魔法の言葉 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

番外編です。


番外編 『遠くない未来?』 のあとがきで、アメ限番外編の 『幸せの味-はんぶんこ-』 を引きずった話・・・とありますが、あの時書きかけだった話を完成させたのがコレです。


ある方からいただいたメッセージを読んで妄想が膨らんで、途中で止まっていた下書きを書き上げることができました。



私の書く番外編・・・「本編よりも未来のお話です」と書くことが多いのですが、テギョンとミニョの関係ってあまりはっきり書いていないのが多いですよね。

一緒に住んでいるのか住んでいないのか、結婚しているのか結婚していないのか・・・

(私の頭の中ではこの話の時はこう、とはっきりしてるんですが)


今回のお話も本編よりも未来の話ですが、そこのところがはっきりと判る言葉が出てきます。


気づくかな?



では、最後までお楽しみ下さい。



☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



A.N.JELLにCMのオファーが来た。 商品は洋酒入りのチョコレート。

小さな四角いチョコの中にとろみのある洋酒が入っている。

アルコール分4%

パッケージには 『お子様やアルコールに弱い方、妊娠・授乳期の方、運転時などはご遠慮ください』 という注意書きが入る大人向けのチョコレート。


キャッチコピーは 『大人の口どけ とろける想いをあなたに』






「フッフッフッ・・・これって俺達の為にあるようなCMじゃ~ん。」


ミナムがちょこっと背伸びをしながらジェルミの肩に腕を回した。


「本当だ~、やったーっ!チョコ、チョコ~♪」


ミナムと肩を組みながらジェルミも大喜びではしゃぐ。


「これって洋酒が入ってるんだろ?ただ甘ったるいだけじゃないならイメージ的にも俺の方が似合うんじゃないか?」


シヌがパッケージを見ながら微笑む。


「A.N.JELLの仕事だからな、似合う似合わない、好き嫌い関係なく全員食べてもらうことになるぞ・・・いいな、テギョン。」


念を押すようなマ室長の言葉はテギョンに向けられていた。


甘い物があまり得意ではないテギョン。大人向けだろうが酒が入っていようがチョコレートには変わりない。

食べずに済むのなら是非そうしたいところだが、そうもいかないようだ。

テギョンはパッケージに描かれた甘そうなチョコを見ながら、これも仕事だから仕方ないとため息をついた。


そしてCM撮影。

テギョン以外のメンバーは監督のイメージ通りの撮影ができ早々と仕事を終わらせた。


「あ~あ、もうちょっと食べたかったのになぁ、俺の上手すぎる演技がそれを許してくれなかった。」


「それでもわざとNG出して食べてただろ?俺にはちゃーんと判ってるよ。」


ミナムとジェルミの会話にテギョンは頬を引きつらせる。


「お前達・・・それは嫌味か?」


口の端をピクピクと動かしながら二人を睨みつけるテギョンは、口の中の甘い味を何とかしようとペットボトルの水を飲む。


「おーい、三人とも、次の仕事があるだろう、早く車に乗ってくれ。テギョンは・・・ハァ・・・仕方ない、置いて行くか。」


一人撮影の終わらないテギョンをその場に残し、マ室長は他のメンバーを連れて次の現場へと向かった。


「置いていくか、だと?・・・チッ!だいたいこんな甘い物を笑顔で食べろと言う方が無理なんだ。こういうのは好きなヤツが食べるのが一番いい表情が出来る・・・」


マ室長の言葉に顔をしかめたテギョンだが、不意に何かを思いついたらしく口の片端を微かに上げると携帯を取り出し電話をかけた。

暫くしてテギョンの前に現れたのは・・・


「オッパ、急用って何ですか?」


テギョンに呼び出され、急いでやって来たミニョだった。


テギョンはニンマリと笑うと監督のもとへ行き、何やらコソコソと話し出す。


「そりゃあこっちは構わないが・・・奥さんOKしてくれるのか?」


「俺がちゃんと説得します。その代わり、ミニョの顔は映さないで下さい、口元だけとか後ろ姿にして・・・絶対に誰だか判らないように。それと撮影スタッフも極力少なくして下さい、お願いします。」


