歌番組の収録を終えたA.N.JELLのメンバーがテレビ局の廊下を歩いている。
早足のテギョンは他の三人よりもだいぶ前を歩いていた。
「相変わらずお忙しそうですね。」
一番後ろをチョコチョコと小走りで追いかけているマ室長に、すれ違った若いスタッフが声をかけた。
「俺は少し休みたいんだけどね。」
振り返りそう言うとマ室長は数メートル先を歩いているテギョンへと声をかける。
「おーい、テギョン、もう少しゆっくり歩いてくれよ。そんなに急いだって運転するのは俺なんだから意味ないぞー」
ピタリと歩みを止めたテギョンは踵を返すとメンバーの横を通り過ぎ、その後ろで荷物を抱えながらもたついていたマ室長の目の前に立ちはだかる。
「だったらもっと急いで歩け。」
そしてマ室長の服の襟をむんずと摑み、引きずるようにまた早足で歩き出した。
「いくら早く帰りたいからって・・・飛行機の到着時間まではまだ充分時間があるのに。」
「テギョンのヤツ、じっとしていられないって感じだな。」
「あ~、ラジオ番組さえなけりゃ、俺が迎えに行くのに~」
「ジェルミはバイクだろ?荷物はどうするんだよ。」
呆れ顔のミナムと小さく笑うシヌ、そして悔しがるジェルミ。
「おい、さっさと事務所へ帰るぞ。」
振り向き三人に声をかけるテギョン。
「テギョンの車は目立つぞ、代わりに俺が行ってやろうか?」
「断る。」
テギョンはシヌの言葉に即答すると口の片端を上げ、駐車場へとマ室長を引っ張って行った。
事務所のロゴの入っていない白い小さな車を借り、空港へと走らせる。
時折バックミラーで後続車を確認し、後をつけてくる車がいないかどうかチェックしながらスピードを上げていく。
心が浮き立つのを止められないテギョンは流れる景色を見ながらニンマリと笑いハンドルを握っていた。
普段からあまりよく眠れる方ではないが昨夜は特に眠りが浅かった。
まるで遠足に行く前夜の子供のように、朝が来るのが待ち遠しくて。
ベッドの中で何度も寝返りをうち、落ち着かない心に自分でも呆れる様に小さく笑いながらいつの間にか朝を迎えた。
アフリカに行っていた時に比べたらミニョが韓国を離れていた期間などほんのわずかな間なのに、ずいぶん長い間会っていないように感じられて。
この日の為に黙々と仕事をこなし、半ばマ室長を脅しながら手に入れた午後からのオフはテギョンが待ちに待っていた時間だった。
駐車場に車を停めたテギョンは大きく伸びをするとサングラスをかけた。少し倒したシートに身を沈め、どれくらい経った頃だろうか。テギョンの携帯が鳴った。
「ああ・・・そうだ・・・そこにいる・・・」
短い会話の後待つこと十数分。
スーツケースを引きずるミニョの姿が見えた。
テギョンはサングラスをかけたままシートを起こし、徐々に近づいて来たミニョに口元を緩めながら車内に留まった。
車の中にいるテギョンをミニョが見つけ、窓をコンコンと叩いた。
テギョンが車から降りる。
「オッパ!」
抱きついてくるミニョ。
「こら、しがみつくなよ。そんなに俺に会いたかったのか?」
「はい、すご~く会いたかったです。」
潤んだ瞳でテギョンを見つめそっと瞼を閉じるミニョの頬をテギョンは両手で挟むとゆっくりと唇を合わせ・・・
と、テギョンの頭の中では甘~い再会のシーンが映画のように上映されているが、現実のミニョは辺りをキョロキョロと見回しながら暫く近くをうろつき、やがてテギョンの乗る車の横を通り過ぎて行った。
「あいつ・・・気づけよ。」
車の中にいる自分をミニョが見つけると思いじっと待っていたのに、気づかずにすぐ横を通り過ぎて行ったミニョにテギョンは思いっきり口を尖らせた。
「おい、どこまで行く気だ?」
戻って来る様子のないミニョにしびれを切らし、テギョンはドアを開け車から降りると遠ざかる後ろ姿に声をかけた。
振り向いたミニョはテギョンを見つけると慌てて引き返してくる。
「オッパ、ただいま。迎えに来て下さってありがとうございます。」
満面の笑みでテギョンの目の前に立ちペコリと頭を下げるミニョにテギョンは腕組みをして眉間にしわを寄せた。
「どうして通り過ぎて行くんだ?普通気づくだろう、俺はちゃんと近づいて来るお前に気づいてたぞ。」
「え?そんなこと言われても・・・オッパ!この車ですか?私いつもの車だと思ってずっと青い車を探していたんですけど・・・」
テギョンの後ろには青のアウディではなく、白い小さな車が停まっている。
テギョンは電話で車の場所は伝えたが、今日は事務所の車だということを伝えていなかった。
「これではすぐに見つけるのは無理です」と文句を言うミニョの口はテギョンの唇によって塞がれた。
柔らかな唇はすぐに離れていく。
一瞬の出来事にミニョは瞼を閉じる間も与えられず突っ立ったまま。
「その方がテジトッキらしいな。」
テギョンは驚いた表情のミニョを見てクッと喉の奥で笑う。
「早く乗れ、置いて行くぞ。それとも・・・もう一度ここでキスしようか?」
甘く響く低い声・・・
その場で固まっていたミニョはテギョンに耳元で囁かれるとハッとして赤い顔で慌てて助手席に乗り込んだ。
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