ソユンとシヒョンの追求から逃れるように慌てて店を出てしまったミニョだったが、申し訳ないと思う反面、心の中はウキウキと何だか楽しい気分だった。
あんな風に誰かと好きな人の話をしたのは初めてで、それが楽しくて。
「あとでちゃんと謝っておかなくちゃ。」
携帯を取り出しソユンとシヒョンのアドレスを見ながら笑みを浮かべるとテギョンへと電話をかけた。
ミニョがジュースと間違えてお酒を飲んでしまったことを聞いたハン・テギョンは店を飛び出しミニョを捜していた。
飲食店が多く立ち並ぶ道をキョロキョロと辺りを見回しながら歩き続ける。
ミニョを追うつもりはなかった。
ただ気が付いたら席を立ち、店を出ていた。
酒に弱いミニョ。弱いといってもたかがグラス一杯の果実酒。ソユンの話ではそれ程アルコールはきつくないという。
しかし気になって仕方がなかった。
ミニョの前に現れても気まずい思いをさせるんじゃないかと思いつつ、目は、身体は、ミニョを捜し動き回る。
賑やかな通りを抜け、人通りの少ない道まで来ると、さすがに自分でも何をしているんだろうと我に返り苦笑いを浮かべた。
ため息をつき、そろそろ店に戻ろうかと踵を返した時、どこからか澄んだ歌声が聴こえてきた。
「Ave Maria Ave Maria ・・・」
クラシックなどほとんど聴いたこともないがこの歌は聞き覚えがある。
アフリカの夕焼けの中でミニョが歌っているのを聴いた。
あの時のように想いを解き放つような歌い方ではない。小さく囁くような優しい声。
ハン・テギョンが辺りを見回すと道路の反対側で街路樹にもたれかかって俯いているミニョの姿が見えた。
暗がりの中、近くの街灯の明かりがまるでスポットライトのようにミニョの身体を照らしている。
行き交う車の音に時折掻き消されながらも緩やかな夜風にのって届いてくる優しい声。
足が動かなかった。
ミニョを見つけたら、大丈夫?と声をかけようと思っていたのに、近付くことができなかった。
その空間だけがまるで別世界のように輝いて見え、自分が近付けばこの美しいシーンが壊れてしまいそうで、ミニョが歌い終わっても近付くことができなかった。
ほんの数メートル先の存在に近付けない。
その場に立ちつくし、道路の向こう側にいるミニョを見つめていると、ミニョの近くにスッと一台の青い車が停まった。車から降りてきた男は何の躊躇もなくスポットライトを浴びるミニョの傍へと近寄る。
男がライトの下に立つとミニョは俯けていた顔を上げた。そして極上の笑みを見せると二人は寄り添いながら車へ乗り込み、ハン・テギョンの視界から消えて行った。
スポットライトに見えていたその光はただの街灯の明かりへと戻る。
「アウディ君の登場、か・・・」
ハン・テギョンは先程までミニョが立っていた場所を見つめゆっくりと大きく息を吐くと、両手の拳をぐっと握りしめた。
「どうだった、楽しかったか?」
ミニョを迎えに来たテギョンは車に乗り込むとマンションへと向かう。
「はい、ソユンさんともシヒョンさんともたくさんお話できてとっても楽しかったです。」
「そうか、よかったな。・・・で?何か俺に報告することはないか?」
報告すること・・・
何故テギョンが突然そんなことを言い出したのか、何を聞きたがっているのかは判らないが、ミニョはハン・テギョンが同席したことを思い出す。
「それは・・・お家に帰ってから話しますね・・・」
俯くミニョを横目で見るとテギョンは口元を歪ませ車を走らせ続けた。
部屋へ入るとテギョンはミニョをソファーへ座らせる。グラスに冷たいミネラルウォーターを注いでリビングへ行くとミニョは携帯をじっと見つめていた。
「オッパ・・・私・・・お酒、飲んじゃったみたいです。」
「はあ?」
「今、ソユンさんから・・・私、帰り際に自分のジュースとソユンさんの果実酒間違えて飲んだって。大丈夫?ってメールが・・・」
驚いたように携帯を見つめているミニョを見てそれまでずっと不機嫌そうに眉間にしわを寄せていたテギョンが口元に拳を当てクックッと笑い出した。
「ミニョ・・・お前、今まで気付かなかったのか?」
なおも堪えた笑いを続けるテギョンにミニョはキョトンとした顔を向ける。
テギョンはミニョを迎えに行った時から気付いていた。
街路樹に寄り掛かっていたミニョはうっすらと頬を赤く染め、ニコニコと笑みを浮かべていた。
車に乗るまでのほんの数メートルを歩くのにも少しふらつき、テギョンにもたれ掛かる。
車に乗っているとミニョの息から微かにアルコールの匂いがし、トロ~ンとした瞳でシートに身体を沈めていた。
食事をしていて酒を勧められ、断ることができずに飲んでしまったのかと思った。
『報告することはないか?』
酒を飲むなと言っておいたのに、飲んでしまったミニョにそのことを言わせようとして口から出た言葉。
まさか飲んだことに気付いていなかったとは・・・
「酔ってふらついてるのに、気付かなかったのか?」
ミニョも何となく身体の異変には気付いていた。でもまさか自分でも気付かないうちに酒を飲んでいたとは思いもよらなくて。
「貧血かと思ってました。」
真顔でキッパリと言うミニョに、とうとうテギョンは声を出して笑い出した。
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いつのまにやら200話に。
まさかこんなに続くとは思ってなかった(笑)
これもひとえに読んで下さる皆様方のおかげと日々感謝しております。
ああ、それにしても話の進展が遅い?(笑)
私の話、過去を振り返ることが時々あるので、その度に以前書いた話を読み直して矛盾が無いようにしているんですが、もしヘンなとこ見つけたら・・・そのままスルーして下さい(笑)
もちろん、こ~っそり教えて下さってもいいのですが、直せないかもしれないので・・・
十分気を付けてはいるのですが、ほら、年齢と共に記憶力が・・・って、歳のせいにしちゃいけませんね。
はい、気を付けます。
少しずつテギョンとミニョの結婚に近付いてきました。
ほんと~に、少しずつですが(笑)
最後までちゃんと書けるか?最後ってどこ?
自分でもどこが終わりなのか判りませんが、取り敢えず妄想が続く限り書き続けたいと思います。
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