アフリカに来てもうすぐ三ヶ月。
ここでの生活は毎日がとても忙しく、一日があっという間に過ぎていった。
私の主な仕事は身寄りのない子供たちの世話。食事を作り洗濯をして、一緒に遊んで勉強して。
「ジェンマ先生~」
すぐになついてくれた子供たち。自分からアフリカへ来ると決めたのに、韓国を思い出し寂しさに沈んでしまう私の心を癒してくれたのは、ここにいる子供たちの笑顔だった。
昼間は子供たちと過ごし、他のことなど考える余裕のない日々が続くけど、夜、子供たちを寝かしつけると途端に寂しくなることがある。
そんな時は携帯のメールを見て一人でこっそり笑っていた。
時差もあるしA.N.JELLは毎日忙しいから直接電話をすることはないけど、メールの遣り取りはしている。
一番多くメールしてくるのは意外にもお兄ちゃん。
ヘンなもの食べてお腹壊してないか?とか、転んで怪我してないか?とか、いつまでも私のこと子供扱いしている。
それと、どさくさに紛れて、テギョンヒョンのことは忘れてもいいぞって。
お兄ちゃんがテギョンさんとのことをなかなか認めてくれないのは、モ・ファランさんのことが関係してるからだと思うんだけど・・・帰ったら何としてでもお兄ちゃんを説得するつもり。
ジェルミはジョリーのことと食べ物のお店のこと。
ジョリーの散歩に行って知り合った女の人と犬の話で盛り上がって仲良くなったのに、次に会った時は男の人と一緒でがっかりしたって教えてくれた。
その夜食べたカレーはそのお店の一番辛いカレーで、今まで数人しか食べきったことがないくらいすごく辛かったけど、全部食べたって自慢してた。
シヌさんはお茶の話が多かった。
季節や気分によって様々なお茶の葉をブレンドして自分好みのお茶を飲むシヌさん。最近はハーブティーにはまってるみたい。
私が韓国へ帰ったらぜひ飲ませたいお茶があるから楽しみにしていてって書いてあった。
テギョンさんは・・・いろいろなこと。
雪が積もって合宿所の屋上から見下ろす真っ白な景色がとてもきれいだったとか、新年のパーティーでちょっとお酒を飲み過ぎたとか。
春になったら一緒にお花見に行こうとも書いてあった。
私が花粉は大丈夫なんですか?って聞いたら、全ての花粉がダメなわけじゃないって返事がきた。
それから、またあの場所で星を見よう、あの時は月が出ていなかったから、今度は月のきれいな夜に見に行こうって。
私は外に出ると満天の星空を見上げた。星を見る度にあの夜のことを思い出す。
二人で見たきれいな星。
私を抱きしめる力強い腕。
ミニョと呼ぶ優しい声。
唇に触れた柔らかな感触・・・
何だか照れくさくてオッパと呼べたのはあの時だけだったけど、帰ったらちゃんとオッパって呼ばないと、また口を尖らせるんだろうな。
ムニムニと唇を動かすテギョンさんの姿はあまりにも簡単に想像できてしまい、私はキラキラと輝く星を見つめながら、クスクスと笑ってしまった。
アフリカでの生活もあと数日。
今日は長時間バスに揺られ遠くの病院まで薬を取りに来た。
これも私に任された仕事の一つ。
体調が悪くなったり怪我をしてもすぐには病院へ行けない子供たちの為に、月に一、二度ほど消毒薬や下痢止めなどの薬をもらいに行く。
「こんにちは、お願いします」
「いつものね、ちょっと待ってて」
仲良くなった受付の人に声をかけ薬をもらう。待っている間に医師(せんせい)や看護師さん達とも話をして、病院を出た。
一日に数本しか走っていないバスは朝出かけると帰りは夕方になり、病院へ行くのにも一日仕事になってしまう。
薬をもらいバスに乗る頃には暗くなりつつある空から大粒の雨が降り出していた。
「早く帰って夕食の支度を手伝わなくちゃ」
雨に濡れた窓ガラスを見ながら子供たちの顔を思い浮かべていると、信号で停まっていたバスが動き出し、発進する時のカクンという振動が私の身体を前後に揺らした。
その直後だった。
キキキィーッという耳障りな音がし、運転手の短い叫び声が車内に響いた。
次の瞬間、何かがぶつかるものすごく大きな音とともに身体が窓ガラスに強く打ちつけられ・・・
人々の悲鳴の中、何が起こったのか理解する時間も与えられないうちに、強い衝撃でふわりと宙に浮いた身体は重力に従ってなす術もなくバスの床に叩きつけられ、私の意識は暗い闇に呑み込まれた。
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