完結させるぞ~!!
そして時々は甘いお話も書けたらな・・・っと(-^□^-)
今年も昨年同様のんびりとした更新になるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。
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