頭を下げるテギョンに監督は判ったと頷くと、近くにいたスタッフに指示を出した。

首を傾げキョトンとテギョンを見るミニョはスタイリストに連れ去られ、


「えっ?」


着替えをさせられ、


「ええっ??」


メイクを施され、


「えええ~っ???」


何が何だか判らないうちに再びテギョンの前に連れて来られた。


「あ、あの、オッパ、これって一体・・・」


フワフワとした赤いドレスに身を包んだミニョはハッキリとはしないまでも、何となく嫌な予感がしてオドオドとテギョンを見上げる。

テギョンはそんなミニョの不安な瞳を安心させるかのようにニッコリと笑みを浮かべた。


「CM撮影だ、俺と一緒に出てくれ。顔は写らないようにするから、ミニョはチョコを食べてくれればいい。」


「チョコ?」


「そう、チョコ・・・はんぶんこだ。」



はんぶんこ?



ミニョの耳に口を寄せ囁くように言ったテギョンの台詞をしばし頭の中で考えていたミニョだったが、次の瞬間、見事に顔を真っ赤にさせ口を手で覆い隠した。


「ダ、ダ、ダメですっ!そんなこと出来ませんっ!!」


はんぶんこ。

それは一つのチョコをキスをしながら二人で食べるという二人だけの秘密の言葉。


思いっ切り首を横に振るミニョにテギョンは真剣な眼差しを向ける。


「ミニョ、これは仕事だ、俺一人が上手くできない為に撮影が長引いてる。俺が皆に迷惑をかけてるんだ。俺の仕事にミニョを巻き込んで申し訳ないと思う、でもミニョが一緒に出てくれればすぐに終わらせる自信がある。頼む、協力してくれ。」


痛いくらい真剣な眼差しは絶対に無理だと拒否をしたミニョの心をぐらつかせる。


「・・・お仕事・・・ですか?」


「ああ、仕事だ。」


テギョンはミニョから視線を外さずこっそりと自分の腿をつねって笑みが浮かんでしまいそうになるのを堪えた。

ここで笑顔を見せてはいけない。


上目遣いでじっとテギョンを見つめるミニョ。

暫くそのまま見つめ合っていた二人だが、ミニョがテギョンから視線を逸らし俯くと、ゆっくりと大きく息を吐いた。


「・・・判りました。皆さんにご迷惑はかけられません。このままだとオッパが悪く思われちゃいますね。」


俯いたままのミニョを見下ろすテギョンの口は徐々に両端が上がっていく。


「ありがとう。」


思わずガッツポーズをしてしまいそうになる両手を精神力で抑え込み、ミニョの肩に優しく置いた。






テギョンが監督に合図を送ると中にいたスタッフの何人かがスタジオの外へ出て行き、撮影に必要な最低限の人数だけが残された。

カメラが回され、いつでも始めてOKという指示が監督から出される。


手にチョコレートの箱を持ったテギョンがミニョに近づく。

向き合うテギョンとミニョ。

ミニョは俯いたままじっと身体を硬くしていた。


「緊張してるのか?」


「あ、当たり前です。」


家で二人きりの時ならまだしも、人前で、しかもカメラの前でとなると、いくらテギョンの為にと覚悟を決めたミニョでも緊張で身体が動かない。


「わ、私は、撮影とか不慣れなので、凄くドキドキして・・・それに人前でなんて、恥ずかしいし・・・」


人数が少なくなったとはいえ、スタッフとカメラが気になり、ついそちらの方をチラチラと見てしまう。

苦しいくらい激しく脈打つ鼓動に、息をするだけで精一杯の様子のミニョの身体をテギョンが優しく抱きしめた。

そのまま自分の胸にミニョの頭を押しつける。


「俺だってドキドキしてるだろ?」


ミニョがテギョンの胸に耳を当てると自分と同じくらい速い鼓動が聞こえてくる。


「オッパも緊張してるんですか?」


「ああ、俺はお前に触れているだけで・・・触れたいと思っただけでこうなる。お前は?撮影だけが原因か?」


「私は・・・オッパがはんぶんこなんて言うから・・・キス・・・すると思ったら、ドキドキして・・・こうして触れていると、もっとドキドキして。でも・・・この温もりは何だか落ち着きます。」


