結婚式を挙げたという余韻に浸る間もなく、この後すぐにソウルへ戻って遊覧船へ乗らなければならないテギョンは急いでマ室長をアウディの助手席に乗せた。
「船はもう出てる筈だ、今から行って間に合うか・・・」
時計を見ながらそわそわとしているマ室長を横目で見ながらテギョンはエンジンをかける。
「間に合わせるんだよ、アン社長に俺を連れて来るように言われてるんだろ。間に合わなきゃ・・・クビかもな。」
ニヤリと笑うテギョンと青ざめるマ室長。
「俺はへイに乗せてってもらうから。ヘイ、ヒョンの後、ついてってくれよ。」
「ミナム、いい加減に車の免許取ったら?私を足代わりに使うなんて、いい度胸してるわよ。」
「今日はヘイが俺を引っ張って来たんだろ。ま、考えておくけど・・・もし車の免許取ったら一番最初に助手席乗せてやるよ。」
「うっ・・・それはちょっと遠慮しとくわ、ジェルミあたりで安全性を確かめてからにして。」
「何だよ、その安全性って。」
ぶーっと膨れるミナムはそのままヘイの車へ乗る。
「テギョン、急いでも事故らないようにね。結婚式当日にミニョを未亡人にしたくはないでしょ。」
「ワンさん、そんな縁起でもないこと言わないでください。オッパ、気をつけて行ってください。」
マ室長を乗せたテギョンの車とミナムを乗せたヘイの車は慌ただしくソウルへ向けて出発した。
「出ちゃった船に、どうやって途中から乗るんですか?」
二台の車を見送るミニョはずっと気になっていた疑問をワンに投げかける。
「走ってる遊覧船から縄ばしごを下ろしてもらうことになってるの。テギョンはボートで近づいて行って、そのはしごを使って船に乗るのよ。今頃フニがシヌと連絡を取って船の位置の確認と、どこの船着場でボートに乗るか決めてるとこだと思うわ。」
にこやかに答えるワンの言葉にミニョの頬が引きつった。
「それってものすごく危ないことじゃあ・・・」
「そうね、川に落ちたら危ないでしょうね、怪我じゃ済まないかも。だからさっき言ったじゃない、ミニョを未亡人にしないようにって。あら、婚姻届まだ出してないなら未亡人にはならないのかしら。」
テギョンに何度聞いても教えてくれなかったこと。どうやって遊覧船に乗るのか。
まさかそんな危険な方法で船に乗るとは思いもよらなくて。
テギョンが車の運転が上手いということはミニョもよく知っている。しかし、そんなアクションスターやスタントマンがやるようなことがテギョンに出来るのか心配になってきた。
暗に命の危険があるかも知れないと、さらっと何でもない事のように言ってのけるワンを見ながら、ミニョの心は不安で一杯になる。
「ワンさん、今すぐ私もソウルに連れてってください。」
「もちろんそのつもりよ、今日の主役なんだし・・・でもその前に着替えしないと。そのままのカッコじゃ動きにくいでしょ。」
ワンに促され、着替えを済ませるとワンの運転するワゴン車に乗り込んだ。
「ああ、残念ね、ブーケトスやってもらいたかったのに。」
車が走り出して暫くした頃、そわそわと落ち着かない様子で助手席に座っているミニョにワンが話しかけた。
他の荷物は全て後ろに積んだのだが、何となくそれだけは手に持ったままシートに座ったミニョは、膝の上にあるブーケに目を落とした。
「ブーケトスって・・・人数少な過ぎません?」
「だからいいんじゃない、ヘイと一騎打ちなら絶対勝てる自信があるわ。」
いえ、たとえ何十人女の子がいたとしてもワンさんならきっと勝てると思います。
などと思っても決して口には出せないミニョ。
周りの女性達を蹴散らし、手に入れたブーケを高く掲げ高らかな笑い声を上げているワンを想像してしまい、思わず噴き出しそうになった。
「ワンさん、結婚したいんですか?」
「そりゃあ私だって一度はしたいわよ、ただ相手がね・・・」
ワンは、ハァ~と大きなため息をつく。
「マ室長、いい人ですよ。」
「フニ?やめてよ、あれはいわゆる腐れ縁ってやつ。仕事柄一緒にいることが多いけど、私の理想はもっともっと高いの。ああ、どこかにいい男、落ちてないかしら、段ボールにでも入ってたら拾ってくのに。」
ワンは左右の道端をキョロキョロと見るが、もちろんそんなものが都合よく落ちている筈もなく、「やっぱ無理よね」とため息まじりに呟いた。
マ室長からテギョンとミナムが無事に遊覧船に乗ったと連絡が入り、ホッとするミニョ。
「マ室長もオッパ達と一緒に乗ったんですか?」
「フニにそんな芸当ができると思う?しっかりと船着場で見守っていたそうよ。」
テギョンとミナムはシヌ、ジェルミと合流し、A.N.JELLの演奏も無事に終わった。
ワンとミニョが遊覧船の船着場に近づくと、船が既に着いているのが見え、ついでに外でうろうろと歩き回っているマ室長の姿も見えた。
「おーい、こっちはとっくに準備OKだ、早くしないとおいてくぞ。」
大きく手招きをするマ室長。
「ミニョがいるのにテギョンがそんなこと許すわけないでしょ、そんなに急かさないでよ。」
「何でか知らないが、遅いって俺が怒られるんだ、とにかく早く乗ってくれ。」
マ室長と話をしていたワンは長い髪をなびかせ、くるりとミニョを振り返った。
「じゃあミニョ、乗るわよ。」
「はい?」
ワンに背中を押され、自分を船に乗せようとしていることが判ったミニョは慌てる。
「あ、あの・・・」
船が船着場に着いてからだいぶ時間が経っており、招待客はとっくに下船しているらしく、辺りにそれらしい人影は見当たらない。だからといって、なぜ自分が船に乗らなければならないのか全く判らないミニョの頭の中には、疑問符ばかりが浮かんでいる。
「ミニョ、早く。」
訳が判らず戸惑っていると、船の中から現れたテギョンに手を引かれた。
「オッパ、お仕事終わったんじゃあ・・・」
「ああ、だからミニョも乗るんだ。ほら、行くぞ。」
首を傾げたままのミニョに構うことなく、テギョンは船の中へとミニョを連れて行った。
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