テギョンさんが不機嫌なのは寝不足が原因・・・
そう勝手に自分で思い込んで納得したんだけど、それと身体の反応は別物みたい。
キッチンを出て二階へ行こうとした私は、なぜか階段の下で壁にもたれて腕組みをしているテギョンさんを見て、一瞬身体が固まった。
鋭い視線が私に突き刺さる。
私はとにかくこれ以上何かしゃべってテギョンさんの気に障らないようにと、さり気な~く目を逸らしながら階段を上ろうとした。
「おい」
「はいっ!」
急に声をかけられ、私は飛び上がりそうなほど驚いた。ううん、実際に私の心臓は飛び上がったと思う。
「て・・・」
「はい?」
「手を出せ」
「手?」
私は何のことだか判らず、自分の両の手のひらをまじまじと見つめた。
この手を私にどうしろと?
自分の手を見ながら首を傾げていると、テギョンさんは自分の言ったことがうまく私に伝わっていないことにイラついたのか、小さく舌打ちして私の右手をぐいっと掴んだ。
「階段・・・上るんだろ」
眉間にしわを寄せた顔はぶっきらぼうな言い方とずいぶんマッチしているように思えた。
これはもしかして・・・私に手を貸してくれようとしてるのかな?
テギョンさんの大きな手が私の手を包む。
その瞬間、何だか不思議な感覚が私を包んだ。
何だろう?この感じ・・・
「優しいのは・・・二人だけじゃない・・・・・・」
ボソッと独り言のように小さく呟かれた言葉。
私の手を握り、少し引き上げるようにゆっくりと階段を上るテギョンさんの顔は私からは見えない。
それでも何となく・・・何となく、その顔には笑みが浮かんでるような気がした。
アイドルという職業はずいぶんと生活リズムが不規則になってしまうみたい。
昨日よりも早く目が覚めたのに、下へ下りていくとキッチンには既に誰の姿もなく、テーブルに一枚のメモとお鍋が置いてあった。
”朝食 準備しておいたから 食べて”
そういえば昨日お兄ちゃんが、今日は四人一緒の撮影で朝が早いって言ってたのをすっかり忘れていた。
「誰の字だろ?」
字を見てお兄ちゃんじゃないことはすぐに判った。
この書き方からすると、テギョンさんでないことは確実だと思う。残りはジェルミ・・・シヌさん?
うん、何となくだけど、シヌさんのような気がする。
いろいろと気遣ってくれるシヌさん。
お鍋の蓋を開けると、中にはおいしそうなお粥。
「いただきます」
私はシヌさんの微笑みを思い浮かべながらまだ温かいお粥をスプーンですくった。
誰もいない合宿所。私はソファーに座り、テレビをつけた。
ニュース、ドラマ、歌番組・・・
「あ、お兄ちゃんだ」
初めてテレビで見るA.N.JELL。
「テギョンさんて歌う時の声は普段の声より少し高めなのね・・・へえ、お兄ちゃんがキーボード弾いてるとこ初めて見た。シヌさんのギターすごい・・・あ、ジェルミ、スティック回してる」
客席から飛び交う女の子たちの黄色い声に、すごい人気なんだって思った。
こんなすごい人達と一緒に住んでるんだぁ・・・
何となく、はぁ・・・とため息が出てしまい、ソファーに身体を沈めた。
「ミニョ~ただいま~。あ、俺達のテレビ見てるんだ」
「え?今、テレビに出て・・・あれ?どうしてここに?」
私はテレビに映ってるジェルミとすぐ横にいるジェルミとを見比べて目を丸くした。
「ああそれ、この間収録したやつだから」
今テレビに映ってる人達がすぐ後ろにいることに驚いている私に、シヌさんが説明してくれた。
「朝早く出てったから、早く帰れるって訳じゃないけど」
たまたま四人とも仕事が早く終わったからと、ピザを買ってきてくれたみんな。
「早く食べよ~」
お兄ちゃんがさっそく蓋を開けて手を伸ばす。
ここにきて初めて五人で食べるご飯。お兄ちゃんとジェルミは競うように食べ、そんな二人を見ながら私も笑顔でピザを食べる。
「そうだ、あの本読んでみた?」
シヌさんが微笑みながら私に顔を向けた。
「はい、でも私には難しすぎて・・・昨日のお昼も読んでるうちに眠くなってきて、いつの間にかお昼寝しちゃいました」
「あはは、そうだろ、あれ読んでると眠くなるんだよね」
「え?シヌさんも?」
「そう、眠れない時に眠れる魔法の本」
「ああ、それで・・・」
あれ?でも昨日の夜はあの本読んでもなかなか眠くならなかったのよね・・・
でもお水飲んで部屋に戻ってきてからはすぐに眠れたから、やっぱりあれは魔法の本なのかな?
そう思ってクスクスと笑っていると、急にテギョンさんがガタンと大きな音を立てて立ち上がった。
その音に私はピザを口に頬張ったままテギョンさんの方を見たんだけど、テギョンさんはなぜか私の方をジロリと睨むと、ムスッとしたまま何も言わずに二階へと行ってしまった。
「あの、私・・・何かしましたか?」
睨まれるようなことをした覚えがない私は首を傾げる。
「いいや、気にすることないよ・・・テギョン自身の問題なんだから」
シヌさんが私に声をかけてくれる。
昨日の夜はわりと普通にしゃべれたと思ったのに。階段を上るのも手伝ってくれたし・・・
同じ家に住んでるんだから、できればもう少し仲良くなりたいと思っていた私は、右の手のひらを見つめながらため息をついた。
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