ミニョは目を瞑り、テギョンの背中へとそっと手を回す。テギョンの胸の鼓動の音を聞き、二度、三度と深呼吸をしてからおもむろに顔を上げた。

二人の視線が絡まる。


「俺だけ見ていればいい・・・」


テギョンはチョコレートを一粒つまみ、自分の口へと入れる。

そしてゆっくりと溶けていくチョコを少しだけ味わうと、ミニョの顎に指をかけ唇を重ねた。


ミニョはテギョンに言われた通り、テギョンだけを見ていた。そうしなければ恥ずかしくて、とてもカメラの前でなどキスできない。

目の前のテギョンがチョコを口に入れ、顔が近づいて来たところでそっと瞼を閉じた。


唇に触れる柔らかな感触。

合わさった唇から少し溶けたチョコが押し込まれる。それはミニョの口に入った途端ふんわりと崩れ、中から洋酒がトロリと溶けだした。

甘いチョコとほろ苦い洋酒の味が口の中に広がっていく。

その洋酒の微かな苦味を一緒に味わおうとでもするように、テギョンの舌がミニョの舌に絡みつく。

トロリとしたチョコと洋酒がねっとりとした舌で掻き混ぜられる。

すっかり溶けきったチョコを唾液と一緒にゴクンと飲み込むと、ミニョはようやくテギョンの舌から解放された。


唇が離れる感触にうっすらと瞼を開ける。

テギョンは既に潤み始めているミニョの瞳に、まだまだこれからだぞと笑みを浮かべると、チョコを一粒つまみ今度はミニョに咥えさせた。

艶やかな赤い唇から僅かに覗く白い歯がチョコレートを挟んでいる。その奥で微かに蠢く舌はまるでテギョンを誘っているかのように見えた。

半開きの瞼から切なげにテギョンを見つめる瞳。

自分がさせたこととはいえ、艶めかしく扇情的な表情に、このままミニョの全てを味わいたい衝動に駆られる。

しかし今は撮影中だと必死に自分の情欲をを抑え込み、テギョンはチョコレートを奪い取るようにミニョの唇を食み、二人の間で溶けていくチョコとミニョの唇を味わった。


一つ、また一つとチョコが二人の口の中で溶ける度、ミニョの思考も溶けていく・・・

もはやここがスタジオだとか、今はCMの撮影中だとかいうことはミニョの頭の中からすっかり消え去っていた。


テギョンしか見えない。


少しだけ意地悪に、楽しそうに妖しい笑みを浮かべている愛しい人には抗えず、求められるまま唇を差し出す。

テギョンの胸に置かれていたミニョの手は撮影が終わる頃には縋りつくようにジャケットの襟を握りしめていた。






A.N.JELL出演のチョコレートのCMが今日オンエアーされる。


「ねえねえ、結局テギョンヒョンのって俺達三人のとはイメージが違うからって、急遽一人別バージョンのCM撮ったんだろ?やっぱりさぁ、いくらテギョンヒョンでもチョコレート食べながら女の子を蕩けさせるような甘~い笑顔って出来なかったんだね。」


ジェルミが冷蔵庫からジュースを取り出し、ゴクゴクと飲みながらリビングのソファーへ座った。


「テギョンは甘い物は苦手だからな。撮影も長引いたみたいだし、事務所にも寄らずにそのままマンションに帰ったくらいだから相当苦戦したようだな。」


「テギョンヒョンの笑顔はミニョ限定ってとこがあるし、それに洋酒入りのチョコレートだろ、食べ過ぎて悪酔いしたんじゃない?」


シヌとミナムもテレビの前に座っている。

自分達のCMの出来も気になるが、テギョンのCMがどんな風に仕上がっているのか興味津々の三人はリビングに集まってCMが始まるのを待っていた。


「あ、そろそろ時間だ。」


CMのオンエアー時刻になり、ジェルミがテレビをつけた。






同じ頃、マンションのリビングではミニョがクッションを抱え、そこからチラチラと覗くようにじっとテレビを見ていた。


「ああ、そうか、例のCM今日からだったな。」


青いビンを持ったテギョンがミニョの隣へ座った。


「ああ、ちゃんと顔は隠してあるな・・・うん、まあ、いい出来じゃないか。」


ゴクゴクと水を飲むテギョンの横ではミニョがクッションに埋めた顔を真っ赤にしている。

テレビには優しく微笑みながらチョコを口に含むテギョンと口づけを交わす女性が映っていた。


カメラマンの腕の良さか、編集の仕方が上手いのか。決して軽いキスではないが濃厚というよりも、美しく仕上がっている映像にテギョンは満足気に頷く。

女性の顔は隠れていてハッキリとは映っていないが、身に覚えのあるミニョは自分とテギョンのキスシーンがテレビで流れていることに今さらながら恥ずかしさで息もできない。


撮影の後半はチョコレートに包まれていた洋酒のせいか、頭の中がぼんやりとして記憶が曖昧だったミニョ。どうやってマンションまで帰って来たのかも憶えておらず、気が付いた時にはベッドの中ですやすやと眠るテギョンに抱きしめられていた。

何も身に纏わずに・・・


「ああ、最後のアレはカットしたのか、残念だな。ミニョ、憶えてるか?撮影の終わり頃、色っぽい顔でお前の方から俺の首に手を回してキスしてきたのを。あれには皆驚いていたようだが・・・酒に酔うとこうですよって言っておいた方がよかったか?」


ニヤリと笑うテギョン。


ボスッ!


ミニョが抱えていたクッションをテギョンへ投げつけた。


テギョンの為にと思って撮影に協力したが、記憶のない間に自分がどんなことをしていたのかを想像すると、あまりの恥ずかしさに涙がにじみ出てくる。


「オッパのばかっ!」


「お、おい、こら・・・ハハハ、いて、いてて・・・」


テギョンは真っ赤な顔でポカポカと胸を叩くミニョの両手を笑いながら摑んだ。


「本当のことだろ?あんな場所であんな表情をさせるつもりはなかったし、誰にも見せたくはなかったが・・・俺は嬉しかったんだからいいじゃないか。」


真っ赤な顔で恨めしそうにテギョンを見つめるミニョは可愛くてついからかいたくなる。しかし自分の為にカメラの前に立ってくれたことを思うとあまりいじめては可哀想だとも思う。


テギョンはミニョの目尻に光る涙の雫をそっとキスで拭い取り、額にも口づけをするとミニョの瞳をじっと見つめた。


「悪かった、もうミニョにあんなことさせないから。だからまた今度二人きりの時に・・・・・・はんぶんこしような。」


最後の言葉はミニョの耳元で。


耳に息を吹きかけるように囁かれる甘い声に、あんなことさせて・・・と怒っていたミニョの身体から力が抜けていく。


はんぶんこ・・・その言葉を耳元で囁かれただけで、キスだけでは終わらない・・・その先にある全身が震えるほどの甘い痺れを与えてくれるテギョンへの期待で、ミニョの胸はドキドキと高鳴る。


『はんぶんこ』


二人だけの秘密の言葉は、いつしかミニョの身体を熱くさせる魔法の言葉へと変わっていった。




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すっかり力の抜けたミニョの身体をソファーに組み敷くと、テギョンは視線を逸らすミニョの顔を上から見下ろした。


「不満そうだな、その顔は・・・ああ、判った、また今度、じゃ嫌か。」


喉の奥でクッと小さく笑うと口の片端を上げる。そのままテーブルへと手を伸ばし、そこに置いてあった箱を摑むと中から取り出したチョコをミニョの前でつまんで見せた。


「今からはんぶんこするかしないか、お前が選べ。嫌ならそのまま口を閉じていればいい、俺は何もしない。はんぶんこするなら口を開けろ、チョコを入れてやる。そのかわりその後は・・・」


テギョンはそこで言葉を止めた。その先は言わなくても判るだろ?とテギョンの顔が言っている。


ミニョの鼓動が一段と速くなる。


ニヤリと笑うテギョンを見上げミニョの瞳が揺れる。


そしてミニョは口を・・・




 ― FIN ―



。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆ 。.:*゜゜*:..☆



ミニョは口をギュッと閉じた。


ミニョは口をゆっくり開いた。



どちらになったのか・・・この先は皆さんの妄想にお任せします(笑)



ちょっといつもと変わった試みですが・・・・・・ここまで読んで下さった方、どれくらいいらっしゃるのかな?


最後まで読んで下さってありがとうございました。